男の唇 ⑫ | 明鏡 ーもうひとつの信義ー

明鏡 ーもうひとつの信義ー

韓国ドラマ『信義ーシンイー』二次小説



ーモドレナイワヨー

世の中は俺が思っている以上に残酷なものだ
例え貴女が天界の人だとしても
捨て置かれた日には、俺は男としての体面はない

「簡単ではない」

しかし、今の俺には迷いなど一分もないのです
ただ傍に・・・

「明日の事など分かりません」
「大袈裟ね」
「この一瞬を貴女と一緒に過ごせれば俺は本望です」

人差し指で額にかかる髪を掬い上げ顔を近づけてくる
その顔に見惚れている間に額にくちづけをしてきた
ふわりと触れた脣はとてもやさしくて
心まで蕩けてしまいそうになった

「これ以上はできませぬ」
「えっ、どうして?」

そっと耳元に脣を近づけ
「貴女が今すぐ欲しくなるもので」
耳の端に触れた鼻先に鼓動が早くなって息ができない
今、こんな愛に出逢うだなんて

「いいじゃない・・・今すぐでも」

モドレナイと泣くのは私の方かもしれない
包みの中のたった一枚の夜着に袖を通さずに
幾夜も過ごし、すっかり持ってきた夜着の季節が過ぎてしまった

「情けないです」
「どうして」
「貴女といると俺は節操無しになる」

照れて言ってわけじゃないの
本気で不貞腐れているのよ
私の背中に顔を埋めて微かに脣が動いた
ただそれだけで体が痺れるように震える

ー俺をおいて行かないでくれー

季節はもう夏になろうとしていた
時間は残酷に過ぎていく
「いいではないですか」
チャン先生は、迷っている私にさらりと言ってのけた
「簡単じゃないわ」
「そうですか、私には至極簡単だと思いますが」
「どうして、私はこの地の」
「そうではありません。一緒に居たいかどうかです」
「それは、居たいわ」
チャン先生は、悲しそうな顔をしていた
私の事が好きじゃないのは知っているから
どうしてそんな顔をするの?と聞きたくなる

「医仙、何ものにも代え難いと思いませんか?」
「でも、でも、」
「私のようになってはなりません。アンダスタン、医仙」

消え入りそうな問いかけに私は思わず
『コ・ユンジョン先生』と呟いていた
コ・ユンジョン先生いつも私に問いかけた
「アンダスタン、ユ・ウンス。貴女は難しく考え過ぎ」
「先生」
「本能に逆らわず、走ってみなくちゃ・・・ね」
「向いてないと思います」
「それでも医療の道を歩くのよ、貴女はそんな人だわ」
「先生みたいには」
コール音が鳴り響くとコ先生は長い髪を黒いゴムで一纏めにした
「この瞬間助けられる命の事だけを考えましょう」
やっぱり白衣に袖を通す時間も勿体ないというように
ただ掴んで走りだした

「医仙・・・どうして貴女はユンジョンの事を知っているのです」





知っていますか
何気ない出来事にも全て意味がある事を
そして全てが必然となる事を