【『團菊祭』備忘録】面明かり | 観劇のためのプチ備忘録

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観劇やダンスが趣味です。
ロシアバレエから舞台芸術の世界へ。
團十郎襲名公演中は歌舞伎を集中して観ます。
舞台鑑賞で学んだことや感じたことを書きつづります。
劇場の施設管理や設備管理、アートマネジメントに興味があります。

『伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)』「床下」の場は、悪の親玉である仁木弾正(にっきだんじょう)が花道のすっぽんから登場するシーンが見せ場です。


登場から退場までセリフが一切なく、仁木弾正の存在「being」だけで舞台空間を支配します。
そのシーンの演出に使われるのが「面(つら)明かり」という照明使いです。

後見二人が蝋燭(ろうそく)の火を差し出して、役者の顔を映し出します。
蝋燭は本物の火ですから、暗闇の中、炎が妖しくゆらゆらとうごめきます。

蝋燭の炎に照らし出された仁木弾正の凄み。
悪の色香というか、妖しい雰囲気全開です。
観客は息を呑んで弾正を見守ります。

3階席は花道の七三(しちさん)、つまり、すっぽんあたりでは役者の姿が見えるのですが、花道の奥は見えません。
ところが、この「床下」の場では、仁木弾正の影が前の壁に映し出されているので、
影のゆらめきで花道からの退場シーンを楽しめます。

壁の影が動くので、花道を進む仁木弾正の姿を思い浮かべます。
そして、影がひときわ大きくなり…消えます。
影で魅せられました。

最近、スクリーンやモビール(動く彫刻)のシルエットを演出に使った舞台を見たので、影の芸術?ちょっと気になります。

フランシス・フォード・コッポラ監督の映画『ドラキュラ』でもドラキュラの登場シーンに影を効果的に使っていたのが印象的でした。
ゲイリー・オールドマンウィノナ・ライダー主演で1992年の作品です。