特別企画展 日本画の棲み家 | パラレル

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泉屋博古館東京で開催中の「特別企画展 日本画の棲み家」へ行って来ました。


明治時代における西洋文化の到来は、絵画を鑑賞する馬に地殻変動をもたらしました。

展覧会という制度が西洋から輸入され、かつて床の間に飾られていた日本絵画は、床の間という「棲み家」がありながらも展覧会場を新居に定めました。

展覧会という場で鑑賞されるようになり、気が付けばすでに床の間という場には相応しくない「かたち」へと変貌していました。

 

一方、泉屋博古館に収蔵されている日本画は、それと逆行するように邸宅を飾るために描かれたもので、「柔和な」性質と「吉祥的」内容を備えています。

本展は、かつて住友の邸宅を飾った日本画とその取り合わせを展観し、床の間や座敷を飾る日本画の魅力を収蔵品から紹介するものです。

 

展覧会の構成は以下の通りです。

 

第1章:邸宅の日本画

第2章:床映えする日本画

第3章:「床の間芸術」を考える

特別展示:住友と床の間(第4展示室)

 

第1章では、かつて日本にあった「暮らしの中の日本画」を展観します。

今尾景年《富士峰図》(明治後期〜大正時代 20世紀 泉屋博古館東京)は、威風堂々とした富士の山容を、墨の濃淡を駆使して描いています。

富士は歌枕や霊山として連綿と描かれてきた画題です。

山頂から麓にかけて広がる山容は「末広がり」として子孫繁栄や商売繁盛、また「富士」は「不死」「無事」に通じることから、長寿を寿ぐ縁起物とされました。

 

木島櫻谷《雪中梅花》(大正7年(1918) 泉屋博古館東京)は、初春の吉祥を表す屏風として愛好されてきた作品です。

桜は厳しい寒さの中で百花に先駆けて花開き、たくさんの実をつけることから吉祥の花とされました。

木島櫻谷は四条派の流れを汲む今尾景年に学び、官展の花形作家として写生を基調に情趣ある作風が人気を博しました。

住友家の依頼によって描かれた四季連作屏風のひとつです。

 

扇形をした作品である、滝和亭《扇面画帖》(明治33年(1900) 泉屋博古館東京)も紹介されています。

滝和亭は没骨彩色による写実的で濃麗な花鳥画を得意とし、旧派の重鎮として活躍、のちに帝室技芸員となります。

本作は、和亭が亡くなる前年に描いた最晩年の作。

各扇面には折れ跡があり、かつては扇子として仕立てられていたことが分かります。

四季折々のモチーフを老錬な筆さばきで描かれ、頁をめくれば室内に居ながらにして四季の移ろいを感じることができます。

 

第2章では、明治以降庶民の邸宅に普及した床の間において、どういった作品が映えるのかという当時の流行を紹介しています。

尾竹竹坡《寿老図》(明治45年(1912)頃 泉屋博古館東京)は、住友家が購入したもので、表向きの床の間に飾られたものと思しい作品です。

豊かな白髭を蓄えた寿老人は、経巻をつけた杖を右手に携え、左脇には鶴を伴っています。

寿老人は、中国・宋代(11世紀)の道士で、寿命を司る南極星(カノープス)の化身とされます。

日本では七福神の一人であり、古くから延年寿命の吉祥画題として広く親しまれてきました。

 

橋本雅邦《出山釈迦図》(明治20年代初頭(1887〜92) 泉屋博古館東京)は、断食など6年間の長い修行を終えた後に、苦行では悟りを得られないと知って山を下りた釈迦の姿を描いています。

その姿は痩せこけ、爪は長く伸びています。

床の間の起源については諸説ありますが、仏壇起源説はさておき、漢画的な筆法をベースに西洋画の明暗法を加えた本作の重厚かつ格調高い表現は、床の間に安住するに相応しいものがあります。

 

そして、第3章では現代の視点から「床の間芸術」を考えています。

松平莉奈は、目が合って落ち着かないという理由から「人物画は家に飾りづらい」と言われることを念頭に、床の間でもこの緊張感が存在しているのではないかとの考えから、《ニュー・オランピア》を制作しました。

本作は目を開けて見ると、絵に見つめ返される作品です。


松平莉奈《ニュー・オランピア》(令和5(2023)年)作家蔵

 

菅原道朝は、気体-液体-固体と変化する水を3枚に分けて《水の三態》を制作しました。

本作は、「偶然性」をキーワードに、水を引いた画面に絵具を流したり、パネルを立てて絵具を流したりしています。

また、技法は絵具を何度も塗り重ねました。

これは、水の持つ透明感に適しているとの考えからです。

また、「床の間芸術」として、色や形がはっきりとした作品よりも、あまり主張してこないものを作りたいとの考えもありました。

菅原は、「絵具を薄く塗り重ねた末に、作品とその周囲の空間が、何かを感じられる場になれば」と語っています。


菅原道朝《水の三態》(令和5(2023)年)作家蔵

 

このように本展では、今日その姿を消しつつある日本画の「棲み家」に光を当てることで、床の間や座敷を飾る日本画の魅力とその行方を紹介しています。

これまで語られることのなかった、生活の場と密着した日本画の一面や、近代における床の間と日本画の関係を鑑賞できるユニークな展覧会です。

おすすめします。

 

 

 

 

 

 

会期:2023年11月2日(木)〜12月17日(日)

会場:泉屋博古館東京

   東京都港区六本木1丁目5番地1号

主催:公益財団法人泉屋博古館、日本経済新聞社

休館日:月曜日

開館時間:午前11時〜午後6時(入館は午後5時30分まで)