お雛さまと日本の人形 | パラレル

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東京国立博物館で開催中の「お雛さまと日本の人形」展へ行って来ました。

 

3月3日は桃の節句。

雛飾りの華やかさに心が和む、お雛さまの季節です。

罪や穢れを人形に託して水に流した古代の風習や、平安貴族の子どもたちが行った「ひいな遊び」などが、ひな祭りに発展したと考えられています。

祈りを託し、時に一緒に遊ぶという人形のあり方は江戸時代に引き継がれ、女の子のためにお雛さまを飾る行事が全国的に定着しました。

 

本展は、京都の老舗人形店である丸屋大木平蔵が有職装束を精巧に写した有職雛の名品のほか、京都の名産として知られ、仏師が内職として始めたといわれる嵯峨人形、宮廷のお土産人形として知られる御所人形などを展示しています。

 

会場入ってすぐに目に入るのは、《嵯峨人形 首振り》です。

犬を片手に持つ男の子の姿。

盛り上げ彩色の技法を駆使して落ち着いた地色に金を多用した豪華な模様が衣裳全体に描き込まれています。

首が前に傾くごとに舌が飛び出る仕掛けで、奇妙な面白さがあります。

同様の作例がいくつか見られ、江戸時代に流行したことがうかがえます。


《嵯峨人形 首振り》(江戸時代 17世紀)東京国立博物館

 

《嵯峨人形 遊女立姿》は、兵庫髷を結い、褄を取り片手を懐に入れて凛と立つ遊女の姿です。

どの角度から見ても見事な造形で、衣裳には白梅と細やかな鹿子絞の雪輪模様が表され、帯を前結びにしています。

18世紀前半頃の浮世絵をそのまま立体化させたかのような作品です。


《嵯峨人形 遊女立姿》(江戸時代 18世紀)東京国立博物館

 

幼児を災厄から守る形代(身代わり)として宮中に伝えられ、江戸時代には上級の武家にも広まった《天児》も紹介されています。

頭部は絹に皺を寄せて包んだかたちで、長寿の願いが込められています。

身体は丁字形に丸木を組んでおり、本作の場合は麻の帷子をまとっています。


《天児》(江戸時代 19世紀)東京国立博物館

 

そして、出雲松江藩の藩主であった松平家に伝来した雛道具である《三つ葉葵紋蒔絵雛道具》という珍しい作品も展示されています。

本式の婚礼調度をどこまでも精巧に作らせた雛道具には、いずれにも三つ葉葵紋の金蒔絵が施されています。

大名家の婚礼道具をそのまま縮小したような、豪華な品揃えが圧巻の作品です。

 

《三つ葉葵紋蒔絵雛道具》(江戸時代 19世紀)松平直亮氏寄贈 東京国立博物館

 

柳や黄楊などの木材を彫ってかたどった人形に、縮緬や金欄などの裂をかぶせた木目込み人形である《賀茂人形 内裏雛》も見どころです。

一説には、文元年間(1736〜41)に京都の賀茂神社の雑掌・高橋忠重が、柳筥を作った木っ端を使って制作したのが始まりといわれます。


《賀茂人形 内裏雛》(江戸時代 19世紀)東京国立博物館

 

《御所人形 笛吹き童子》は、特に御所(宮廷)で愛好されました。

明治から昭和初期にかけて活躍した浮世絵師、日本画家であった尾竹越堂がかつて愛玩していた御所人形です。

童子形の小さな人形は特に「つくね」と称され、手に吉祥にちなんだものを持つ特徴があります。


《御所人形 笛吹き童子》(江戸時代 19世紀)尾竹越堂氏寄贈 東京国立博物館

 

また、《御所人形 能人形》は、厚板を着て半切と称される袴をはき、藤立涌模様の錦の法被を羽織り、腰帯を欠くものの、能装束を着用した御所人形です。

いずれの謡曲を見立てたのかは不明ですが、能の登場人物に見立てて、能装束をまとうこのような御所人形も数多く作られました。


《御所人形 能人形》(江戸時代 19世紀)東京国立博物館

 

このように、日本では、諸外国に例がないほど多彩な人形文化が発達し、確かな技術を持つ職人たちの手によって、芸術的にも完成度の高い人形が、武家や公家ばかりではなく、庶民の間でも広く愛されました。

これら人形の数々を通して、繊細で美しく、そして可愛らしいものを尊ぶ日本の美意識を感じてみませんか。

 

 

 

 


 

 

 

会期:2024年2月27日(火)〜3月31日(月)

会場:東京国立博物館 本館 14室

   〒110-8712 東京都台東区上野公園13-9

開館時間:9:30分〜17:00

   毎週金・土曜日は〜19:00

   (入館は閉館の30分前まで)

休館日:月曜日(ただし月曜日が祝日または休日の場合は開館し、翌平日に休館)