比べて見せます!日本画の魅力 | パラレル

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高崎市タワー美術館で開催中の「比べて見せます!日本画の魅力」展へ行ってきました。


日本画には好んで描かれるモチーフがありますが、同じ題材でも時代や画家によって捉え方や表現方法は異なります。

一例を挙げると、春に先駆けて開花する梅は、松・竹と組み合わせると「松竹梅」すなわち「歳寒三友」の吉祥画になりますが、他にも清らかな花姿や色彩、格調高い香り、あるいは特徴的な枝ぶりに焦点をあてるなど、様々な梅の魅力を表現した作品が描かれています。

同じ花を描いても、作品の主題はひとつではないといえるでしょう。

 

本展では、画家が描き出そうとしたテーマや作品の特徴などのポイントを”見どころナンバーワン”として紹介しながら、同じモチーフにおける多様な表現を比較することで、収蔵作品の魅力に深く迫ります。

 

まずは梅です。

日本では古くは花といえば梅を指し、可憐な花姿と格調高い香りが愛好されるとともに、和歌や家紋、絵画の題材とされてきました。

上記の通り、日本画では吉祥画題としても好まれ、多くの作品が描かれています。

 

武居梅坡《竹梅図(歳寒二雅)》(1895)は、高潔の象徴として梅を描いています。

本作は、寒さに耐えて緑を保つ竹と早春の梅を描く「歳寒二雅」と呼ばれる画題で、高潔の象徴として文人画の好題です。

梅と寒菊では「歳寒二友」、梅・竹・蘭・菊で「四君子」といい、どの組み合わせにも梅が入ることから、梅が吉祥画の中心に位置付けられているのがわかります。

 

奥村土牛《薄紅梅》(1974)も優作で、枝垂れる梅がポイントとなっています。

梅は花とともに香りを愛でるものであるが、その枝ぶりも人々を惹きつけます。

枝垂れ桜は、下がる枝の緩やかな曲線が柔らかな雰囲気を醸し、下方で向きを変える幹が画面にアクセントを添えます。

花はほとんどが正面向きに捉えられ、内側の蕊が丹念に描かれます。

薄紅色の梅は土牛の自宅裏庭に植えられた樹だといい、親しみの念が長閑な春の気配をより印象づけています。

 

鈴木其一《桜》は、正面向きの花が見どころです。

御殿の庭先に咲く山桜を描いています。

白い花弁の先には切れ込みが入り、大きく開いた花は全て正面向きに描かれており、其一の桜図の中でも意匠性が高い表現といえるでしょう。

墨と緑青に金泥を交えた「たらし込み」による幹の表現も琳派の画家らしく秀逸です。

格子状の蔀は上げられていますが、御簾は下がり、さらに桜を前面に大きく配することで、室内の様子を観る者に想像させる構図になっています。

 

日本画では、女性も多く描かれます。

女性の姿を描いた「美人画」は、室町時代の風俗画から浮世絵を経て、日本画の近代女性像へと変化してきました。

特に和装の女性像は、たおやかな仕草や表情が好まれて多くの作品が描かれ、揺るぎない線描や生え際の繊細な描写、華麗な衣装や装身具など、多彩な魅力で人気を博しました。

 

奥村土牛《舞妓》(1961)は、夏の装いを描こうとしています。

最初に舞妓を手がけた昭和29年以降、土牛は好みのモチーフとして晩年まで舞妓の写生を続けました。

人物を描く際は、風景画と異なり輪郭線を用いましたが、それは対象の本質を描き出す生きた線であり、表面的な美しさではなく、舞妓の人間性に迫ろうとする土牛の意識が感じられます。

大胆に染め分けられた着物は、群青色の地に白い梔子の花が浮かび、帯には流水柄を描いた夏の装いになっています。

 

寺崎広業《美人観花》(1904)は、鮮やかな衣裳に目が行きます。

鮮やかな朱色の地に扇子を散らした振袖姿の女性が枝垂桜の下を歩いています。

背後の桜は線を用いない没骨法で表し、さらに花びらの彩色に明暗を付けることによって、花の前後関係を示します。

人物は線描で輪郭を取っていますが、墨ではなく同系色の線にすることで、着物の艶やかさが強調されています。

手にした傘は、雨ではなく舞降る花びらを避けるためのものでしょうか。

 

鳥も好んで描かれるモチーフの一つです。

日本では、自然の美しい風物や趣を「花鳥風月」と称し、日本画には花に鳥や動物を組み合わせた「花鳥画」というジャンルがあるように、鳥は人間にとって身近で愛おしい存在です。

花鳥画は東洋独自の主題で、花や鳥は人間と共に生きる存在であるという考えに基づいており、その姿に画家の想いを託して描かれます。

また、鳥は季節を象徴するモチーフでもあり、飛翔するスピード感や羽を広げた姿の美しさも好まれ、広く画題とされてきました。

日本画では鳥を生物学的に表現するのではなく、動きや飛ぶ様子を繰り返し観察して象徴的に表しています。

 

長縄士郎《春信》(1992)は、交わる視線に嬉しくなります。

紅梅と白梅に尉鶲(じょうびたき)を組み合わせた作品です。

黒い部分が多い特徴的な羽色の右の鳥が雄で、灰色主体の左側が雌鳥です。

尉鶲は冬鳥として、春の渡りの時期につがいで行動する習性があることから、視線を交わしているように見えるこの2羽もつがいなのかもしれない。

タイトルは「春の訪れ」を意味する言葉で、梅が咲く寒さの中にも春に向かう気配を感じさせます。

 

このように、日本画には多用されるモチーフがあり、同じ画題でも時代や画家によって表現方法が異なります。

違いが分かれば、面白さは何倍にもなります。

珍しい切り口の展覧会です。

高崎にお越しの際は寄ってみてください。


 

 

 

 

 

 

会期:2023年4月15日(土)-6月18日(日)

開館時間:午前10時-午後6時、金曜日のみ午後8時まで

    (入館は閉館30分前まで)

休館日:月曜日

    ※会期中の休館日:4/17・24、5/8・15・22・29、6/5・12

    ※4/29〜5/7は休まず会館いたします

主催・会場:高崎市タワー美術館

    〒370-0841 群馬県高崎市栄町3-23