隠れ難聴(hidden hearing loss)とは何か? | 耳鼻科医として、ときどき小児科医として

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以前にアメブロで書いていましたが、一時移籍し、再度ここに復活しました。専門の耳鼻咽喉科医としての記事を中心に、ときにサブスペシャリティな小児科診療のこともときに書いていきます。

騒音下での聞こえが悪いが、聴力検査では正常。APD(聴覚情報処理障害)という病名で語られることも多い。APDそのものは脳の認知機能の障害と言われており、脳そのものの機能に問題がある。

 

隠れ難聴とは、騒音下で聞こえが悪いところは同じだが、蝸牛の障害である。Cochlea Synaptopathyがその理由ではないかと言われている。簡単に言うと、蝸牛の中にある神経接続部位の障害である。つまり耳に障害があるのだが、聴力検査では指摘できない。これは、加齢、音響外傷などが原因で起こる、後天性の難聴ではないかと考えられる。

 

聴覚情報処理障害を、脳の認知異常とするのならば、隠れ難聴は蝸牛の障害である。両者を区別することはなかなか難しく、聴覚情報処理障害の頭に、LiD(聞き取り困難)という言葉がついたのも、隠れ難聴を意識してのことかもしれない。

 

LiD/APDと掲げてしまえば、両者を区別する必要性もなく、すべてを総括することができるからだ。

 

細かな検査をすれば、両者を分けることができるかもしれないが、その区別はとても難しい。一つだけわかりやすいものをあげれば、隠れ難聴は耳の神経の障害であり、無難聴性耳鳴を伴うことが多いということだ。APDは脳の問題なので、耳鳴がでてくるのは納得しづらい。ここらへんが唯一の見分ける情報になるのかもしれない。

 

このような研究は大学などの研究医が主におこなっている。医師は研究職の人が多いので、一つの病気をやたらと分類したがる。

 

自分のような臨床医は、騒音で聞こえないことは同じでしょうと言い切り、細かな分類がどんな意味があるのか、なかなか理解できない。

 

APDであろうが、隠れ難聴であろうが、そこを正確に分類することは、その人に大切なことではない。むしろ、聞こえない現状をどのように乗り越えていくかこそが重要な問題なのだ。

 

正確に分類しようとすればするほど、専門の研究医の診断を仰がなければならなくなる。そのことが、メリットになるとは思えない。

 

このような難聴の研究は評価するが、普通の患者がそれに振り回されてはいけない。