朝夏まなとの陽性の存在感と、ジュークボックスミュージカルの楽しさがみっちりつまった作品でした。
ダンスチューンののりの良さとシリアスな家族ドラマ部分、ロマンティックな愛のシーンとのバランスが見事で、笑って泣いて踊って五感全て使って全身で楽しみました。
いやー、楽しかった!
※以下内容に触れてあります。
■ジュークボックスミュージカルの楽しさ
全編グロリア・エステファンのナンバーが散りばめられたジュークボックスミュージカル。
各ナンバーが、そのために書き下ろされたかのように適材適所でちりばめられている。
有名なヒットナンバー「1,2,3」がダンスレッスンでテンポをとるシーンに使用されていたり、グロリアの出自を示すキューバボレロ「MI TIERAA」はロマンティックなシーンのBGMに、「CUANDO SALI DE CUBA」の滑らかな歌声は幼き日のグロリアの歌声に、と心憎い割り振り。
実際交通事故後に書かれ、アトランタオリンピックのテーマソングにもなった「Reach」が復活のシーンにドラマティックに使われていたのも感動的。
結婚に至るまでのエミリオとのロマンスの過程が、全てグロリアの極上のバラードで表されていて、歌のメッセージ性、音楽である必然性がよく伝わってきた。
結婚を決めたグロリアに父が歌う 「when someone into your life」、あまりに筋にあいすぎているのでミュージカルのオリジナルかと思ったら、やはりグロリアの曲だった。
原曲は人物は「she」なのだが、父親から娘へとして歌われてもなんの違和感もない。
そもそもの楽曲の力が素晴らしいから、どのように使ってもびくともしないのだろう。
楽曲の配置も素晴らしかった。
バラードとビート、そして沈黙の三者のバランスが絶妙。
センチメンタルなバラードが流れたかと思うと、打楽器の爆発的なビートが始まる。
ダンサブルなナンバーが終わって、しんと音のない会話だけのシーンに切り変わると、言葉の重みが際立って聞こえる。
歌とダンスで表現するシーンと台詞で演じるシーンのコントラストが鮮やかで、台詞の真実味がまっすぐに伝わる。
余韻に浸っていると怒涛のシンペーションのリズムが始まり、甘辛チェイサーの夢幻ループ。
DR.ビート、コンガがヒットするまでのプロモーションシーンの構成がいい。
曲のフレーズと、プロデューサー達との押し問答が交互に繰り返され、
早く聞かせてええ、ブレイクしてええ!! と、こっちの期待もいやがおうでも高まり、
満を辞しての一幕ラストのフルのCONGAに突入。
舞台を活き活きと跳ね回るオールキャストのダンスに、ステージ中央でやっとキラキラした衣装に着替えて踊る歌姫グロリア。
まぁさま、キターっ!!!!
まぁさまの煽りも入り観客も総立ち!!
永ちゃんライブにおける、永ちゃん登場までじれてじれてじれてからの「止まらないHa〜Ha」でタオルぶん廻すに匹敵する興奮度。
グロリア・エステファンとマイアミサウンドマシーンの曲で好きなのは透明感。
シンセサイザーのピアノのためか、特にバラードなどは快晴の上空を飛行しているような音の広がりがある。
今回の舞台の生演奏で、その浮遊感・透明感が残されていたことに感動した。
惜しむらくは、訳詞でしょうか。
リズムによく乗っていて実に自然だったが、内容がかなり変わっていてわかりやすくなりすぎてしまっていたのは少々残念。
■朝夏まなと
まぁさま、はまり役でした。
まあさまの長身と宝塚トップスターの0番的存在感が、グロリアの女王感にぴったり。
我らが朝夏まなとの太陽のキラースマイルが予想以上に舞台に映える映える。
ミラーボールかまあさまかって位、シャイニースパークリングでしたわ! どうしてくれよう!??
前半は主張のないおとなしい女の子として演じられてたけど、コンガからヒットナンバーを飛ばし始めてからは朝夏まなとの真骨頂。
まあ様の、てかてかの総豹柄ウルトラロングコート姿、
ゴーッ ジャス!!!
かっこいいっ!!
共演者の歌声の厚みがすごくて、全体としてとにかくパワフルにぐいぐい押してくる。
まぁさまは光だけじゃなくて、陰りを表現するときの繊細な演技も素晴らしいが、女性の役としてはこれからもっとこなれてくるかな、と。
最後のブルードレス、神々しいまでの美しさでした。
■家族の物語
グロリアが初めて人前で歌ったとき、エミリオの部屋にぞろぞろと一家でやってくるところがとても好きだ。
祖母は期待に満ちて、母は不信に満ちて足を組み、グロリア自信なささげに、妹はしっかりと姉の傍で支えている。
オープンでストレートで情の深いラテンファミリーの雰囲気がきちんとあって、それでもどこか日本の家族にひきつけて考えさせられる。
家族の葛藤・和解という古典的なプロットだが、母とグロリアが 「私の人生」 「私達の人生」と言い争うように、個人の意思がはっきりあり、個と個がぶつかってできる家族として書かれているので、ただの湿っぽいメロドラマにならない。
母も祖母も、きちんと一人の女性の物語として描かれていた点がよかった。
家族が全てで、自分が人生をあきらめた無念さと夫への愛情と、娘を愛し誇りに思いながらも拒絶する、矛盾に満ちた母親の姿を一路真輝さんが素晴らしい存在感で演じていた。
母の味方になれなかったと悔い、常に孫の味方であろうとする明るくキュートな祖母、久野綾希子さんも素晴らしい。
母と娘は一番近い存在であるから、反発も共感も誰よりも濃い。
母子がそれぞれ自分の人生を賭けて全力で戦った後、グロリアの負傷という大いなる困難の前で和解し、運命に対して共に戦う戦友へと変わって行く関係性には涙を禁じえない。
まぁさまグロリアの、おばあちゃんコンシエロへ向けるまなざしが本当に優しくて温かくてきゅんとしました。
まぁさまの実家の佐賀に宙組が全国ツアーで公演したとき、まぁさまのおばあさまが観劇してらして、まぁさまが世にも優しい笑顔を向けたと風の噂で聞いた。そんなことも思い出されてほろりと泣けた。
あと、ちょいちょいステージ上に父親ホセとおばあちゃんコンスエロが出てくるの反則です。
ホセ役の栗原英雄さん、若干日本兵に見えたりしたけれど、伸びやかな歌声で父親という存在の欠落感をせつなく演じていた。
もー菜種油か農民かってぐらい涙搾り取られました。
■エミリオ・エステファン 渡辺大輔
はまってました。最初から最後まで、スペインなまりのある男として、歌うような節をつけたハイトーンで演じ続け、ラテンの男性の陽気さ、まっすぐさ、恋女房をサポートする懐の広さを見事に演じてた。
べたべたの恋の曲をしっかりと歌い上げられる歌唱力と濃さが素晴らしい。
てか、渡辺さんの開襟すごいね?!
(負けるな真風!)
■レベッカ 青野紗穂
短い登場シーンだったけど、鮮烈なインパクト。
たった一言の台詞でも印象的で、超絶的に歌もうまくてびっくりしたら、なんと14歳でアポロシアターのボーカルコンテストに優勝という凄まじい経歴。
溌刺として芯の強い妹のキャラクター、アメリカのfoxyな女の子の雰囲気がとてもよく出ていて、レベッカが反発しながら母や家族と一緒にいることがリアルで、家族の雑多性と絶対性を感じさせた。
■もろもろ
息をもつかせぬ場面転換、緩急の付け方も見事だし、セットも素晴らしい。
特に、成功したグロリアが名声と引き換えに失ったものを振り返る空港の待合室が、一瞬にして手術室に変化する場面の発想、緊迫感は見事。
カセットテープ、ラジオ番組、ディスクジョッキーの声等々、間接的にメッセージを伝える懐かしく効果的な手法もスパイスになって楽しい。
あと、アンサンブルの方々の活躍っぷりも目に耳に楽しい。
デートのシーンのコミカルなウェイター、三人のアコーディオン衆、ゴスペルの歌い手、復活を祈るファン、みな歌があり見せ場があり、皆さまうまいもんで、そのたびにはっとなる。
アンサンブルがシーンを深める役割を果たすようにきちんと使われていて、舞台に見ごたえがありました。
(モブ祭りだった道路はさんで向こう側の我が国を思ってうなだれました)
あの、黒髪ロングで、片方だけドレッドにしてる女性のキャストの方はどなたで?
素晴らしいスタイルで見ほれていたのだが、役名だけじゃわからないーー。