桜華に散れ③神席the final | 百花繚乱

百花繚乱

駆け出し東宝組。宙から花のように降る雪多めに鑑賞。

さて、ようやくたどり着いた一列目。

 

足が寒い。

 

前に椅子や人がいないと、足元が実にすーすーする。

その頼りなさ、心細さときたら・・・。

幽霊が足がない理由がなんかわかった気さえしたもんね。

足は根っこ、足は生命のアース・・・

 

新緞帳のSEIKOが、鼻の先である。

すぐそこで銀橋でぺかぺかしてる。

視野を遮るものが全くない。

自分が筒抜けである。

 

今までただの障害物に思えた前の座席&観客は、実は私の心を守る楯だったということにやっと気付く。

 想像してみてほしい、安全バーのついてないジェットコースタの最前列に乗るようなもんである。

ブラもないから、足元ばかりか、胸まですーすーする。

 

人は城、人は石垣、人は堀・・・

 

思わず、信玄公の名言がよぎる。

自分の頸動脈がどくどく脈打っているのがわかる。

あと少しで「なんまんだぶなんまんだぶ」と唱え始めそうな心境である。

 

 

劇中の西郷隆盛、桐野利秋、衣波隼太郎達を描いた歴史画の左右に桜が咲いています。

 

 

オープニングからしばらく、私はほんとに息を止めてたと思う。

北翔さんがせり上がり、数分して侍姿の男役が銀鏡にずらりと勢ぞろい、掛け声とともにばーっとライトが入り、華やかな音楽が駆け抜ける。

 

私はその瞬間、あまりのまばゆさに思わず目をつぶってしまった。

 

かかか、堪忍して!

 

震える私の手は無意識に、膝上のオペラグラスを探す。

 

・・・が、ない。

 

そう、ないんである。一列目だからさすがに持ってこなかったのである。

もはや落ち着かないことこの上ない。

オペラグラス・・あれは心の避雷針、ヅカオタの握り地蔵・・

 

せめて握るものを・・・とハンカチをギュウギュウに引っ貼り続ける。

ハンカチはみちこさんのを持ってきたかったのだけれど、それだとあまりにあまりなので、 無難にタカラヅカレビューのラインダンスの刺繍をしたものを持ってくるという自意識過剰。

 

 

毎回思うのだが、テレビで見る方が、近くで見ても全く同じ顔をしているというのは、本当に信じられないことである。

写真だって移り方によって不安定になることがあると思うのだが、いくら見せるプロだからとはいえ、近くに寄ってもあら一つ見つからないのは驚嘆としかいいようがない、

星男、みんな凛々しすぎたが、紅ゆずるさんの侍姿、美しかった。

 

 

 

ただひたすらハクハクしているうちに幕は進み、脈拍120のまま観劇を続ける私の数席お隣を見ると、なんとこっくりこっくりと寝ていらっしゃるご婦人が。

すごい!!

一列目で居眠り!

 

嫌味でもなんでもなく、心の底から感心した。

私の母ぐらいのご世代の方で、もう何十年もヅカを見てらっしゃるヅカ先輩とお見受けしたが、私もいつかそんな境地に達することができるのだろうか・・。

どう考えても、世界で一番贅沢な昼寝である。

 

感想は次に書くが、ただひたすら、幸せだった。

真正面から、こんな近くで、お芝居が見れる。

事故っても、ブラ忘れても、寿命縮まっても、神席である。

 

役者さんの表情が、オペラいらずで見える。

オペラで追っていては見えない表情が見える。

半次郎(北翔さん)が洋行から帰国したとき、嬉しそうに迎える衣波(紅ゆずる)と裏腹に、複雑なような影のある表情をする川地(七海ひろき)山縣有朋(壱地城あずさ)とのアイコンタクト、そんな繊細な芝居がすぐそばで見れた。

 軍と西郷隆盛・桐野利秋が決定的に離れて行くとき、唯一逡巡を抱えている衣波(紅ゆずる)の硬直して揺れてから自分を鼓舞する表情

 

さえぎるものなく、まっすぐにそのエネルギーが届く。

なんて贅沢なんだろう。