少し前に ♯女性映画が日本に来るとこうなるという秀逸なタグがありましたが、
(例) 原題:Bend It Like Beckham(ベッカムのように曲げろ) →「ベッカムに恋して 」
原題「Strike! (ストライキ!)」 →「ガールズ・ルール 100%おんなのこ主義」 )
今こそ、日本映画界のポスター&キャッチコピー改竄のスキルをフルに生かすべき。
この作品にキャッチコフレーズをつけるなら
「恋も仕事も全力投球! わたしってスーパーウーマン?!
ドタバタハートフルラブコメディ!! ウーマンオブザイヤー 」
もちろん、背景白抜きで、ロゴピンクで、テスとサムは背中合わせで、イラストのカッツとテシーキャッツも右上あたりに入れて。
出演者は赤とか青とかの額縁切手で、ドミノのように浮かしてね?
ハーパースバザーみたいなかっこいいポスターだから、もっとシリアスな作品だと思ったら、いやいや抱腹絶倒。
笑って笑って、ほろっと泣いて、王道のロマンスコメディだった。
■ちぎさん
綺麗、かわいい、キュート、ゴージャス、かっこいい、プリティー、ハンサム、麗しい、めんこい、アメイジング、マーベラス、スプレンディツド、brava、ハラショー、ファンターシコ・・・まだ続ける?
テス・ハーディングは、ニュースキャスターというより、超一流のジャーナリスト。
美人で、知的で、アメリカで言うとダイヤン・ソイヤー、日本で言うと田丸美寿々さんのような存在なのかと思った。
歌詞と台詞だけ聴いてると、ちょっと田中真紀○氏を彷彿とさせるような強引さ、ワンマンっぷり。
これをまっすぐに共感できるようなキャラクターに見せたのは、ひとえにちぎさんの美とコメディセンス。
ひそかに危惧していた歌唱は、男役歌唱のままでした。
早霧節のこぶしもビブラートも健在。
ところどころドスの効いた台詞を言うところには、ルパンの残り香を感じて、思わずくすっとなった。
もともと初演の女優さんもかなりハスキーな低い声で歌っていたし、キャリアの鉄の女の設定としては不自然じゃなかった。
(だいたい働いてる女は、がんがん声低くなっていくことが多い。
職場で男性&高齢が多いので、きゃぴきゃびした声が浮くのと加齢で。)
テスは、大好きなサムの仲間を知りたいから、辞書を読む。
そして、漫画がくだらない低俗な娯楽だと発現したことを恥じ、謝罪する。
あと、劇には描かれてはいないけれど、おそらく彼女は専業主婦に対しても無意識の偏見を持っていたと思う。
だから、元夫の今の妻・ジャン(樹里咲穂)と 「あなたのがすごい」 と言い合うシーンはじんときた。
女の分断ではなく、シスターフッドを知ること、それもテスの新しい変化だ。
ドタバタの中に、他者を愛し、知っていくという芯がしっかりあるから、じんとくる。
テスの背中が、後半にかけてどんどん柔らかくはかなげになっていく。
男役の頃と代わらぬちぎさんの演技の真実味、ソウルフルな息遣い、台詞にこめられる切実さが、テスというキャラクターにリアリティを加えていた。
テスのキュートさは、ふわふわした可愛さではなく、率直で、飾りけなく、全力であることからうまれるチャーミングさ。
それはそのまま、ちぎさんの魅力でもある。
少年っぽいと称されてきたちぎさんだが、今回は、女っぽく、少年っぽく、そして少女のようだった。
早霧せいなという人は、従来「女っぽい」「少年っぽい」 と性別にタグ付けられてきた形容詞を、軽々と超えていく。
きっと、少女っぽいとは 「細やかで、情感豊かで、いじらい」 こと、 少年っぽいとは 「正直でオープンで、人の好意に対して極度に照れ屋」であること、どちらも女の中にも男の中にもある、人の素敵な徳性だ。
早霧さんを見ていると、言葉がタグをはずされて、素の言葉に戻っていくように思う。
■演出と台詞
演出、とてもよかった。
四角が連なっただけの衝立が、あるときは授賞式の舞台裏になり、あるときはテレビ局のニュース番組の舞台になり、サムの分身であるコミックのキャラクター・カッツが映し出される映写機になる。
シーンとシーンの転換やスピードもスムーズで、素晴らしい。
古い時代のアメリカをカリカチュア化しているのも、とても楽しくて可愛い。
テシー・キャッツとカッツの猫カップルの漫画も、これぞアメコミっていう軽さと色気があるし、
「私は完璧よ、ノーミスなの」とか、大げさな台詞、直訳英語もユーモラスな雰囲気をかもし出してる。
あ、とりあえずちぎさんの30年代アメリカキャリアウーマン風の外ハネボブはジャスティス。
■サム・クレッグ/相葉裕樹
サムは、成功したテスに一切物怖じしない。
恋をしたという思いだけで、無邪気にストレートにアプローチしていく。
成功した女性との恋愛は男の見栄やプライドから破局していくことが多いが、サムはテスと全くいられない、自分のことを考えてくれないという、単純に恋の面から傷ついていく。そこがいい。
新世代の柔軟な価値観のイケメン・サム、ハマり役でした。
立ち姿のさわやかさと甘さに加え、風刺漫画を書いているユーモアと知的さ、骨っぽさもうまく出ていた。
歌がいわゆるミュージカル歌唱じゃなくて、すっきりした歌い方で、歌詞がすっと入ってくる。
ちぎさんとの声の相性、コンビネーションも絶妙だった。
テスを見る目がまたほんっとに愛しげで優しいんだよね・・。それと同時に、亀裂が入っていくときの凍るような緊張感、素晴らしかった。
■ジェラルド/今井朋彦
モト冬樹じゃないけど、美女に影のようにつきそう頭部薄めのお付の男
この構図からして、可笑しみと一抹の哀愁があって最高。
ジェラルドの間の素晴らしさ、存在感ったらない。彼のおかげで、テスがぐっと立体的に見える。
やはりなんと言っても印象に残るのが、テスとサムが破局していくときに、我が意を得たりとはしゃいで歌いまくる "やっぱりね I Told you"ソング。
ジェラルドのおそらくたまりまくっているだろう普段の鬱憤や、愛してるが故の"ザマアミロ感”が、邪悪すぎて笑える。
このミュージカルの笑いは陽の笑いだが、このシーンだけはブラックユーモアで、いいスパイスになってる。
■チップ/原田優一
いやー、くどくてうっとおしくて気持ち悪くて最っ高だわー。まさかのオネエキャラも登場とは・・。
後で女装してバレエダンサーで出てきたとき、ほんとにただのロバート秋山だったよ?(最高)
うんとデフォルメされてるけど、「なんかこういう人、いる・・・」 と思わせてしまう小物感、姑息感、残念感、いやーすばらしい、
■ジャン/樹里咲穂
最初の方のシーンでやたら目立つメイドがいて、なんかじゅりさんに似てるけど役違うよね?と思ってたら見事樹里さんだった。おかしみがあるのに、すらっと綺麗で目立つ。
そして、ちぎさんと歌う「隣の芝は青い」は、きっちり生活感を出しつつ下品になりすぎないのがさすが。
■インクポッドの漫画化仲間の連中&マスター
うまい、本当にうまい。
主役二人のフレッシュさと対照的に、百戦錬磨の職人が最高の仕事してる。
掛け合いのうまさ、体の使い方のうまさ、見ててうめきました。
中でも大好きだったのがCCBみたいな桃色の髪のピンキー(新井俊一)。サブカル感がいい!
大野幸人さん、SSについでの共演ですね。バレエシーンの跳躍、見事でした。
失恋したテスに無骨に声をかける漫画家連中の暖かさ、泣ける。
ちなみに、宝塚のパンフは下級生とか 「頼む、素化粧の写真も載せて!!」 と思うんだけど、外部の舞台は 「頼む、役の写真も!!」と思う。
皆さん素化粧の写真がかっこよすぎて、同定するのに時間がかかる。
とにかく、作品も音楽も素晴らしいし、舞台と客席が笑って一体になる暖かい作品だった。
見終わったとき、一番に頭に浮かんだ感想は、
どいつもこいつも、みんなまとめて、全員幸せになりやがれ!!!
でした。
ちぎさんが素晴らしい作品と、素晴らしい出演者に恵まれたのをこの目で見れて、感無量だった。
舞台の中央で男性キャストたちに軽々とリフトされているちぎさんを見て、
あんなに素晴らしいキャストたちと手をつないで足上げをしているちぎさんを見て、
また新しいステージに進んだちぎさんを見て、
「やってくれた」と胸がいっぱいになった。
ちぎさんがいろんなものを経て変わっていく姿が、ウーマンオブザイヤーの登場人物たちとも重なって、テスもサムも、ジェラルドもヘルガも、猫ちゃんカップルもインクポッドに集う連中も、ちぎさんも相葉さんも、スタッフさんもわたしたちも、みんなみんな幸せになれ、って無性に思った。
人間って、不器用で懸命で、シニカルであたたくて、いとおしいって思わせる作品だった。
いやあ、観劇っていいですね。
外部も、いいですね。
(まさか沼の奥にまた沼が??)