昭和13年2月、ムツオは祖母の田畑を担保に銀行から600円を借り(現在の金額で約450万円)神戸で【猟銃と日本刀】を購入する。

そして…屋根裏部屋に1人籠り今度は【銃の改造】という恐ろしい執着に染まり始める。

日中は山々でそれらの銃を試し撃ちしては楽しんでいたため、村人達は身の危険を感じたが、どうする事も出来なかった。

昭和13年3月12日早朝、ムツオの家は突然、警察の家宅捜査を受ける。

不安を覚えた祖母のイネが警察に相談をしていたのだった。

屋根裏部屋から猟銃や日本刀が押収されたが、取り調べを担当した警察官に対してムツオは素直に応じ、涙までも流したため逮捕は見送り、厳重注意のみで済ませた。

しかし…ムツオの恐ろしい導火線はこの時既に秒読み段階であった。

「祖母にまで裏切られた…」

密かに武器の再調達に取り掛かったムツオはすでに別の意味での【戦争】を始めようとしていた…


【昭和13年5月20日19時】

ムツオは電信柱に登り、村全体へ供給する電線を切断する。

当時は電気事情も不安定であり、突然の停電も日常的だったため、村人達は動じる事も無く眠りに就いた。

そしてムツオは詰襟学生服、ゲートル、地下足袋…胸にはカンテラ型の電灯、頭には巻き付けた鉢巻きに2本の懐中電灯を取り付け、両手には散弾銃と日本刀という世にもおぞましい出で立ちで身を染めた。

そう…その格好は夢見た兵隊を表す【軍服】そのものであった。


翌21日1時…静かに眠るイネにムツオは合掌した後、

『おばやん、堪忍してつかぁさい』

と言い、鎌で首を削ぎ落とした。

それを合図としたかのように、それから次々に家に押し入り、散弾銃や日本刀で村人達を惨殺した。

電話も無い村には最も近い警察署に助けを呼ぶにも片道1時間以上かかるという事をムツオは事前に調べており、また夜這いの経験から裏道や侵入経路なども把握済みだったため確実に村人達を殺していった。

僅か1時間足らずで14件の家を襲い、30名が死亡して2名が重傷を負った。

そして明け方近くになった4時頃、ムツオは村を一望出来る小高い丘に辿り着いた。

うっすらと霧に包まれた遥か先には短い間だったが両親と楽しく過ごした生まれ故郷である鴨田村が見えていた。

そこでムツオは最愛の姉へ遺書を書き始めた。

『愈々死するにあたり一筆書き置き申します』

と始まり、残された姉への御詫び、自らの病による村人達からの差別などを記した後、

『もはや夜明けが近づいた。死にましょう』

と書き終え、胸に銃口をあてて引き金を引いた。

鬼の最期の遠吠えのような銃声があたりに響き渡った。

弾丸は瞬時に心臓を貫いて即死だった。


その後…ムツオと祖母の遺体は姉が引き取り、新たに他の村へと引っ越して行き、その後の行方は分かっていない…
【津山30人殺し事件】

※詳細な地域名や人物名は【全て仮名】※


大正6年3月5日、岡山県の鴨田村にて【戸山ムツオ】が産まれる。

大正9年、当時不治の病とされていた【肺結核】により両親が相次いで亡くなり、残されたのはムツオと姉、祖母のイネだけであった。

3人はリヤカー1台分の少ない荷物を持ち、生まれ故郷である【加央村】に戻る事となった。

幼いムツオは姉こそが唯一の母親代わりであり常に一緒に過ごしていた。

病弱だったため1年遅れで小学校へ入学したが成績は常に優秀で3年生からは級長も務め、村でも将来を期待されていた。

しかし…そんなムツオに最初の【絶望】が訪れる…

最愛の姉が嫁入りのため、他の村へと引っ越す事になったのだ。

村を出ていく姉に泣きながらずっと手を振り続けて見送るムツオの姿は村人達の心に深く印象に残った。

姉が居なくなったムツオは一気に【孤独】になった。

祖母は毎日が農作業で忙しくムツオが心を開く余裕も無かった。

親友…いや友人と呼べる者も居なかった。


昭和10年12月31日朝、専門学校入学試験を目指して猛勉強の真っ最中だったムツオは突然の吐血に襲われた。

病院で診察を受けた結果、軽度の【肺尖カタル】と言われる。

↑※肺尖部の結核性炎症の事で当時はこの肺尖部により肺結核が始まるとされていたが現在の医学ではこのような事はないと証明されている※

両親も結核で亡くなったため追い討ちをかけるには十分な診察結果だった。

ムツオは受験を諦め、病の恐怖から逃れるため【夜這い行為】に執着し始め、夜になると村を徘徊しては人妻達を見つけ口止め料を兼ねた高い報酬で夜這いをしていた。

↑※当時は日本の各所では夜這いが一種の風習として根付いていたともされているが定かではない※

しかしそんなムツオにも残された唯一の【夢】があった。

それは当時日本青年の憧れであった【兵隊になる】事だった。

たった1つの夢…

しかし…微兵検査の検査は丙種 (不合格)という残酷なものだった。

ムツオは泣きながら撤回を求めたが、それが許される事はなく、更に追い込まれる最悪の出来事が起こる…

ある夜、いつも会っていた人妻から病気を理由に体の関係を拒絶されてしまったのである。

最も知られたくなかった病の事はすでに村中に知れ渡っていた。

村人達はムツオの家の前を通るのを避け、どうしても通らなければいけない時は、手ぬぐいなどで口を覆って足早に通りすぎていた。


「幼い時に両親を結核で亡くし親代わりの姉さえも結婚して目の前から居なくなった」

「両親を苦しめた病が今度は自分を蝕み始めている」

「村人達からも差別を受けるようになった」

「唯一の夢であった兵隊にもなれなかった」

村一番の将来の希望とされた自分だけがなぜこんな酷い仕打ちを受けなければいけないのか…


ムツオの中で何かが…恐ろしく…そして確実に弾け切れていった…
そして卒業間近になった頃、6年生は数日後に控えた修学旅行へ向けて準備が進められていた。

皆、友達同士の初めての旅行という事で心ときめかせていた。

この日は各クラスで修学旅行の最終打ち合わせが行われていた。

その時…














「くちゃーに……」


戸川の耳に内木のあの言葉が、はっきりと聞こえた。



周りを見渡すと…

『え!?…あ…あれは…!』

戸川は鴨田…いやクラス全員の首筋の辺りから空中に伸びた半透明のロープの様なものが見えた。

そのロープを辿って見ていくと…

それは…

















内木が宙に浮いて不気味な笑みを見せながらクラス全員の首にロープを掛けて束ねている姿だった。

もちろん戸川以外は誰1人と全く気づいていなかった。



そして内木はゆっくりと戸川の方を向いた。

「これが…"くちゃーに"だよ。戸川君…フフフ…」

恐ろしく不気味な笑顔だった。



『うわぁぁぁぁぁぁ!!!』




戸川は教室を飛び出して家まで逃げ帰った。

この時あまりの恐怖に絶句して小便、大便をも垂れ流していた。


帰宅してから布団の中でブルブル震え、

『内木君!あの時ごめんなさい!ごめんなさい!許して!ごめんなさい!』

と半狂乱で唱えていた。



結局戸川はそれから不登校となり修学旅行も取り止めた。



そして修学旅行当日…

6年3組を乗せたバスは高速道路で柵を突き破り谷底へ転落した。

運転手とバスガイドは投げ出されて軽傷だったが教師の川島を含む生徒全員は閉じ込められ、漏れたガソリンに引火したバスは爆破炎上し全員が死亡した。

後に警察が調べた所、バスは転落した衝撃でドアや非常口が変形し、皆は脱出する事が出来ないまま炎に包まれたため絶命するまでの十数分間、バスの中は想像を絶する地獄絵図だった事が判明した。



その後、戸川は精神的に病んでいたが中学、高校、大学と何とか進学して、無事に就職する事が出来た。




そして戸川が26歳になった、ある日…

自宅に手紙が届いた。

それは…
















《6年3組同窓会お知らせ》



『そんな馬鹿な!!』



そう…6年3組は戸川を除いて全員が死亡している。

しかも手紙に書かれている同窓会の会場は母校の教室…

開始時間は24時…


誰かのイタズラなのか。


しかし戸川はこの同窓会に何かしらの意味を感じ1人学校へと向かった。




夜、暗闇の中で不気味に聳え立つ校舎を進んでいくと…


《6年3組同窓会会場》

の貼り紙があった。



ゆっくりとドアを開けると真っ暗な教室があるだけで誰も居なかった。

『やっぱり他のクラスの誰かのイタズラか…』

そう思って帰ろうとした戸川だったが…




首に何かの気配を感じた。



見るとあの半透明のロープが…












「さぁ…君のロープだよ。最後の"くちゃーに"…戸川君だよ」

上を見ると内木が…

あの時の子供のままの姿の内木が戸川に巻いたロープの端を持ち、笑いながら宙に浮いていた。

『うわぁぁぁぁぁ!!内木君!ごめんなさい!許して!許して!!』


「絶対許さないよ…フフフ……最後の"くちゃーに"…」

みるみるうちにロープが締め付けられ、もがき苦しみ薄れゆく意識の中で戸川はこの時に初めて"くちゃーに"の意味が分かった。












くちゃーに…



くちあに…


口…兄…





呪…………
















ー終ー