名作の楽しみ-417 クライヴ・パーカー「冷たい心の谷」 | 松尾文化研究所

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名作の楽しみ-417 クライヴ・パーカー「冷たい心の谷」

  

 本屋の前で書籍を並べている場所は時々実に面白い本がある。今回、何となく物色していたら、この本に出会った。著者も題名も全く知らないが、上下2冊の長編で興味を惹いた。

 読み出すと、訳(嶋田洋一)も素晴らしくその流れに直ぐ乗った。20世紀初めのルーマニア出身のハリウッド女優カーチャ・ルビが主人公。と思いきや、直ぐにその時代は終り、第二の主人公トッド・ビケットが登場。彼はハリウッドの大スター。但し、時代は75年も後のこと。最初から怪しげな雰囲気が漂っていたが、その本性が現われた。つまり、カーチャが所有するコールド・ヴァレー(冷たい谷)に、カーチャは容色衰えず、住んでおり、昔の俳優が幽霊となって森の中に住み着いている。しかも彼らは死んでも尚、性的に盛んであり、おぞましいのは獣とも交わり、ケンタウロスならまだしもとんでもない獣人間の子孫を残している。一方トッドは、30も半ばになり、皺が目立ち始めてきて、整形により若返ろうとするが、失敗する。そして、コールド・ヴァレーに隠れる。そこで、カーチャに見初められ、彼女の世界に引き込まれそうになるが、彼のファンクラブで熱心なファンであるタミーという女性によって助けられる。しかし、カーチャは諦めない。何とか彼を取り戻そうとして、トッドのマネージャーでちょっと前に彼のもとから去ったマクシーンの家のパーティー会場で彼とともにコールド・ヴァレーに戻ってしまう。タミーとマクシーンらがトッドを助けようとコールドヴァレ-に戻るが、そこでタミーが大活躍。その谷の怪奇現象を叩き潰してしまうが、トッドはカーチャに殺され、カーチャも幽霊立ちによって引きちぎられて死んでしまう。そこで終わりかと思いきや、その悪夢のような経験によりタミーは精神的に参ってしまい、自宅から一歩も出られなくなり、またマクシーンもコールド・ヴァレーの真相を追求されて不快な日々を送る。そんな時、マクシーンはタミーに電話をかけ、何かやり残した感覚を訴える。タミーもその感覚を持っており、再び二人でコールド・ヴァレーへ向かう。そこで見たのは死んだトッド。彼は毎晩光の天使の誘いに怯えており、タミーとマクシーンは彼を助けようとして逃げ出すが、途中で光の天使のために大事故を起こし、タミーは瀕死の重傷を負う。結局、トッドが光の天使と取引をして、タミーを助ける。

ハリウッドという特殊な世界の75年間、コールド・ヴァレーはその象徴なのか。結局平凡な人を思いやるタミーという女性が真のヒロインとなると言う皮肉。その彼女に感化され、人を思いやる気持が芽生えたトッドは、天国に召されると言う結末がこの小説の一番言いたいところなのかもしれない。

いずれにしてもこんな小説は初めての経験だ。そういう意味では実に面白かったと言わざるを得ない。特に文章力は実に優れていて、それを訳者が一層高めたと思っている。