男の唇 ⑰ | 明鏡 ーもうひとつの信義ー

明鏡 ーもうひとつの信義ー

韓国ドラマ『信義ーシンイー』二次小説



「手紙をお書きになったのですか」
「ええ」

あの方の濡れた髪を俺は手拭いで拭いていた
乾ききるには心許無い薄い手拭いである
風邪をひいてもらっては困る身体なのだ

「驚いた?」
「はい」
「怖い?」

俺に背を向けたまま問いかけた
どうして俺はすぐに喜ばなかったのか
貴女はきっと帰れないのは俺自身のせいだと思い込んでいると考えたのであろう

「怖いです」
「ヨンァ」
「貴女と生まれてくる子を守れる男になれるかと思えば」

貴女は振り返り俺に縋りついてきた
両手を目一杯広げ俺の背中をしっかりと掴む
絶対離さないと言わんばかりだ
俺はその頼りない身体をやはり両手を広げ胸に包むこむように抱いた

「男でしょうか、女でしょうか」
「そんなのわからないわ」

貴女の声が震えている
鼻を啜る音が俺の胸で聞こえた
俺は抱きしめていた手を貴女の頭の後ろに持っていき、幼な子をあやすみたいにそっと撫ぜた
なんと愛おしい時間だ
このまま夜が明けるまででも撫ぜていられる

「俺は女がいい」
「どうして?」
「貴女に似た娘なら、俺は両手に花です」
「ばか・・・」

右に貴女を左に娘を抱きながら眠る夜がくる
そう思うだけで舞い上がるような気持ちです
俺は左手で貴女の腰を抱きそのまま寝台へ横たわらせた
揺らしたら壊れちまいそうで怖い

「怖がらないで」
「大丈夫ですか」
「大丈夫」

右手を寝台に突き貴女を見下ろした
俺は貴女のことが、心の底から愛おしくて困っちまう
どれほど見つめあったのかわからない
ひき寄せられるように唇を重ねた
激しくもとめるのではない、鳥が啄むような軽やかなくちづけ

手紙の内容をあの人は聞かなかった
聞けばやっぱり後悔するに決まっている
私がお願いした手紙をユンジュン先生はきっと両親に届けてくれ
チャン先生が話してくれると思うの
貴方のこと、私が幸せなこと、子どもができたこと
先生は誠実だし、きっと上手く両親を説明してくれる

「どうして俺に秘密で侍医を送り出したのですか」
「あらだって、私の先生だもの」
「嫉妬します」
「ヨボ、聞いて」

先生と生徒、師匠と弟子は、男女を超えた関係なのよ
嫉妬をする意味が分からないわ
それにチャン先生はずっとユンジュン先生一筋なの
貴方が私一筋なようにね

貴女の白い人差し指が俺の鼻をチョンと触れた
俺はその人差し指をパクリと咥え、含んだまま舌先で舐める

「やだ、悪戯はやめて」

あたたかい舌が私の指を舐めてそのまま吸い付いてくる
不用意に触れた事を後悔するわ
咥えられているのは指だけなのに頬が熱くなり首筋に汗が滲む

「だめよ、ダメだから・・・本当にダメ」
「そこまで駄目と言われると俺は争いたくなります」
「じゃ・・・はげしくはダメよ」





両手で俺の胸を押さえつけるが全く拒んじゃいない
貴女はいつもそうだ
ただ隣りで寝ていればそのままで
俺が願えば「いいわよ」と受け入れる

「貴方が好きだから・・・無理意地は嫌なのよ」

俺もです・・・