【ハンマー】
2010年5月12日23時27分ー
都内某所。
仕事帰りにふと見ると近所にレンタルDVD店が新しくオープンしており何故か吸い込まれるように店内に入った。
客は僕だけで数人のスタッフが居るだけだった。
様々な映画DVDが陳列棚に並ぶ中【100円DVD販売】というコーナーがあった。
100円なら何の映像でも暇潰しにはなると思い、手に取ると、ラベルも何も無い真っ黒いケースに入ったDVDだった。
もしかしたら裏物かもしれないと変な期待感もあり、買う事にした。
レジを済ませて店を出ようとした時だった。
「ありがとうございました」
出入口付近で作業していた女性店員が挨拶してきた。
その声と後ろ姿にどことなく見覚えがあるかのように感じたが気にせず店を出た。
帰宅後、DVDをケースから出してみると、表面にうっすらとペンで【ハンマー】と書かれていた。
早速再生してみると…
《ハァ…ハァ…あと僅か…ハァ…ハァ…》
顔は映ってなかったが主人公らしき女子高生がハンマーを持ち、街路樹がある夜道を走っている場面から突然始まった。
おそらく今流行りのスプラッター系かドキュメンタリー系の映画だろう、リアル感を出すため自身でカメラを手持ち撮影していて画面ブレが激しかった。
《ハァ…ハァ…あと少し…あと少しだ…》
途中から気づいたのだが映像の中の街並は明らかに家の近所だった。
しかし都内では映画の撮影は頻繁にあっていたため、そんなに驚かなかった。
《ハァ…あいつ…あいつの所まで…僅か…》
そして一本道に差し掛かった時に映像がピタリと止まり、ある家がズームで映し出され、同時に主人公の顔が映り…
《フフ…見ぃつけた~…》
と不気味に微笑んだ。
驚きのあまり飲んでいた缶ビールを落としてしまった。
僕の家だった。
《フフフ…川島君…さっきありがとう…せっかく久しぶりに会ったから挨拶したのに無視するなんて~…待っててねぇ~…今から行くからねぇ~…》
そんな馬鹿な…!
あの女だ…
さっきあのDVD店に居た店員は【咲希恵】だ…!
買ったDVDになぜ出て…
突然の事に頭がパニックになった。
映像の中で咲希恵は徐々に僕の家に近づいてきた。
そして…
ドン!!!!!!!
ドン!!!!!!!
ドゴォォン!!!!!!!!
咲希恵がドアをハンマーで叩く映像と同時に家のドアが激しく叩かれた。
《川島君~!開けて~!開けてよぉ~!まだ私は忘れてないんだよ~!》
驚きと恐怖のあまり身動きがとれなかったが、何とか体を起こして震える手で警察に通報した。
つんざく音が止む間、ただただ手で耳を塞ぐ事しか出来なかった。
その後すぐ警察官達が来て、今までの経緯を全て話したのだが…
「酔って自分でドア叩いて壊したんじゃないんですか?」
と取り合ってくれなかった。
『そんな事言うなら、このDVD観て下さい!間違いないですから!』
しかし何回再生しようとしても…
《このディスクに再生する映像はありません》
と画面に出るだけだった。
『じゃ、あのレンタルDVD店に確認して下さいよ!』
全く信じようとしない警察官に苛立ちを覚えた時…
「最初にあなたが言った時に本部に無線で何回も確認しましたが…
あそこは4年前から空き地で、レンタルDVD店なんて無いんですよ」
頭が真っ白になった…
「ありもしないDVD店で借りて、そのDVDすらも映像が映ってなく、ただ壊れたドアがある…そんな状況でどう信じて捜査するんですか?」
『そ…そんな……』
あのDVD店の店員、そして【ハンマー】に出ていた主人公の女子高生は明らかにあいつだった…
12年前の高校時代ー
何をやってもドジで全く駄目な【大沢咲希恵】はクラスの中でいじめのターゲットだった。
そしてそのいじめを仕向けてた張本人こそ僕だった。
悪い事をしているという気持ちどころか、いじめをしている認識すら無かった。
ある日の昼休みの事だった…
咲希恵に、
『お前みたいな女なんて目障りなんだよ!死んでしまえ!!』
と言って咲希恵が食べてた弁当を顔にひっくり返して笑ってた。
咲希恵は、
「川島君…そんな…酷い…酷いよ…」
と小刻みに震えて泣きながら弁当を片付けていた。
その日の放課後だった…
咲希恵は自殺した…
僕はクラス皆に根回しをして口裏を合わせ、教師や警察からの取り調べもうまく切り抜けた。
遺書も無かった事から学校側も咲希恵は就職活動で精神的不安定の中での自殺として、何とか公にはならなかった。
しかしどこかで自分を責めてしまうのが怖く、早く忘れてしまおうと卒業後、仕事や趣味に没頭し、月日の流れで12年が経過して完全に記憶から無くなったはずだった。
僕は今回の事で会社を辞めて他県へと引っ越した。
その後、就職先も無事に決まり、結婚前提の彼女も出来た。
新たな気持ちで人生を歩もうと決意した。
それから1週間後ー
彼女にプレゼントを買うため、まだ見慣れぬ街並みの景色の中、たまたま見つけた雑貨店に立ち寄った。
レジの下で作業している店員に、
『すみません、プレゼント用を探してるんですが』
と聞くと、
「はい。いらっしゃいませ。これをプレゼントしたらいかがでしょうか?」
振り向いた店員は、
ハンマーを持って不気味に笑う咲希恵だった。
※掲載写真はイメージ。
※人物名は仮名。


