乙川優三郎 の 恋愛小説 ロゴスの市
2017年島清恋愛文学賞受賞

 
翻訳家を主人公にした小説。もう一人の登場人物は同時通訳者であり、言葉に関する会話や思考が主要テーマになる。恋愛小説の形をとっており、出版社もそのように推しているし、そういう賞も取っているが、実質は言葉に関する小説と思う。
 
主人公は翻訳家という世界で言葉を極めて行き、英語で作家が表現したものを日本語でどう表現するかに挑戦していく。その悩み・考えとそこからのブレイクスルーはとても魅力的だ。
 
だけど同時通訳者の女性に対する態度は、男性として魅力的には見えず、なよなよとした頼りないものにしか見えない。そこに脱皮は起きず、そのまま小説は終了し、結末を受けても主人公の行動変容(最近はやりの単語)は起きず、新しく誕生した自分の係累の作家の言葉を相変わらず愛でている。芸術家というものはそういうものなのかもしれない。
 
同じように言葉を愛するものとして、こんな風に生きられたらいいなとは思う。その狡さや無責任さも含め。ある意味理想だ。
 
★★★半
 
ブログ内の読書リストは以下から