蒼芥子(喜馬拉雅花)⑦ | 明鏡 ーもうひとつの信義ー

明鏡 ーもうひとつの信義ー

韓国ドラマ『信義ーシンイー』二次小説



「先生、全てを捨てて恋する女を追う覚悟はありますか?」

医仙は思い詰めた顔で私に問いかけた
微かに鈴虫の音が聞こえる時期であった
その音が一瞬止まった時

「多分七日後だと思います」

私はユンジョンの写真を指先で何度もなぞり
そのあと掌で覆った

「ユンジョンは、その後どうしていますか」

私がおらずとも幸せに暮らしているのならば、独善
だが、私のことを・・・いやあるまい

「あの事故のあと先生は病院を辞めたの」
「まさかあのユンジョンが、そのような事は」
「私もどうして救命医療に懸命だった先生がと思ったわ」

医仙の声は遠い昔を懐かしむような言いぶりだった
私が手で覆い隠した写真をそっとひきだし暫く眺めた後
写真の両端を指先で持ち卓に置いた

「あの花が咲く所で見つけたい人がいるって」
「見つかるわけなどない」
「夢だって皆んな言ったのよ、でもこの花びらを見つけて」

医仙は青い花びらを掌にのせて人差し指で触れた
そして私の手を取るとその花びらをのせた
まだ乾ききっておらず、瑞々しく、あの日のまま

「信じたんじゃない」
「医仙」
「先生、私今ならわかる・・・ユンジョン先生の気持ちが」

花びらをのせた私の掌を医仙は両手で包みこんだ
あたたかく沁み入る
もう一度追いかける機会があったなら独善でいいではないか
私は迷わない

「医仙、好きな女を追いかけるのに私に未練などありません」
「そう言うと思ってました。チャン先生」
「七日後ですね、お願いがあります」

チャン先生は、王宮を去ることを誰にも言わないで欲しいと言った
別れを惜しむ人はいるでしょう?と聞けば
「貴女はしましたか?」と微笑み首を振った
微かに聞こえていた虫の音がすっかり消えていた

残された時は、七日
貴女はどうするのか?と私は医仙に問いかけた
ほんの少しならば向かい帰る事もできよう
だが、穏やかな微笑みをたたえ首を小さく振った
「行かないわ。先生、私今ね子どもがいるみたいなの」
あの門を越えて戻って来れるかわからないわ
それに分かっちゃったのよ・・・先生
この子の為なら何でも受け入れられる

「医仙、貴女というお方は」
「でも手紙をお願いできます?」
「どなたにお渡しすれば」
「ユンジョン先生に」

きっとユンジョン先生が時が来たら渡してくれる
私チャン先生に言えていない事が一つだけあった

ウンス、あの子・・・違うわね、あの人が追いかけてきたの
貴女のおかげよ、コマオウンス




おぼろげな記憶のパズルが少しづつ埋まっていく
あの日私は・・・あの会場で