名作の楽しみ‐564 第170回直木賞 河崎秋子「ともぐい」、万城目学「八月の御所グラウンド」- | 松尾文化研究所

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名作の楽しみ‐564 第170回直木賞 河崎秋子「ともぐい」、万城目学「八月の御所グラウンド」-「オール読物」編

 オール読物で2024年度の直木賞作品を垣間見た。河崎秋子の「ともぐい」と万城目学の「八月の御所グラウンド」である。

 前者は、明治時代、日露戦争前の北海道が舞台。猟師の孤独な男が鹿やクマを狩りして、その皮や肉を町で売り歩いて生計を立てている話。作者が女性とは思えぬ荒々しい雰囲気が精緻な文章力でかもしだしている作品。基本的には動物愛護の立場をとる私にはなじめない世界であるが、優れた文章力、構成力、物語性を有しており、今後機会があったら読みたいと思った作品であった。

 後者は、現代の京都の夏の物語。京大であろうか、文科系と理科系の学生が野球というスポーツで結び付けられ、卒論や就活といった現代のテーマに取り組んでいる作品。中国の女性も絡んで発展していくことが予想される。これも文章力は優れていて、ワクワク感が滲み出ている作品で、機会があったら読破したいと思った。

 序に、オール読物合併号の直木賞作家読切を読んでみた。唯川恵の「陽の道」、西條奈加の「夏椿」、北村薫の「花梨から檸檬」、石田衣良の「乙女ロード文豪倶楽部」である。前二者は江戸時代の庶民の生活を描いたもの。後二者は現代劇。いずれも直木賞受賞作家らしく、気の利いた面白さがあり、大いに楽しめた。但し、そこには面白さという言葉でしか表せないものであり、文学に触れるという感覚は乏しかった。直木賞作家というレッテルに対する先入観みたいなものもあるだろうが、心には残らず、通り過ぎて行ってしまうものばかりであったように思う。まあ、それでも大いに楽しめたのだから良しとしなければならないし、これからも時折、「オール読物」を買って読みたいとは思っている。