10年ほど前、Dさん(電磁波測定器を持つ電気工事士)に同行して、
かつて携帯電話基地局の撤去運動に揺れた集落を訪れた。
わずかな住民は皆、高齢で、
住まいは小さな木造住宅だったり、昔ながらの藁ぶき屋根の家だったりした。
撤去運動は功を奏さず、集落には、悔しさあきらめを通り越した静かな日常があった。
数名の住民から当時の話を聞いて、途中、林の中にミツバチの巣箱を見つけた。
見ると、ミツバチが数匹近くを飛んでいた。
と、巣箱の持ち主が寄って来て言った。
「あれ(基地局)が建って、年々、ミツバチが減ってね。でも、最近、戻ってくるミツバチが増えたよ」と。
基地局の電磁波で、ミツバチが方向性を失くして帰れなくなる、という話は時々聞く。
帰る時刻になり、集落の入り口に建つ、携帯電話基地局に寄った。
Dさんは、電磁波測定器で、高周波を測った。
と、首を傾げながら、何度も測り直している。
そして、言った。
「電波が出てないよ」
基地局に貼ってある連絡先に電話を入れると、最近、稼働を停止したとのこと。
他所の基地局が集落をカバーするようになったのだろう。
私たちは急いで、お邪魔したお宅を回って、もう電磁波は出ていません、と告げた。
皆、驚き、そして、ほとんどの人が、
道理で、最近、頭痛が減った、眠れるようになった、などと興奮気味に口にした。
私もDさんも、それを聞いて、やっぱり!と興奮した。
ミツバチの巣箱の持ち主も見つけて、告げた。
近頃、ミツバチの帰還が増えたのに合点がいったようだった。
帰りの車中。
興奮が収まると、私は、何で、携帯会社は、稼働停止を皆に報告しないのだろう、と怒って言った。
Dさんは、基地局が建っている土地の所有者には伝えてるよ、借地料があるからね、と言った。
そして、こうも言った。
電磁波を出すのも、止めるのも、住民は蚊帳の外だよ、と。
携帯基地局をめぐる健康被害は後を絶たない。
今は被害者でなくても、運よく難を逃れているだけ、という意識を持った方がいいのかもしれない。