ウィステリア ① | 明鏡 ーもうひとつの信義ー

明鏡 ーもうひとつの信義ー

韓国ドラマ『信義ーシンイー』二次小説



ゴールデンウィークも頑張る姉様へ
真凛からのプレゼントデス
マズ1話٩(๑❛ᴗ❛๑)۶




顔も見たくない男が部屋に来た
腕を組み文句を言いたげな口元はへの字に曲がっている
私の顔を見たくないなら来なきゃいいのに

「もう帰ってちょうだい」

先生から貰ったお酒をすこーしだけ呑んで
ここの長い夜を紛らわせるのだから

「帰れません」

何言っているのよ
貴方の頬には「この女の顔も見たくない」と書いてあるわ
なんなら額には「どうして連れて来ちまったのか」って見える気がする

「要件があるならさっさと済ませて」

胸の前で組んでいた腕をゆるめ口の端を驚くぐらいに歪ませ
急に両手を卓に突き頭を下げた

「なっ、何よ・・・何か悪い物でも食べたの?」

誰にも知られずに治療を受けたいとかそんなの?
多少顔色は青かったけど、嫌々あの人のこと
それぐらいなら寝て治すに決まっているわ

「面倒な事なら御免よ、分かったなら帰ってちょうだい」
「酒、酒を・・・特上の酒を十瓶、否二十瓶差し上げます」
「二十瓶?」

私の頭の中には卓の上に置かれた20本の酒瓶が浮かんだ
口が細く下にいくほどぽってりとしたフォルムの愛しいヤツ
たった1本手に入れるだけでも苦労した
先生に治療の為だとか、傷口の消毒用だとか
御託を並べやっとで私の手元に来てくれた

「嘘じゃないわよね」
「俺は嘘などつきません」

あらすぐ帰すと嘘をついたじゃない
望みの物を手に入れたら
「飲み過ぎては身を持ち崩す」とか言い出すじゃないの
あー貴方の言うことなど透け透けよ

「いらないわ」
「何と」
「何度も言わせないで、いらないデス!」

王妃様の診察をしてしっかりお代をもらって自分で買うわ
そんな足元を見られるようなの・・・要らないわ

「そうですか、王様から年に一度頂く特別な酒なのですが」
「年一の特別・・・数量限定ってやつじゃない」
「スウリョウゲンテイの意味は分かりませんが、医仙が要らぬというのなら他を当たるしかなく」
「チェさん、聞くだけなら聞いてあげてもいいわよ」

そうよ、聞くだけ聞いてやれそうならお得な話じゃない
だって数量限定の高級酒が20本よ
半分ずつ呑んだら40日、3分の1ずつ呑んだら60日
もうちょっと我慢したら・・・私の妄想が広がる

「言ってごらんなさいよ」
「大した事はない、先に一本飲みながら」
「20本引く1本・・・19本になっちゃうわ」
「何を言われる、この一本は別枠です」

チュンソクの練った策などにこの方が乗るのかと思ったが
やはりあの男王宮の隅々まで知り尽くしている
「テソン様からお手紙が来ております」
チュンソクの手には見慣れた字の文があった
「なんだ、まさか病に伏せっているいうのでは」
俺は慌てて封を開け丁寧にたたまれた紙片を広げた

坊っちゃま
お元気でしょうか
テソンは、身体中の節々が痛くはありますが
元気で過ごしております
もう何度目かの文でございますが
この度は坊っちゃまの奥方様を自らお選びいたします
すぐに参ります、ご安心ください

俺の口の端が痙攣を起こし出した
ピクピクと動き止まらず、自らの手で押さえた
「何と書かれていましたか?」
「此れは面倒な事になる、チュンソク」
「いつものように早く妻をーではないのですか」
「来ると言っている」
来るとなれば「決まっておらぬ」では帰らないであろう
口裏を合わせてくれる女など俺の周りにはいやしない

「居ます、居ますよ、隊長」
「まさか薬売りの奴の誰かを女装させるとかいうのではないだろうな」
「もう女装しているのがいますよ、そうではなく」
「言っておくがトギで一度失敗をしている」
「トギ様でやられたのですか」

あの時は最悪だった
テソンの注意に怒ったトギが俺を蹴り上げ拳で腹を打った
避けるわけにもいかず、全てを受け止め
テソンには嫌と言うぐらい叱責された上
逃げられそうにもない縁談を幾つも押し付けられた

「よく独り身を貫けたと自らを褒めたいくらいだ」

その時に覚悟し婚姻してしまえば良かったと言うのに
しなかった為にまた振り出しに戻るとなってしまっている

「背に腹はかえられぬと思ってください」
「あぁ、今回逃げのびればどうにかなる」
「私は、医仙が良いと思うのです」

どうして選りにも選ってあの方なのだ
一番クジで引いちゃいけない女だ
しかも一度俺は引いちまい今困っているだろう

「真摯に頼めば必ず力になってくださる、私は信じております」
「しかし、首を縦に振るとは思えぬ」
「幾ら仙女だったとしても何も無しでは何もしてくれません」
「医仙が首を縦に振る代物を目の前にちらつかせると言うことか」
「さように」

チュンソク其れは「信じている」とは言わぬ
利用できるというのではないか

「まず酒を」

俺は懐から小さな酒瓶を取り出した
「これで20本?」
「違います、此れは皆に見つからぬように用意した為です」
「本当」
「この倍、否二倍の大きさの酒瓶にて」
医仙は部屋の奥に小走りで行き小さな盃を二個持ってきた
「毒味よ。チェさん、先に一杯呑んで」
俺が貴女に毒を盛ろうと言うのか呆れて文句も言えない
「いいですよ、では一杯」
俺は飲み干した後、その盃を医仙に渡した
「あら固めの杯みたいね」
「約束ですからね(夫婦になっていただく)」
酔い潰れてもらわなくては困るのだ
このたった一本の酒であの方を口説き落とせるのか
俺には自信がなかった