オーストリア友好150年記念として上演されたI am from Austria。
ハリウッドセレブ女優の滞在先での恋と思いきや、親子関係・中年夫婦の倦怠などのホームドラマもからめながら、自分の国籍や故郷などのルーツを再確認するハートウォーミング・ミュージカル。
ウィーンの名所を使ったセット&映像も楽しくて、ディズニー映画風、サルサ風、タンゴと変化に富んだ音楽と宝塚得意の人海戦術で踊りまくる舞台がとても華やかでした。
マッチョマッチョ(MachoMacho)とスポーツ万歳(ES LEBE DER SPORT) は、現在私の筋トレのBGMとなっています。すごーーくやる気が出ます。
■カラフルな配役
どの役もとても個性的で、その個性をしっかり自分のものにしていて、イキイキしてました。
今の月組の役者にあったとてもカラフルな配役でした。
・世界の息子・珠城りょう
特番で拝見したウィーン版ジョージ役の方はなるほど遊び人の雰囲気があって親も心配させそうでしたが、珠様ジョージは・・・いや、もう安心しかないよ。
私、あんな息子産みたいもん。
クラブでちゃらちゃら踊ってるって聞いても、きっと友達に引きずり回されて断れなくて、自分はオーナーや常連達と音楽談義してるんだろうな・・とか思っちゃうし、珠様ジョージのスポーツジム?それ武田真治の筋肉体操並の説得力しかない。
しかも、美魔女の母親とキュートダンディーな父親からは愛情がダダ漏れだし、旧弊な親vs息子の世代のすれ違いというのは正直あまり伝わらなかったけど、それはどうでもよくなるくらい宝塚ファンにとっては素敵な月組家族でした。
ギャグ調のパートや 「HA! HA! HA! HA !」 ってアメコミ風に笑ってみせるところは、どうしても珠様の日本男児の血を感じてしまうが、後半に入ってエマへの愛を真剣に吐露するところ、エマの重さを一緒に担いたいと申し出る部分は、珠様の本領発揮で、真摯な愛が感じられて感動的だった。
「君のふるさとになりたい」 の言葉がまっすぐ響く朴訥な暖かさのあるジョージで、だからこそエマも自分を作ることをやめてアイデンティテイを見つめ直し、素直になれたのだな、と思えました。
皆様おっしゃってるように、シンプルな白シャツの珠様、爽やかでたくましいわ、足は長いわ、さすがon the townのシースルーシャツにも耐えうる男役筋でした。
・世界のSAKURA MISONO
さくらちゃん、抜群のスタイルを生かした女王様ぶりと、オーストリア最高峰グロースグロックナーもびっくりの高いキーを歌いあげる歌唱力、お見事でした。
ジョージに見せるアデーレの顔の時は、いつものさくらちゃんのふにゃっとした笑顔じゃないけど、もう少しかわいくてもいいのかな?とも思ったけど、見事な女優ぶりでした。
オペラ舞踏会のときのピンクのドレス、品があって繊細なプリンセスの美しさで、本当によく似合ってた。
ジョージとエマの山小屋の朝チュンは、「ガラスの仮面でも見ましたか?」 と言いたくなるシチュエーションだけど、おふたりとも織田裕二もジャニーズもびっくりのフル着衣。さすが宝塚。
ちょっと髪を乱すとか、ジョージのシャツの裾をはみ出すとかもだめなんかい!
・世界のえくぼ 月城かなと
れいこ(月城かなと)、復活おめでとう!!
全然知らないけど、いるいる、こういうギョーカイ人、って感じでした。
多分こういうのは世界共通だと確信してるんだけど、「CXの撮りのあと賢にどうしても来いって呼び出されちゃったから、シータクでギロッポンに行って飲んでたらてっぺん超えちゃったわー。賢ちゃん?あ、石黒賢ちゃんヨ」 みたいなバブル期の自己顕示欲の塊みたいなディレクターとかね。←誇張
携帯で喋りながら歩く姿もなんだか尊大で、ジャーマネ感がリアルでした。
冷酷で悪い人の凄みは感じるけど、コミカルさもあって、れいこちゃんが英語で、「Ah Ha?」「Oh-、イェ?」って言っているだけで笑いが起きるという。
一番好きだったのはやっぱり汚職のタンゴ(TANGO KORRUPTI)
後ろの画像で札びらの雨にまみれてとっても悪い顔してるれいこちゃんですが、あまりにイケメンすぎて、一瞬バチェラー・ジャパン extended みたいなやつかと思った。エグかっこいい。
リチャードについては、なんでお玉持ってるんだとか、どこでフェリックスの携帯かっぱらったんだ、とか、なぜオペラ舞踏会前日に「俺が全部仕組んだことだよーん」 なんてばらしたのか、謎が多すぎるが、まあしょうがない。
フィナーレののとっぱし、真っ赤なれいこのせり上がりは、鮮烈でバワーがあって、さすが二番手の存在感を見せつけてくれてワクワクした。おかえりなさい!
・世界のファンタジスタ・暁千星
ありちゃん、マッチョの世界的スターサッカー選手だった! かっこよかった!
宝塚の上演で一番むずかしいだろう役を、きっちり作り込んできて素晴らしい。(オーストリア版ちらっとみたら、当然裸体でした)
刈り上げた髪型は最高だし、動きの敏捷さはさすがだし、キラキラしたスター感は抜群だし、本当に大きく見えました。
マッチョさにありちゃんの持ち味のキュートさが加わって、とても魅力的なパブロになってました。
オープンでフレンドリーだけど、筋肉バカには見えない。
愛する世界の王子トッティみたいに 「チョー面白い本買ったぜ」 「なんて本?」 「あなたの悩みを50%解決する方法ってヤツ」 「50%だけ解決?」 「大丈夫だよ、ちゃんと二冊買ったから!」
なんて言いそうにもない繊細で頭のいいプレイヤーに見える。
「パブロ、エマの味方ね」 って言うところ、無邪気で優しかった。
仮面夫婦でもすごくいいパートナーになったんじゃないかと思ってしまった。
パブロとホテルのボーイ・フェリックス(風間柚乃) とのくっつけ方はセクシャリティへの配慮に敏感な海外ではどう見られるんだろうと余計な心配をしてしまいましたが、多分腕枕なんかしてもらったら、首痛めるやつだから気をつけてね、フェリックス。
・世界の家族
海ちゃん(海乃美月)、オペラ舞踏会での艶姿、美しかったー。宝塚史上最も美しいゾフィーで間違いない。エスコートするちなつ鳳月杏も板についたダンディーっぷり。なんて麗しい夫婦でしょう。お二人の演技のうまさも安心感しかない。
舞踏会の客として、ここぞとばかり、シシイやルドルフやモーツァルトが参加してたのは笑ってしまった。
夏月都さんの母ヘルタは、お父さんのこととか女優を反対したとか、もう1エピソードあったらよかった気もしましたが、落ち着いた素敵な声色でアデーレのhomeの部分をしっかり担ってた。
中年夫婦の第二の人生のお話が盛り込まれていることと、老女エルフィーのパワフルな存在感がとてもよくて、複数世代が共存する家族や故郷というテーマが膨らんで見える。
組子のバイトが楽しくて書ききれないので、二点だけ。
冒頭のセレブ男、虹色グラサンに鬚にファーに、もう顎の輪郭以外紫門ゆりやの紫門ゆりやたる全ての形を消し去ってやっと出る下世話なセレブ感、そして警官で出てきたときの絶対的な安心感!
そして一星慧君の鬚面、超セクシー!
■ウィーンとラインハルト・フェンドリッヒ
アルプスといえばスイスのイメージがあるけれど、オーストリアの西部の西アルプスは風光明媚でスキーのメッカ。
エマがジョージをヘリコプターで連れて行く山小屋にスキーがかかってるのも、よく見る風景なんでしょうね。
マッチョマッチョ(Macho MAcho)って、そんな脳天気な筋肉礼賛の歌、本当にウィーンにもあるんかいな?、「ときめきの筋肉」「愛しの筋肉」って、斎藤先生、ダイスケ先生になんかゴリ押しされてない? と疑って調べたら、本当に原曲なんですね。
ただ、原曲の歌詞の意味は意味が多分逆。
脳筋とか筋肉バカとか、体が鍛えられすぎている人を見ると無性におちょくりたくなってしまうの日本以外も同様のようで、
いいケツしてるぜ、おまえは下着モデル、みんなのおもちゃさ (超意訳です)
的 な、相当揶揄してる歌だったのは驚いた。(性的な意味が強い印象)
スイスは現在も徴兵制の国なんですね。
日本はスポーツ庁は文部科学省管轄だが、オーストリアは国防スポーツ省と一体化。
ジョージがホテルにスポーツジムを作るのは、流行だけでもなくて、オーストリアを熟知したすごくいい目の付け所なのかも?
ストーリーの背景にオーストリアの文化が透けて見えるのはとても面白い。
そういえば、劇中で名前が出たアーノルド・シュワルツェネッガーも、オーストリア出身ですね。
ウィーンの第二の国歌とも言われる曲 「I am from Austria」について、意味を詳しく解説されているブログがあって、とてもおもしろかったです (I am from Austria訳詩 http://wienok.blog119.fc2.com/blog-entry-2161.html )
ハプスブルグの栄光から国土の縮小、ヒトラーによる侵略、第二次世界大戦後もウィーンは10年に渡って連合国4カ国に分割統治され、主権を完全に回復したのは1955年。(沖縄みたい)
さらに、オーストリアは公的にはナチスの被害者とされていたのに、ワルトハイム首相がナチの将校であったことが暴露され、外交関係が悪化して退陣。1991年にフラニツキー首相が現実的には多くのオーストリア人がヒットラーを支持し、政権の維持に関わったことを認め、謝罪して賠償を行い、まだ冷戦最中の1955年永世中立国となる。 (ヨーロッパでスイスだけじゃないんですね)
この曲がウィーンのフェスティバルで歌われたのが1996年。
何重にも入り組み傷ついた国土の歴史を、大地の自然に例えた美しい比喩と旋律に乗せながら、(それでも)私はオーストリア人なんだ、とウィーン語で自国の尊厳を歌いあげる曲は、私が聞いても胸が熱くなるものがある。
宝塚版では愛と自分を取り戻す歌のようになっているけれど、冠に雪をいだいたアルプスの山々を見渡すようなアングルの中、さくらちゃんのドラマティックな歌唱は原曲に込められた誇りが滲み出すようで、とても胸を打ちました。
他国のデリケートな政治状況について公式で触れるのは難しいとは思うけど、背景を知ってから観劇した時はさらに感動したので、何らかの形でもっと早く知りたかったなと思う。
歌劇のオーストリア解説のページはとても濃くて面白かったです。
Reinhard Fendrichはウィーン人で、ドイツ語というよりウィーン語(ウイーン訛り)で歌っているアウロポップスの大御所だそう。
歌詞をざっと見たら、60-70年代日本のフォークソングよろしく、メッセージ性や風刺性の強い曲も作っている印象をうける。
劇中でアデーレがハリウッドに出るまでを歌った「ブロンド」(blond)も、原曲は一昔前の類型的な金髪巨乳=バカ神話を相当皮肉ったもの。
アデーレは ある日気づいた。
ワンターブラつけるだけじゃだめなのね。
考えてみたら バメラも、クラウディアも、金髪だわ!
金髪は男を幸せにするっていうもの!
毛染めは永遠に終わらない戦いだけど、太陽みたいにキラキラっの金髪にしなきゃ!
パメラはわからなかったんだけど、プレイボーイのモデルで一世を風靡したパメラ・アンダーソン? (カナダ人だけど)
クラウディアは、ドイツ出身のスーパーモデルクラウディア・シファー(Claudia Schiffer)? 時代が違うか、
曲の毒はかなり抜かれてるけれど、宝塚版の明るさや軽快なアレンジもとても楽しかったです。
名曲はどんなカバーやアレンジにも耐えますね。
好きだったのは、「夜のウィーン。( Haben sie Wien schon bei nacht geseh'n )」
ちよっと不気味なアレンジの音楽の中、ライトアップされるウィーンのクラシックな町並みが美しかった。
ホームレスたちが、橋の下から眺める夜景も綺麗。
そういえば、調べてみたらなんと、かつてのホームレスだった人がガイドしてくれるウォーキングツアーまであるんですね。https://www.viator.com/ja-JP//tours/Vienna/Shades-Tours-in-Vienna/d454-55943P1?mcid=61846
オーストリアの貧困と福祉システムにも国の歴史があるのでしょう。
今回、舞台がとても楽しかったので、知りたくなって、オーストリアについてたくさん調べてしまった。
どなたかウィーンに詳しい方、解説ガイドブックつくってほしい・・。
もっと早く、もっと見たかったという悔いが残るほど(観劇が千秋楽近くでした)、素晴らしい幸せな一年の観劇納めとなりました。