【手料理】


「好き…付き合ってほしい…」

美紀が呟いた。

バイトの残業中の事だった。

付き合ってほしい…そんな事はどうでも良い。

『ふざけるな!今まで僕は……どうしてくれるんだ!』

うまく言葉が出なかったが怒りをぶつけまくった。




僕がこのレストランでバイトを始めたのは1ヶ月前…

仕事も馴染んで楽しかった。

そして残業中はいつも美紀が余り物で差し入れの夜食を作ってくれた。

一人暮らしで食費に困っていた僕は正直本当に助かっていた。


しかし…

今日見てしまった…

美紀は僕に作っていた夜食に…










自分の唾液と血を入れていた…







問いただすと…

「好き…付き合ってほしい…」



今までの1ヶ月間…

僕は何も知らずに美紀の唾液と血が入った料理を食べていた。


『悪い…お前とは付き合えない…』

もちろん断った。


美紀の事は頼りになるし好き…


だけど…














美紀(よしゆき)…

まさか男から告白されるなんて…夢にも思わなかった…
【愛糸】

成沢 晃(なるさわ あきら)


最愛の彼女、瑠弥(るみ)を事故で亡くした。

《「あっくん大好き」》

あの言葉…あの笑顔はもう二度と出会えない…

毎日…どんな時も瑠弥の事は忘れた事が無かった。


そんな日が続いた2年後ー

たまたま近所の花屋へ立ち寄った。

「いらっしゃいませ」

声をかけてきた女性店員を見てハッとした…

『瑠弥…?』

「え…?お客様…?」

姿や格好はまるで違うが、なぜか瑠弥の存在を感じてしまい、その場で泣いてしまった。

瑠弥はもう亡くなっているのに居るはずないじゃないか…

「お客様…だ…大丈夫ですか…?“瑠弥”って…」

驚きながらも店員が優しく接してくれた。


それがきっかけで連絡を取り合うようになり、数日後には正式に付き合うようになった。

名前は紗姫(さき)。

瑠弥の事は事故で亡くなったとしか言わなかった。

しかし紗姫は行動から癖に至るまで瑠弥にそっくりだった。

瑠弥と一緒に居るみたい。

そう思えて嬉しかったが、こんな気持ちは紗姫の存在を消すようで複雑な気持ちだった。

それから1年後…

「晃に話があるの…やっぱり言っておきたいから…」

紗姫が泣きながら言ってきた。

「付き合って1年になるけど…ずっと悩んでいたの…実は…晃と花屋で出会う前に病気で入院してたの…」

『え!?入院…?』

「晃…最初に私を見て“瑠弥”って言ったよね…」

そう言うと紗姫は1枚の紙を取り出した。

それは…












《臓器移植提供書》




それを見て愕然とした…











《臓器移植提供者:川島瑠弥》




『そんな…瑠弥が…』

「最初に晃から瑠弥って言われて本当に驚いたの…」

あまりの事に言葉も出なかった…

瑠弥は生前に臓器移植提供登録をしていて万が一の時は一致する患者に提供される事になっていた。

それが紗姫だった…


『実は瑠弥と紗姫を重ねてしまう時があったんだ…本当に…ごめん…』

子供のように泣いていた。

「うん…分かっていたから…でも瑠弥さんのお陰で今こうして生きる事が出来たから感謝してるの…」

『紗姫…これからもずっと一緒に居てくれる?』

「もちろんよ…














あっくん大好きだから…」

生前に瑠弥が僕の事を呼んでいたあだ名を紗姫は無意識に口にしていた。

この日…僕らは結婚した。
【出会い】◆オリジナル作品◆


何不自由無い生活だった。

全てが僕の望み通りになっていた。

でも…

『私…好きな人が出来たの…彼の所に引っ越しするから…もうあなたとはお別れになるの…』

激しく雨が降る日だった。

「そんな…酷い…」

彼女と楽しく過ごした空間が瞬く間に崩れ堕ちた…

ひとりぼっちになった。

もちろんお金なんて無い…

行く所も無い…

雨の中、ずぶ濡れで街をさ迷う僕の姿を見ても周囲は何も言わない。

やっぱり都会は残酷な所…


数日後…

歩く気力も無くなり道端に座り込んでいた時だった…

『大丈夫…?』

見ると若い男性だった。

「僕…彼女から追い出されて…どこも行く所無くて…ひとりぼっちなの…」

『そんなずぶ濡れじゃ風邪ひくよ。うちに来なよ』

「え…!?」

『ほら行こう。どうせ行く所無いんでしょ』


痩せ細って動けなくなった僕の体を男性は優しく抱いてくれた。



『ここが家だよ。一緒に暮らそう。俺が面倒見るから。大丈夫だから』

「本当に良いの…?迷惑じゃない…?」

『ハハハ…何だよそんな声出して。一緒にご飯食べようか?お腹空いてるでしょ?』

「ありがとう…」

数日間何も食べてなかったから恥ずかしかったけど差し出されたご飯をガツガツ食べた。

『急いで食べなくて良いんだよ。まだあるから』

優しさにも飢えていた僕にはとっても温かい言葉…



夜…

まるで卵を守る親鳥のように抱きしめて一緒に寝てくれた。

「この人なら絶対に僕を裏切らない。大切にしてくれる」

そう強く思った。













猫の世界も人間と同じように大変なの。

だけど今度こそ本当に信頼出来る飼い主に出会えて幸せ。

今日は新しい首輪も買ってもらったんだよ。

嬉しい。

本当にありがとう。


これからもよろしくね。