※正義の味方ガンダムは美しい

 

今年のFaOIも終わったが、羽生選手の出場したAツァーの録画を時々リピしながら懐かしい場面を振り返っている。

Aツァーではオープニングもフィナーレも羽生選手が中心、

最後には「体が夏になる」阿修羅ちゃんステップも堪能できて大満足だった。

"GIFT"や"RE_PRAY"でコンテンポラリーな演目や高速スピンの"Megalovania(メガロヴァニア)"を見てしまうと、優雅な『ダニー・ボーイ』や『ハク様』だけでは物足りない自分がいて怖い。

要するに、自分は羽生選手の静と動の演技を両方見たいという強欲なファンなのである。

 

愛知大楽では『ダニー・ボーイ』も素晴らしかったが、今回『ミーティア』が強く印象に残った。

※演技を終え、挨拶になってもまだ戦士の役から抜け出せない気迫に圧倒されたが、久々に競技時代の戦う武将

『天と地と』を思い出した。

 

※そう言えば"Megalovania"のサンズ憑依も凄かったし、羽生選手には戦闘民族サイヤ人の血が流れているのだろう。

このクレージーなサンズが、天使のダニー・ボーイに変わるのは何とも不思議である。

 

※愛知大楽『ミーティア』のラストシーン。

このポーズがそれ迄とは違い話題になったが、羽生選手が最後にそっと氷に手を置くような仕草を見たとき、何故か胸がキュンとなった。

当時はまだ『ガンダム』のストーリーは全く知らなかったのだが、羽生選手の手の動きに強い意志と優しさを感じたからだ。

 

公演終了後、気になってアマプラで

『機動戦士ガンダムSEED HDリマスター』48話と、劇場版 『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』を殆んど一気に見た。

とは言えアニメ版48話は長丁場なので、時々休みながら繰り返し見ているうちに、すっかりガンダムの世界に魅了されてしまった。

 

FaOIの『ミーティア』を知るまでは、『ガンダム』は男の子向けのアニメで、『マジンガーZ』や『ウルトラマン』、

『仮面ライダー』のような戦隊ヒーローものの系譜だと思い込んでいた。

ところがどっこいで、『ガンダム』は戦隊ヒーローものでありながら恋愛要素が強く、戦闘部分とほぼ同じ比重で描かれている。

時にはドロドロの愛憎劇もあり、まるで昼メロのような展開にドキリとする。

小中学生の男子には少し刺激が強すぎるようなシーンもあるが、男の子はこうして、女の怖さと大人の世界をアニメを通して学んでいるのような気もする。

一方でこれは主人公キラと親友アスランの友情物語でもあり、『走れメロス』のような要素も含まれている。

戦隊ヒーローらしからぬ人間臭さ、それがガンダム人気の秘密なのかもしれない。

 ※主人公のキラ・ヤマト

 平和主義者だが成り行きでガンダムのパイロットとなる。

 SEEDという選ばれた者に与えられる素因を持つが、優柔 不断で女に弱い一面がある。

 

 ※キラの親友アスラン・ザラ

 キラとは対照的で冷静沈着、しっかり者のエリート軍人。

羽生選手はどちらかというと、優柔不断なキラよりも、も

目標設定のしっかりしているアスランに似ているような気がする。

 

アニメを見て知ったのだが、作中のフリーダム(自由)や

ミーティア(流星)という用語は、ロマンティックで抽象的な名称ではなく、殺傷力が高い殺りく兵器そのものの名称である。

※キラが乗り込む機体(モビルスーツ)の名称が

 FREEDOM(フリーダム)。

 アニメ版33話「舞い降りた剣(つるぎ)」に登場するキラのガンダムは、危機一髪のところで味方の母艦

「アークエンジェル」と乗組員を救う。

時代劇で言えば、「もはやこれ迄」と観念したときに桃太郎侍や遠山の金さんが現れてバッタバッタと敵を刀でなぎ倒す、拍手パチパチのお約束シーンである。

そして「舞い降りた剣」のように強いキラガンダムが戦うシーンの背後に流れるのが、西川アニキが歌う『ミーティア』なのである。

ガンダムファンの間でもこのシーンはシリーズ最高傑作と言われて人気が高いようだが、羽生選手が演じたのもこのパートかなと勝手に想像している。

 

※「METEOR(ミーティァ)」の正式名称は

"Mobilesuit Embeded Tactical EnfORcer"

「モビルスーツ埋め込み式戦術強襲機」で、ガンダム等のモビルスーツとドッキングさせることで、飛行能力、機動力、破壊力をを飛躍的に強化できる。

『ミーティァ』の美しい歌詞とは裏腹に、現実は大量殺りく兵器の名称であったとは、何だかショックで哀しかった。

 

 

「アニメ版ガンダム」を見て感じたのは、男性よりも女性の方がしたたかで、生き生きと描かれている点である。

常に自分が戦うことに迷い、そんな弱さを女性(フレイ)に付け込まれて誘惑されるキラ、自分の想いよりも、父親の望むエリートコースをひたすら歩むアスラン、どちらもモビルスーツを着て戦うシーン以外はどこか脆弱で少しダサい。

(※個人的な感想です)

 

一方女性陣では、キラの上司であり、ガンダムを搭載する

母艦「アークエンジェル」の艦長マリューと、戦闘指揮官

ナタルの描かれ方が魅力的だ。

 

※地球連合軍の新鋭母艦「アークエンジェル」

『宇宙戦艦ヤマト』が作られた一昔前までは、艦長や指揮官が女性であるなど考えられない設定だが、時代が変わったことによる革新的な抜擢と言うべきかもしれない。

男性の部下たちにテキパキと命令を下す二人は、出来るキャリアウーマンの典型のようにも見える。

 

「ガンダム」の小説版は後藤リウという女性作家が書いていると知り、女性の描き方がうまいことに納得した。

特にキラを誘惑する女性フレイを、あれほど嫌味な女として露骨に描写できるのは、同性なればこその感性である。

それでも、後藤が小説を書き始めた当初は、作者が女性であることは伏せるようにと編集者に言われたそうで、戦隊ロボ小説を女性が書くことへの抵抗感と偏見があったことに驚く。

しかし後藤は、「小説の内容を読めば、作者が女性であることは一目瞭然だろう」と開き直ったそうで、結果オーライだったようだ。

 

アニメ版『ガンダムSEED』が制作された2002年当時は、働く女性が主人公のドラマ、例えば派遣社員を主人公にした

『ハケンの品格』や、庶務課OLの活躍を描く『ショムニ』などが放送されたり、古代中国?に初の女性官僚が生まれる

アニメ、『彩雲国物語』がヒットしたりという現象があった。

1986年に制定された男女雇用機会均等法がようやく機能し始め、働く女性たちにもスポットライトが当たり、職場でのセクハラやマタハラ(マタニティハラスメント)禁止が法律で明文化された時期とも重なる。

今では職場で有給休暇が当たり前に取れて、家族にカレーの作り置きをしながらも、大好きな押しのアイスショーには笑顔で堂々と出かけることができる女性たちの姿がある。

本当に良い時代になったとしみじみ思う。

 

 

先に挙げた羽生選手が手を差し伸べるエンディングシーンは、『劇場版ガンダムSEED FREEDOM』のエンディング場面の一つではないだろうか。

※「インパルスガンダム」を操縦するルナマリア・ホーク。

 

 

※ルナに助けられ、ガンダムで回収されるアグネス。

物語の終盤、アグネスは敵側に寝返って戦うが、元同僚のルナに敗れ宇宙空間で叩き落される。

しかし、アグネスが月面で途方に暮れて泣きながら座り込んでいた所、ルナが回収にやってくる。

女性としての承認要求が強く、ルナの元カレも奪ってしまったアグネスだが、素直で人一倍頑張り屋な面もある。

ルナがそんなアグネスに手を差し伸べたのは、元同僚としての情けと友情、そして優しさからであろう。

この場面で、「愛の反対は憎しみではない。無関心です」とナレーションが入るのも印象的だ。

憎しみだけでは戦いは終わらないし、何も変わらないということを教えてくれる名場面である。

自分が予備知識なしに羽生選手の演技を見て胸がキュンとしたのは、彼が醸し出す愛と慈しみの波動を、無意識に感じ取ったためかもしれない。

 

ガンダムシリーズ(SEED)を全編通してみると、羽生選手の『ミーティア』が10倍楽しめることは間違いない。