野村萬斎さんと羽生選手の共演に想う
※「野村萬斎と初共演、五輪金"SEIMEI"コラボ舞台裏」より仙台からは「ゆづ桜」の便りが届き、春爛漫を感じる。札幌はまだ冬眠から目覚めたばかり、埃っぽい大通公園の片隅には、黒ずんだ雪塊が頑固な汚れのように少し残っている。それでもライラックは芽吹き、桜の木には固い蕾がちらほら見えるので、あと2週間もすれば、花が咲き始めることだろう。早く本格的な「春よ、来い」である。ライラックの新芽は萌黄色、レックレ色の花が咲くのはまだ少し先だ。今週月曜日に「野村萬斎のラジオで福袋」を聴いたばかりなのに、贅沢なことに、昨夜は"every"で「notteコラボ舞台裏」の放送があり、YTで見ることができた。自分も先月の7日、利府のアリーナでnotte"初日公演を見たが、『SEIMEI』の凝った演出に驚愕し、あっけにとられ、拍手することさえ暫し忘れていた。陰陽師の衣装で呪文を唱えて舞い、リンクサイドを全力疾走で一周する萬斎氏、クワド連発演技の合間に召喚され、晴明にかしずく式神の羽生選手、最後にはリンクに巨大五芒星を完成させるという、超スペクタクルファンタジーの世界だった。これぞ「秘すれば、花なり」を地で行く萬斎氏の凄腕演出、あの世では、大先輩の世阿弥も舌を巻いていることだろう。放送では尊敬する萬斎氏を前に、緊張しながらも対等に意見交換する羽生選手だが、時折「萬斎さん大好き!」のオタク気質ものぞかせてクスリとさせる。※毎日新聞の貝塚カメラマン撮影。このまま日本の歴史的名画として、美術館に飾っておきたいお写真だ。今回の『SEIMEI』には異種格闘技のような緊張感とワクワク感があり、なお且つ、二人とも見場が良いので眼福だった。しかしこの演目は、日ごろの鍛錬と修行があって成り立つ荒業にも似て、拝みたくなるような神聖さも感じた。現在の羽生選手を語るうえで外せないのが、2015年12月にNHKBSで放送された二人の神対談である。二十歳の羽生選手が、萬斎氏に「表現の極意」について伝授される姿が、実に真摯で初々しい。この頃からよく喋り、相手を質問攻めにしていた羽生選手、50分ほどの番組だったが、収録していた時間はもっと長かったはずだ。最初は淡々と演技についてレクチャーしていた萬斎氏が、羽生選手の反応を見てどんどんハードルを上げ、専門的かつ重要な、「表現」の核心的部分に導いていく。「打てば響く」と、萬斎氏も後から羽生選手を褒めていたようだが、こんなお弟子さんがいたら、師匠としても教えがいがあるだろう。あの天才萬斎氏を飽きさせず、本気にさせ、表現という「芸」の極意について語らせた、若き羽生選手の天才ぶりも相当なものである。この動画には英語翻訳も付いているので、海外からのコメントも多く、「二人の偉大な芸術家」「日本の至宝」といった賛辞で溢れている。少し前に羽生ファンの間で、動画著作権云々の論争があったようだが、現在の羽生選手を振り返るとき、この動画が果たす役割は計り知れないほど大きい。ゴタゴタに巻き込まれ、貴重な映像が消されてしまわないよう、切に願っている。"note2025"の『SEIMEI』と『MANSAIボレロ』、録画のリピが毎日止まらない。
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