今回の 「琥珀色の雨に濡れて」 は、まごうことなき大人の物語だった。
クロードの育ちの良さから来る純粋さに惹かれ、その純粋さ故に傷つけられ、自分の愛の誇りのために別れを告げたシャロンと、恋を終えてシャロンの痛みを悟ったクロードの、孤独をひき受けた大人の恋の物語になっていた。
(※ネタバレ全開)
「琥珀色の雨に濡れて」は、お坊ちゃん貴族クロードと、美貌のモデルでマヌカン”魔性の女”シャロンの不倫のお話。
クロードはシャロンに一目ぼれして口説いたというのに、婚約者がシャロンを罵り、シャロンが婚約者に 「彼は私と結婚してくれといったわ」 と反撃してるのを見た瞬間、「もっと穏やかな方法はなかったのか」 と苦虫をかみつぶして、一瞬にしてシャロンと別れ、婚約者の元へと帰ってしまう。 そして「悲しいよね人生は」と歌う。 (オイ)
数年後シャロンと再開し、やけぼっくいに火がついた後も、不倫旅行に乗り込んできた妻の前で何も言えず、シャロンに別れをつげられる。
慌ててシャロンを追いかけるが、シャロンはもう 「美しい思い出」 と完全に見切りをつけている。クロードは一人雨に濡れて 「誰の涙が雨に変わったのか」「雨の色は琥珀のように」とさめざめと泣く。(オイ)
要約 → おぼっちゃんの粋でない不倫のお話で、シャロンは何が魔性なのかわからない、というのがこれまでの琥珀に対する個人的な感想だった。(オイ)
今回、だいもんクロードの歌う 「琥珀色の雨」は、自分の流す涙の歌ではなかった。
シャロンが流した涙、自分がシャロンに流させたことへの涙の歌だった。
素晴らしかった。
以下、長文go
□フォンテンブローの森の中
二人が出会うシーン。
真彩シャロンの、見事な 「けがれなき純粋無垢な」 歌声。
あの声の伸びやかさだけで、戦争から帰還したばかりのクロードが、自由の香りを感じるには十分だったろう。
美貌のモデルであるシャロンの周りにいる連中は資産家やジゴロたち。
金があっても自分のためにしか働かない連中か、金を得るために群がる人々。
従軍から帰ってきてなお、「民間で働く」とさわやかに告げるクロードとは、確かに対照的だ。
クロードがジゴロ連中にも敬語を使い、ウィットにとんだ受け答えをし、自分が知らないことに対しても無防備で素直でいる様子は、それはそれは紳士的に魅力的に見えただろう。
クロードにとっても、由緒ある森の中で、蓄音機を持ち込ませてまで新しい踊りであるタンゴを踊るシャロンが、新時代のようにまぶしく映ったのだと思う。
こういう折り目正しい役のだいもんは絶品。
誠実と信頼感のあふれる青年そのもの。
□ルイとクロード
同じようにシャロンに惚れているトップジゴロのルイ (彩凪翔) が、クロードと共同戦線を張る。
シャロンは、クロードの魅力は、シャロンが持っていない 「いい家柄」「上流階級」、育ちのよさからくる余裕であることには気づいていないかもしれない。
ルイはもちろん最初から気付いている。
「違う星の男だ」 という言葉に、上流階級で、腐った奥様方の相手も散々してきている海千山千の説得力がある。
同時に、それが自分に足りないもの、シャロンがひかれたものだということにも気付いていたため、共同戦線を張った。ひどく頭のいい男だ。
上流階級の中でも、クロードは特別に気持ちのいい男だ、ということもわかっていただろう。
ルイもまた、反発という名でクロードに惹かれた人間の一人だったかもしれない。
翔ちゃんルイ、歴代ルイのような甘さではなくて、帝王感のある男くさいルイ。
ボクサーのような隙のないたたずまい、暗くなんでも見ている目が素晴らしい。
□酒場でシャロンを助ける/騎士クロード
しつこい男にからまれているシャロンに、クロードが助け船を出す。
「嫌がってる人と一緒に飲んでも楽しくないでしょう」 という言葉がいかにも紳士。
なおも「(マヌカン風情が) 気取ってんじゃねえ」とからみ、場末の女扱いをしてシャロンの頬を打つ男に向かって、クロードは躊躇なく殴りかかる。
クロードの清潔な正義感、自分のような女性をもレディとして扱ってくれる紳士ぶりに打たれたのだろう。シャロンはクロードに、また会いたい、と告げる。
シャロンの真剣な表情が一瞬少女のように見える。
□青列車
シャロンがパトロンの男と二人で旅に行くことを知り、クロードとルイは同じ列車に乗り込む。
ちなみにこの青列車、「ブルートレイン」は、オリエント急行と並ぶほど有名な1920年代の夜行列車。
パリの人々がバカンスを求めて南下する列車で、北のパリから北フランスのカレーから南フランスのコートダジュールを結んでいた豪華列車。 日本でいうと、芸能人の正月はハワイみたいなもので、青列車は小田急ロマンスカーとか飛鳥みたいなものか。
ちなみに、フランスのバカンスの代名詞といえば、青列車、ニース、紺碧の地中海、燦燦と振り注ぐ陽光、咲き乱れるミモザの花が定番の描写。
後のシーンで、シャロンがまっ黄色のドレスを着ているのだが、ミモザの花を意識しているのかな、とふと思った。
ジゴロ&マダムと、掛け合いの入るコーラスが楽しい。
うきちゃん(白峰ゆり)マダム、ローズ色のドレスに金髪ウエーブの鬘、額のリボン(?)1920年代のパリ感満載で最高でした。
サロンでパトロンと優雅に踊るシャロンの姿を見て、クロードは自分が恋に落ちたことを悟る。
遅いこと極まりないが、この自覚の時差も恋でならは。
だいもんの歌う 「恋してしまった」 が圧巻。
□展望台
シャロンはパトロンと一緒に来ているのだが、続き部屋で鍵はしめてあるという設定になっている。
きっとパトロンを避けるため、一人デッキに出て夜風に吹かれていたのではないかと推察する。
そこで、クロードと一緒になる。
遠くに響く汽車の音、二人だけの青暗い空間が、とてもロマンチック。
恋が始まる段階の手探な距離感、緊張感がリアルで、どきどきした。
「イタリアのマジョレ湖に行きたい、そこでは琥珀色の雨が降るらしい」 と語るときの、静けさの中に響く真彩シャロンの声が素晴らしい。
「浮世のあれこれを流してくれる雨なんですって」 というとき、生きるためにパトロンを必要とする自分のことや、誰かと一緒に旅をしても結局一人で風に吹かれている孤独な自分のことなどを色々考えていたのだろう、と思わせる深みのある声。
シャロンは特にクロードに言うつもりもなく、何気なくつぶやいた言葉だったのかもしれない。
けれど、クロードは決死の覚悟で、いつか一緒にオリエント急行に乗りましょう、と申し出る。
その明快な単純さ、クロードなりの勇気を振り絞った純粋さに心打たれたのだろう。
この人なら嘘をつかずに一緒にいてくれる、安心できると思ったのかもしれない。
シャロンは嬉しい、と愛を受け入れる。