あぁ、ちょっと遅くなりすぎたかも。奏にあやまんなきゃな。
レジを済ませてコンビニを出る。確かこのベンチに……
え……奏いないじゃん。先帰っちゃったのかな。でも勝手に帰るようなやつじゃないし。とりあえず家にいってみるか。
家に近づくけば近づくほど不安になってくる。
今日、おばさんたち結婚記念日だっけ?家にいないんたよな?奏の姉ちゃんは?そうだ、菫姉ちゃんは彼氏とデートって奏が言ってたな。……待って。奏ん家、電気ついてない。…嘘だ。奏は?どこ行った?俺が一人にするから。一緒にコンビニ行けばよかった。無理にでも連れてきゃよかった。どこだよ、奏っ!!
落ち着け。落ち着け、俺。あの道は車が通れる細さじゃない。バイクが来たら音でわかる。音が響くんだよ、あの道。てことはだ、そんなに遠くへは行けない。この近くのはずだ。どこ行けばいいんだっ、くそっ。
思わずしゃがみ込んだ。
「あっ。」
奏のリップ。いつもポケットに入れてるやつだ。俺が買いに行かされたんだよな。なんかわかんねぇけど落ち着いた。大丈夫。奏は近くにいる。俺の手の届くところにいる。怪しいところなんてあそこしかないじゃないか。
近所の廃屋。ここにかけるしかない。というか隠れる場所はここしかないように思える。
「やっ……!」
近づけば近づくほど聞こえてくる奏の声。お前、何されてんだよ。
「嫌ぁ!!」
思わず叫びそうになった。何してくれてんだよ。なに傷つけてくれてんだよ。ふつふつと怒りが湧いてくる。このやろ。
足に何か当たった。ボールか?好都合だ。あいつの頭めがけてけってやるよ。
パリンッ!!
命中。さすが俺。…とか言ってる場合じゃないな。
中いる人影が動いたのを見て抜け穴へ急ぐ。
俺が部屋に着いた時、まるで人形のような奏がそこにはいた。怖かった。叫びたくなる衝動を抑え、奏をこちらに呼ぶ。案外すんなり来た。何も言わないのが俺にとって不安要素でしかなかった。奏をこんな風にしたやつが許せなかった。
いつの間にか手をキツく握っていたらしい。奏が握り返してくれる。あぁ、今こいつには俺しかいない。俺がしっかりしなきゃ。俺が守らなきゃ。俺がこいつの不安も何もかも全部受け止めてやらなきゃ。
奏ん家に着いた途端、奏は糸が切れたように泣きじゃくった。泣いて泣いて…。俺は奏を抱きしめた。戻ってきてくれてよかった。奏も俺にすがりついた。さっき自分に触れていた手を忘れるかのように。ごめん。ごめん、奏。俺のせいだよな。どんな罰でも受けるから。俺、幸せになれなくていい。奏が笑っていてくれたらそれでいい。だけど今は泣いてくれ。でないとまたあの人形のようになってしまうような気がした。
もう誰にも触らせないから。もう誰にも…。
頬に流れる雫にそっとキスをした。このキスに誓って俺は一生お前を幸せにする。