気づいたら目の前は真っ暗でなにも見えない。何してたんだっけ?なんでここにいるんだっけ?なんて正直考えたくなかった。ただただ怖かった。これから何が起こるかわからない。得体の知れない恐怖。誰か、誰か助けて。なんで私なの。なんで。
もう完全にパニック。
「起きたか。」
誰かが近づいてくる。声からわかるのは多分、若い男の人だ。
「嫌っ。来ないでっ!」
なんで!動けない!足も手も縛られてる。嫌!
「静かにしてくれたらこっちだって
何にもしねぇよ。だから、な?
静かにしちゃくんないかな?」
悪魔だと思った。いつの間にか月が男を照らしていた。どうやらここは室内らしい。
「…なに、するの?」
「何にもしねぇって。あ、でも
俺、そういう怯えた目で見られる
の好きだな。」
「うっ、うっさい!」
「そういう強がりな女も嫌いじゃ
ないぜ。」
「来んなって!来んな!」
「綺麗な髪してんのな。」
ゴツゴツした手で私の髪をすく。少し束にした髪を口に含む。
嫌だ!嫌だ嫌だ嫌だ!汚い手で触んないで。嫌ぁ!!
「どうした?さっきの勢いは?
もう終わりか?」
もう、怖くて声も出ない。嫌悪感しかない。なんで自分はこんな男に触られてんの?嫌だ。嫌だ!怖い…
パリンッ!!!
「っ!なんだ!誰だ!」
あ……サッカーボール…。
「くそっ。おいお前!ここで大人し
く待ってろよ。」
「奏!」
小さい声で呼ばれた。声のする方には優くんが。
「早く!こっち!」
優くんが言い終わる前には走り出していた。
「抜け穴があるんだ。こっち。」
もう大丈夫だというように、優くんは手を握ってくれていた。それが私にとったらどれだけ心強かっただろうか。
私たちは上手く逃げ出した。私も優くんも足が速くてよかった。それに実は家に近い場所だった。誰にも使われていない廃墟。家に母さんたちがいなかったのも不幸中の幸いだ。今、この状況を話す気にはとてもなれない。
「怖かったろ。………ごめんな。
一人にして。もう、絶対しない
から。」
そう言って抱きしめてくれる。涙が止まんない。
「うっ、うっ。優くんのバカ。
………う……怖かったよぅ。
……………………ありがとう。」
まるで割れ物でも扱うかのような優くんの手。ありがとう。ありがとう。困らせるってわかってるのに涙がとまんないや。
薫ちゃんが好きなのはわかってるけど、今だけはそばに居て。