今月の本 〜 10月 〜 だけど | 水脈のブログ

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読みきかせ記録(絵本等の紹介)と、自分の心に生じた想いや、刻まれた記憶を思いつくままに綴っています。
当ブログ開設当初から好きだった東方神起やジェジュン、ユンジェに関して。そして、2021年以降は、防弾少年団(バンタン:BTS)のことに、思いを馳せることも。


先月(9月)、NHKプレミアム
日曜午後10時から
『盤上の向日葵』というドラマが放映されました。
(9月8日から、全4回)


ご覧になっていた方は、あるでしょうか?
私は、たまたま、見始めたのですが、
おもしろい! と思ったので、
柚月裕子さんの原作も、読んでみたくなったのです。

『盤上の向日葵』 柚月裕子 (中央公論新社)

盤上の向日葵盤上の向日葵
1,980円
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例えば、
『永遠の0』百田尚樹 (講談社文庫) や、
『ナミヤ雑貨店の奇跡』東野圭吾 (角川文庫)
のように、
原作を読んで、おもしろかったから、
ドラマや映画を見た ということは、
時々ありますが、私の場合、
ドラマをあまり見ないので、
その逆は、珍しいケースです。
(『盤上の向日葵』は、
2018年の本屋大賞第2位となった本で、
ご存知の方も多いかもしれません。
失礼ながら、存じ上げませんでした m(_ _)m)


埼玉県の山中で、
死後およそ3年が経過したと思われる
白骨化した男性の遺体が発見されます。
その遺体が着用していたシャツには
刃物のようなもので刺された
裂け目と血痕が付着していたことから、
殺害され、遺棄された可能性があるとして、
捜査本部が立ち上げられたのです。

手がかりとなるのは、
その遺体とともに、発見された将棋の駒。
名匠、初代 菊水月(きくすいげつ)作の駒で、
「錦旗(きんき)島黄楊根杢(ねもく)盛り上げ駒」
と称される逸品で、
値段をつけるとしたら、およそ600万円と目される
大変貴重な駒でした。

この事件の捜査に携わることとなったのが、
埼玉県警捜査一課の ベテラン刑事
石破剛志(いしばつよし: 大友康平) 。
相棒は、元奨励会会員という経歴を持つ
佐野直子(さのなおこ: 蓮佛美沙子) です。

そして、その駒を追って
たどり着いた人物が、
プロ棋士の養成機関である奨励会を経ず、
実業家から転身して特例でプロになった
東大卒のエリート棋士
上条桂介(かみじょうけいすけ: 千葉雄大)
でした。

物語は、捜査と並行して、
上条桂介の生い立ち、
現在と過去が交錯する形で進んでいきます。

実母が亡くなり、
味噌職人という腕を持ちながら、
呑んだくれで、賭け事にうつつを抜かしている
父親、上条庸一(かみじょうよういち:渋川清彦)に
養育放棄、虐待されるという
貧困家庭に育った桂介少年と、
将棋の恩師 となる
唐沢光一朗(からさわこういちろう:柄本明)
との出会い。
長じて、大学生のころ、知り合った
上条の人生に転機をもたらす
元アマ名人で、現在では、
「鬼殺しのジュウケイ」の二つ名を持つ真剣師
東明重慶(とうみょうしげよし: 竹中直人)。

ドラマは、全4回なので、
現在と過去が交錯しながらも、
テンポよく展開していきます。
登場人物が限られていますし、
児童虐待を繰り返した挙句、
圭介が大人になって、社会的地位を得てからも、
金をたかり続ける父親、庸一が殺されたのか?
と推理しながら、
ドラマを見ていたのですが…。

出生の秘密、
貧困から、一転しての成功等、
韓流ドラマあるある的(?)展開も交え、
松本清張の『砂の器』を彷彿とさせるかのような、
「島根の旧家」という桂介少年のルーツ。
架空のタイトル戦「竜昇戦」も含め、
将棋を指す場面が、度々登場します。
将棋を知らない私でも、物語は十分楽しめましたが、
将棋の戦法等をご存知の方なら、
もっと楽しめることでしょう。

母の面影、幼い頃の記憶に残る風景、
ゴッホの向日葵の絵からの将棋の駒、
「盤上の向日葵」というタイトルも、
心象だけでなく、視覚的要素も加わって、
とても印象的です。

ドラマは、
破天荒な「鬼殺しのジュウケイ」
竹中直人さんが、まさに「ジュウケイ」だわ
 と思わせるハマり役。
元教諭、実直で温かい人柄、
我が子のように、桂介少年を慈しむ、
唐沢光一朗役の柄本明さんも、
さすが!と思いました。

主人公の上条桂介は、
原作で「異端の革命児」「炎の棋士」
と称されるにしては、
千葉雄大さんだと、マスクが甘すぎて、
迫力不足かな と思ったのですが、
虐待を受けながらも、父親を見捨てられない
優しく、素直で真っ直ぐな性格が、
よく表れていたと思います。

将棋界に関与する刑事ものミステリー
と言うなら、通常刑事が主役なのかもしれませんが、
大友康平さん扮する石破刑事と、
蓮佛美沙子さんの佐野刑事コンビは、
重要な役ながら、出しゃばり過ぎず、
核心に迫っていく様子は、説得力もあり、
それはそれで、良かったと思います。

ただ、原作では、
石破刑事の相棒は、
男性刑事「佐野直也」として描かれています。
絵ヅラ的に、男ばかりだと、
華やかさに欠けるから、
女性刑事に変更したのかなぁ? と思っていました。
その設定以外は、
ほぼ原作に忠実な展開だったのですが、
なんと!?((((;゚Д゚)))))))
ドラマと、原作とでは、
ラストが、全く異なっていたのです。
(正確には、原作のラストの場面で終わらず、
ドラマでは、その続きがあったのです。)

以下は、全く個人的な感想です。
もし、ドラマが、
原作どおりの結末であったなら、
私は、原作を読もうとは思わなかったでしょう。
ドラマの結末の方が、
どんでん返し的な驚きもあり、
希望も持てて、私は好きです。

原作の終わり方だと、
現実味は強いのかもしれませんが、
アレでは、あんまりな終わり方でしょう。

昨今の児童虐待、虐待され、
死に至らしめられた幼い命に、
なんの罪があったと言うのか?
そんな自分勝手な暴力に対する憤りと同様の
ザラザラするような読後感しか残りません。

たとえどんなに無様でも、私は
「生を希求する」物語の方が好きなのです。
「死」を暗示して幕を引くのは、ズルい。

「不幸」の元凶が、
本人にはどうすることもできなかった
「イかれた血」「狂った血」のせいなのか?
柚月裕子さんは、岩手県のご出身とのことですが、
なんだか、
「島根」という地さえバカにされているようで、
嫌な気持ちにさえなってしまいました。

ドラマの結末は、甘いのかもしれません。
でも、ドラマの結末を知っていて、
良かったと思っています。

ドラマの最後に、
佐野刑事が、
上条にかける言葉に、
「自分の信じた人生を掴んで離すな」という、
人生に対するエールと、希望を感じて、
ほっとしました。