二十五年後の読書 乙川優三郎

最近 ロゴスの市 トワイライト・シャッフル と読み込んでいる乙川優三郎の長編。
初版2018年10月 
 
著者プロフィールによれば外資系ホテルへの勤務経験があるとのことだが、邦題とは違う英語題がついていて、個人的には英語題の方が作品にはあっているように思う。
 
3作に共通する読書・本・文体というものに対する極めて強いこだわりが表現された小説。もちろんフィクションの形はとっており、今回はカクテル+旅行というトッピングが加わっているので、決して文学論を読まされている感じではない。ストーリは楽しく追うことができるが、テーマは「文学」であり、それを作る「人間」の在り方。
 
主人公「響子」の「谷郷」への執着が、自分が男性である故か追体験するのは難しいが、最後の南の島での日々の部分は、自然・ホテルスタッフ・訪問した編集者などの設定がすべて素晴らしい。そのキラキラとしたすばらしさが、ラストの響子の変化につながっているし、その変化が読者にとって共感しうるものになっている。響子がゲラを読むときの、たたきこむような描写が素晴らしい。
 
評論家ではなく作家である人間が、文体論を正面切って論じ、世の風潮を嘆くのはそれなりにリスクのあることと思うが、その主張をなんの抵抗もなく肯ずることができる作品だと思う。
 
★★★★半
 

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