VOCA展2024 現代美術の展望ー新しい平面の作家たちー | パラレル

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上野の森美術館で開催中の「VOCA展2024 現代美術の展望ー新しい平面の作家たちー」へ行って来ました。


今回で31回目となるVOCA展。

The Vision of Contemporary Artの頭文字をとってVOCA展と呼ばれる本展は、全国の美術館学芸員、研究者などに40歳以下の若手作家の推薦を依頼し、その作家が平面作品の新作を出品するという方法により、毎年全国各地から未知の優れた才能を紹介している現代美術展です。

 

本展には、油彩、日本画、木炭画、版画、写真、映像、さらにはそうした複数の素材や技法を組み合わせたインスタレーションなど、近年の美術の動向を反映した31作家の様々なタイプの作品が出品されます。

この中から選考委員5名の審査によってVOCA賞1点、VOCA奨励賞2点、VOCA佳作賞2点が選ばれました。

また、大原美術館の選考により大原美術館賞1点が選ばれています。

 

会場で目に入った、これはという作品は、しまうち みか《We are on fire わたしたちは最高》です。

檳榔が茂る暗闇から、炎に誘われ現れた者たち。

異界との交歓が祭りとして息づく土地は、日常と非日常が隣り合わせです。

南九州地方の来訪神とともに描かれたアメリカンキャラクターは、同盟国アメリカの大衆文化に憧れ親しんできた典型的な日本人を象徴します。

土地固有の手触りのある生を肯定的に塗り込め、照射しています。


しまうち みか《We are on fire わたしたちは最高》

 

ヌケメ《WORLD MAP♡》も観ておきたい作品です。

服飾やファッションの領域を出自とするヌケメは、布地に刺繍を施した作品を発表しています。

ミシン用の刺繍データを書き換え、意図的にエラーを引き起こす「グリッチ刺繍」で制作するのは、企業ロゴで見る世界地図です。

崩壊しているように見える企業ロゴや人気キャラの刺繍は、笑いを誘発すると同時に、資本の偏りという笑えない事実を想起させます。


ヌケメ《WORLD MAP♡》

 

そして、本展で最も良いと思った作品が、大東 忍《風景の拍子》です。

大東は見知らぬ辺境地を一人で歩き、静かに、暗がりの中で踊ります。

それは「風景を踏みならす」実践であり、自身が踊る光景をもとに、木炭画を描くプロセスの一部でもあります。

木炭の濃淡によって示される世界像は、想像と現実、固有性と匿名性、主体と環境の関係を揺るがし、風景に潜む未知のリズムを浮かび上がらせます。


大東 忍《風景の拍子》

 

片山真理[左]《red shoes#003》[中]《red shoes#001》[右]《red shoes#002》は、つい見入ってしまう作品です。

セルフポートレートの足の付け根からは、自らの手をモチーフとしたオブジェが木の根のように広がります。

幼い時に両足を失った片山にとって手は時に足の役割も担います。

障害の有無を超え選択の自由を求める片山の「ハイヒール・プロジェクト」のためにセルジオロッシが製作した義足用ハイヒールは、片山をさらに新しい世界へ誘います。


片山真理[左]《red shoes#003》[中]《red shoes#001》[右]《red shoes#002》

 

2階に上がると、堤 千春《Suppress》が出迎えてくれます。

現代に生きる我々は、様々な外的抑圧に晒され理想自己を形成しようと必死です。

描かれた嘘くさい表面的な人物像は、精一杯周囲の期待に応えようとしています。

しかし完璧な人間などいるはずはなく、不完全で他者と考え方も感じ方も異なるのが人間です。

そんな人間らしさを認め合う共存の場を自由な児童画の線で表現しています。


堤 千春《Suppress》

 

東山詩織《Formation Chart》は、一つ一つ丹念に観てしまう作品です。

東山は自己を守るとは何かを問い、自他の境界を生むモノや行為を記号的モチーフとして、異なるスケールとパースが入り混じった複雑な絵画空間を描いてきました。

組合された多くの場面が幾何学的対称を織り成す本作では、隔たりがもたらす安らぎや孤独などの心理、他者との交わりや対立といった関係性が多義的に描かれています。


東山詩織《Formation Chart》

 

斉藤思帆《Between Past and Future》は、一見して興味を持つ作品です。

燃え盛る海岸の炎を描いたモノタイプ。

横たわる男性像のレリーフ。

粘土で出来たくじら。

タイトルが印字されたガラス。

これらのオブジェは、それぞれの物語を仄めかしつつも、決してその詳細は明かされません。

斉藤は既存の写真などを基に作品を制作します。

元の文脈から切り離された画像は、意味を消失したオブジェとなり、私たちの目の前に唐突に差し込まれます。


斉藤思帆《Between Past and Future》

 

このように、今回の傾向としては、自らの身体や関わりのある土地を意識し、そこを起点に自分と世界とのつながりを考え、表現を深めていく作品が多く見られます。

未知の作品との出会いを楽しんでみませんか。

 

 

 

 

 

 

 

会期:2024年3月14日(木)〜3月30日(土)※会期中無休

会場:上野の森美術館

   〒110-0007 東京都台東区上野公園1-2

開館時間:10:00〜17:00

   ※入場は閉館30分前まで

主催:「VOCA展」実行委員会、(公財)日本美術協会 上野の森美術館

特別協賛:第一生命保険株式会社