抗生剤の到達経路 | 耳鼻科医として、ときどき小児科医として

耳鼻科医として、ときどき小児科医として

以前にアメブロで書いていましたが、一時移籍し、再度ここに復活しました。専門の耳鼻咽喉科医としての記事を中心に、ときにサブスペシャリティな小児科診療のこともときに書いていきます。

抗生剤を処方する場合、病気の場所に対して、その抗生剤が効くかどうかが重要なのである。抗生物質が病気の部位まで届かなければ、どんな抗生剤も効きはしない。例えるのなら、どんなに破壊力抜群のドローン爆弾を作っても、そのドローンが敵地までとどかなければまったく使えないようなものであろう。ドローン攻撃は隣国にはできても、地球の裏側の国にはまったく無効である。

 

話はかなり脱線したが、抗生剤が病気の部位に届くかどうかがすごく重要になるのだs。

 

細菌性結膜炎、細菌性外耳炎。体の表面に細菌感染があるのだから、そこに直接抗生剤をふきかけるのが最も効果的である。眼科医は抗生剤の点眼薬を、耳鼻科医は抗生剤の点耳薬を使うことになる。外耳炎なのに、抗生剤の内服薬をだすのは、まわりくどいと思う。

 

急性中耳炎の場合には、鼓膜の内側に感染がある。耳に点耳薬をいれても、鼓膜があるのでその中までは抗生剤は届かない。だから、内服薬で抗生剤を使うしかないのだ。急性中耳炎に点耳薬を出している耳鼻科医がけっこういるが、無駄な処方をするもんだといつも思っている。

 

次に内服の抗生剤を考えよう。お腹に入った抗生剤が感染部位にとどくまではいくつかのハードルがある。内服した抗生剤は最初に腸管で吸収される。ここで吸収されないと、血液内にははいらないので、必要な部位に抗生剤は届かない。つまり、どれぐらい吸収されるかがとても重要になる。メイアクト、フロモックスなどの第三世代セフェム抗生剤は腸管の吸収率がとても悪い。よくて15~20%ぐらいだそうだ。つまり多くの抗生剤は吸収されないので、病気の部位まで運ばれる抗生剤は少量になってしまう。まったく吸収されないと誤解している人がいるが、15~20%ぐらいは吸収されるので、効かないのではなく、効きが悪いのだ。

 

点滴で入れる抗生剤の場合には、腸管吸収が必要ないので、100%血液中に入る。当然ながら病気の部位に到達する抗生剤の量はとても多い。つまりよくきくということになる。

 

耐性菌と言って、特定の薬が効かない菌がいる。この菌に感受性(菌に効くと言うこと)があるからこの抗生剤は効果がある。そんな判断で抗生剤を選んでいる医者も多いが、どんなに効く抗生剤だって、届かなきゃきかないのだ。