【お寿司と家族】


高校卒業後、寿司屋で配達のアルバイトをした時だった。

毎日が地図との睨め合いで大変だったが、人が喜んでくれる仕事として楽しかった。

そう、寿司を注文して配達という事は祝い事がほとんど。

呼び鈴を鳴らすと楽しみに待っていた家族達が喜んで出迎えてくれる。

何だか自分が幸せ配達人のように思えた。



ある年末の時。

閉店間際に高級寿司セットを5人前3万円相当の配達依頼があった。

よほどの金持ちか何か特別な祝い事だろうと店内は一気に盛り上がった。

結局、僕が配達をする事になり正直どんな家か期待が膨らんだ。


到着してみると1階が工場で2階が住まいという大きな一軒家だった。

呼び鈴を鳴らすと玄関から奥さんらしき50歳くらいの女性が出てきて、

「…お待ち…して…ました」

と、か細い声で言った。

すると中から3人の子供が玄関まで走ってきた。

「わ~い!お寿司だ!お寿司だ!ねぇ、お母さん!早く食べようよ!」

と、はしゃいでいたが…

奥さんは何故かその時涙を流し始めた。

『だ…大丈夫ですか…?』

思わず話しかけると、

「…あ…ごめんなさい…あまりにも…美味しそうで…感動…して…」

確かに滅多に注文が無い高級寿司。

奥さんが涙ながら喜ぶ姿に僕も本当に嬉しかった。

『そうなんですか!ありがとうございます!器は玄関前に出して頂けたら明日の朝には回収に来ますから!』


代金を頂いてその家を出た時だった。

「すみません!ちょっと待って下さい!」

驚いて振り向くと、その家の旦那さんだった。

「あの…!…お願いがあります!2万円預けますので明日の朝、器を取りに来る時に、クマのぬいぐるみ3個と花束を買ってきて玄関前に置いて下さい!お願いします!」

『え…!?…ど…どういう事でしょうか…』

「あなたになら頼めると思いました!お願いします!…お釣りは要りません!どうかお願いします!」

『わ…分かりました…では明日持ってきますね』

「ありがとうございます!お願いします!…す…すみません…ほ…本当に…ありがとうございます…」

泣きながら頭を下げる旦那さんに戸惑いながらも一礼して帰った。

そして次の日の朝…

僕は馬鹿みたいに言われた通りに器を回収する時にクマのぬいぐるみ3個と花束を玄関前に置いて帰った。

社会人になってまだ数ヶ月たらず…

世の中を知らない僕は本当の事を理解していなかった。



そう…

あれは心中する一家の最後のご飯だった。

あの後、すぐに警察が事務所に来て事情を聞かれ、あの家族の事も知らされた。

会社が倒産して借金だけが膨らんでいた事…

最後…僕が配達する直前にヤミ金から5万円借金していた事…

寿司の代金3万円と僕に託した2万円は最後のお金だった。

あの時、理解して気づいていて止めていれば、あの家族は死なずに済んだのかもしれない…


その後、僕はアルバイトを辞めた。






今は、自殺防止を支援する会社を立ち上げ、自殺を考えてる人を1人でも多く救う日々を送っている。
【ヘルメット】◆オリジナル作品◆


「これで被害者は18人にもなります…全員が暴走族関係者で、やはり盗んだり拾ったヘルメットのようです…」

「しかし…こりゃ酷い事件だな…」

「よほどの苦しみですよ…」

検死室で額にシワをよせて話す刑事達の前にはヘルメットをかぶったまま死んだ男の死体があった。

指は骨折し、爪は全て剥がれ落ち、ヘルメットの側面や首を固定するベルトには、かきむしった跡が深く残っていた。

目は何かに怯え絶望を感じたかのように見開き、経験豊富な刑事達もおぞましさを感じる程だった。


「調べた結果、やはり今回もヘルメットには細工がしてありました」

「しかし…よく考えたものだ…」

「そうですね…普通じゃ想像も出来ない事です…」


ヘルメットの中には小さな毒針が仕込んであった。

しかも一度かぶると絶対に頭から離れないよう細工もされていた。

そう…

それを知らずにそのヘルメットをかぶった者は想像を絶する毒針の痛さと取り外せない恐怖で、もがき苦しみ死ぬ事になるのである。

被害者全員が暴走族関係者でヘルメットそのものも盗んだり拾ったものだった事から無差別な犯行とされた。

しかし噂によると、ある青年が必死にアルバイトをして手に入れたバイクやヘルメットを暴走族に盗まれた事からこのような復讐劇を行ったとも言われたが定かではない。


犯人は未だに捕まっていない。


道端に何気なく落ちている…置いてあるヘルメットには気をつけた方がいいかもしれない。




※フィクション。
【愛限意ーアゲインー】


『那谷君はもう長くないんだよ。あと2週間ぐらいかな。昨日の検査結果で分かってしまってね』


『え~!?残念~!悲しいけど仕方ないよね~』

『逆に良かったじゃない、空き待ちの患者も多かったしさ』





「そんな…」


私がこの病院で清掃員の仕事を始めて2ヶ月ー

隔離病棟に居る人を好きになってしまった。

名前は、

佐和道 那谷(さわみち ともや)

彼の病状が悪いのは薄々分かっていた。

そして今日たまたま担当医師の部屋の前を通りかかった時に聞いてしまった…

『もう長くないんだよ』

余命わずか2週間…

そして周りの看護師達のあまりに軽々しい態度…

でも医療の知識すらろくに無い私はどうする事も出来なかった…


翌日ー

彼の病室に行った。

『あ!掃除のお姉さん!いつもありがとうね』

病気なんて感じさせないほど彼の笑顔は綺麗だった。

「那谷君…」

もう我慢出来なかった。

「私…那谷君の事が好きなの!こんな所でこんな事言ってごめんなさい…!」


『お姉さん…僕も大好きだよ。でももう長くないんだよ…』

「でも良い!そんな事なんて関係無い!」

『お姉さんに迷惑かけるから…大好きなままいたいから…』


私は病室を飛び出して屋上で泣き叫んだ。

ろくに仕事も手につかないまま日々は過ぎ行き…

2週間後…

まるで悪魔があざ笑うかのように残酷にその日は訪れた。

彼は亡くなった…



『那谷君さよならだったね~』

『日頃うるさいくらい元気だったけど、いざ居なくなると寂しいよね~』

『アハハハ!本当ね!でも二度と会えないのはやっぱり寂しいよね~』

看護師達は軽い冗談でも言いながら彼の病室から荷物を運び出して処分していた。

見るに耐えれなかった…















『お姉さん…?』



「え!?…と…那谷君…!?」


『やっぱりお姉さんの事…諦めきれなかったよ』

「ど…どうして那谷君が居るの!?…長くないって……」

理解出来ない…

彼は幽霊なのか…












『この前の検査でクリアしたから無事に退院する事になったんだよ』

「え…?」

『どうしてそんなに驚いているの?《ここには長く居ない》って言ったでしょ?』

「…私…那谷君が……死んだ…って…思ってて…馬鹿な…事…考えて…ごめんなさい…!」

自分の情けなさや再び彼に会えた嬉しさ…様々な事が交差して病院という場所も忘れて大声で泣いてしまった。

『…お姉さん…そんなに僕の事…思ってくれて本当に嬉しいよ』

「那谷君…」




『お姉さん…僕と一緒にカナダに来ない?』

「え…?カナダ…?」

『うん。カナダで仕事決まったんだ。今日はそれを言おうと思って来たの。…一緒に暮らさない?』


『うん。ありがとう』







数日後ー

私達は結婚した。

今は那谷が営むカナダのコテージで一緒に仕事をしている。


毎日本当に幸せ。


那谷…ありがとう。

これからもずっと一緒に居ようね。





※アゲイン(again)とは「再び」「もう一度」「もとの場所へ」という意味。本作品では「限」られた「愛」の本当の「意味」から「再び」として「愛限意(アゲイン)」と表している。