葛飾応為「吉原格子先之図」ー肉筆画の魅力 | パラレル

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太田記念美術館で開催中の「葛飾応為「吉原格子先之図」ー肉筆画の魅力」展へ行って来ました。


葛飾応為をご存知でしょうか。

彼女は江戸時代の浮世絵師で、葛飾北斎の娘でもあります。

世界で十数点しか作品が確認されていないにもかかわらず、北斎とも異なるその印象的な作風は多くの人を魅了し続けています。

中でも代表作として知られる《吉原格子先之図》は、遊郭である吉原の光と闇を美しく描いた名作です。

本展では約3年半ぶりの出品となる同作とともに、太田記念美術館所蔵の肉筆画を多数展示しています。

 

展覧会の構成は以下の通りです。

 

Ⅰ  人を描く

Ⅱ  市井を描く

Ⅲ 風景を描く

Ⅳ 物語を描く

 

会場入るとすぐに、その《吉原格子先之図》(文政〜安政(1818〜60)頃 太田記念美術館)が展示されています。

幕府の公許の遊郭である新吉原の妓楼、和泉屋の張見世の様子を描きます。

夜も更け、足元もおぼつかないほどの暗闇の中に、遊郭の室内や提灯の明かりが浮かび上がります。

格子越しに客と話す遊女がシルエットで表されるなど、西洋風の陰影表現を駆使した葛飾応為の代表作です。

なお、画中の提灯に、それぞれ「応」「為」「栄」の文字が隠し落款として記されています。

 

肉筆画で最もよく描かれるモチーフとして、一人立の女性を描いた、いわゆる美人画が挙げられますが、多くの絵師とジャンルを含む太田記念美術館の肉筆画コレクションの中には、美人画だけにとどまらず、幅広いテーマで描かれた作品を見出すことができます。

まずは、「人を描く」というテーマで作品が紹介されています。

 

目を引くのは、菱川師房《婦女読書図》(元禄(1688〜1704)頃 太田記念美術館)です。

本作では、本を膝にのせ、読書する遊女が描かれています。

後ろには屏風が置かれ、遊女の傍には香が焚かれています。

香道も女性のたしなみとして重要とされており、浮世絵の画題としても好まれました。

菱川師房は、菱川派を率いた菱川師宣の子。

父の作風を受け継ぎ、版本や肉筆画の作品を残しています。

 

雪の中を歩く若い女性を描いた、礒田湖龍斎《雪中美人図》(安永(1772〜81)中期頃 太田記念美術館)は必見です。

女性は雪がかからないよう、袖で顔を覆うようにして先を急いでいるようです。

礒田湖龍斎は、安永〜天明(1772〜89)頃に美人画で人気を博した絵師。

湖龍斎の肉筆画としては比較的早い時期の作品で、細い手足や繊細な顔の表現に鈴木春信からの影響が見られます。

 

では、市井を描いた作品を観ていきましょう。

宮川一笑《妓楼遊興図》(享保〜寛延(1716〜51)頃 太田記念美術館)は、河畔の妓楼を描いた一作です。

客との遊興が催される中、画面中央には縁先で客を待つ遊女と彼女に付き添う禿の姿が見えています。

一方、男たちは舟から妓楼を見上げており、遊女や遊興の様子に視線を向けているのでしょう。

宮川一笑は、肉筆画を専門とした流派である宮川派の絵師で、宮川派の始祖である長春の高弟です。

 

2階へ上ると、江戸と京都という二つの都市の景勝地とともに、当時の女性を双幅で描いた、歌川広重《東都隅田堤(右)/京嵐山大堰川(左)》(嘉永2〜4年(1849〜44)頃 太田記念美術館)が紹介されています。

お互いを見つめ合うような構図が印象に残ります。

図中には署名印章とともに、金泥で画題が記されていますが、これは広重が天童藩の依頼で描いた「天童広重」と呼ばれる作品に見られる特徴です。

 

次は、風景を描いた作品が展示されています。

鍬形慧斎《両国の月(右)/飛鳥山の花(左)》(文化(1804〜18)頃 太田記念美術館)は、両国と飛鳥山という、江戸の名所を二箇所選んで双幅にした作品です。

右幅は空に満月が浮かんでおり、夜の両国橋を描いたことがわかります。

橋の右側にはシルエットで回向院の屋根が描かれています。

左幅は花見の名所である飛鳥山を描いた一図。

高低差のある飛鳥山の地形を捉えており、花見に多くの人々が訪れる様子がうかがえます。

 

司馬江漢《西洋風景図》(寛政〜享和(1789〜1804)頃 太田記念美術館)は、構図が面白く見入ってしまいます。

司馬江漢は洋風表現を取り入れた作品を多く残した絵師です。

図は手前に切り立った崖を配し、谷間から向こうに広がる水辺の風景を描きます。

崖の中腹からは橋のような形状の岩場が伸びており、幾人かの人々の姿がそこを渡っているようです。

水辺には二隻の舟が浮かび、さらに遠景には西洋風の建物も描かれています。

 

夜の両国橋を描いた、小林清親《開化之東京両国橋之図》(明治10〜15年(1877〜82)頃 太田記念美術館)も紹介されています。

両国橋や橋を行き交う人々、猪牙舟などが黒いシルエットで描かれており、提灯やガス灯、家の明かりと対比されています。

どこか幻想的な雰囲気も漂う優品です。

 

そして、最後に物語を描いた作品が紹介されています。

物語といったら『源氏物語』です。

葛飾北斎《源氏物語図》(文化(1804〜18)中期頃 太田記念美術館)は、花宴の帖を題材とする作品です。

宮中で宴が催されたあと、弘徽殿の細殿で朧月夜を垣間見ている光源氏を描いています。

画面構成には大和絵の伝統手法である吹抜屋台を取り入れており、人物などに見られる濃厚な色彩も印象に残る一点です。

 

その近くに、歌川豊春《松風村雨図》(天明4年(1784)頃 太田記念美術館)が展示されています。

松風と村雨は須磨に暮らしていたと言われる海女の姉妹。

都から須磨に流されてきた在原行平に愛されますが、行平はやがて許されて都へ帰ります。

二人は行平の残した烏帽子と狩衣を手に悲嘆にくれました。

この物語は謡曲や歌舞伎にも取り入れられ、浮世絵でも画題として描かれています。

 

このように、4章に分けて肉筆画を紹介しています。

構図が面白かったり、西洋的な描き方を取り入れていたり、様々な表現で楽しませてくれます。

応為の作品はもちろんですが、他にも見どころの多い展覧会です。

会期は、11月26日までとなっています。

 

 

 

 

 

 

会期:2023年11月1日(水)-11月26日(日)

会場:太田記念美術館

   東京都渋谷区神宮前1-10-10

開館時間:10:30〜17:30(入館17:00まで)

休館日:月曜日

問合せ:050-5541-8600(ハローダイヤル)