武経七書ー13ー六韜 ー虎韜 | 覚書き

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六韜 虎韜
第四章 虎韜
第三十一篇 軍用
【解説】
軍用とは、軍隊が使う道具のことです。必要な道具が備わり、それを使って攻めたり、守っ
たりすれば、心配はありません。
【本文】
武王が尋ねました。
「王者が挙兵し征伐する場合、全軍が使う物資や攻防の道具は、その種類別の数量について、
なにか基準があるのでしょうか?」
太公望は答えました。
「なかなかよい質問です。そもそも攻防の道具には種類がありまして、これが戦争において大
きな力を発揮するもとになります」
武王は尋ねました。
「その種類の違いについて、聞かせてください」
太公望は答えました。
「おおよそ将兵が一万人ほどの軍隊を動かす場合について、その基準を申し上げますなら、戦
法について言いますと、まず三十六両の武衛大扶胥(屋根のない大型の戦車)を配備し、戦車
一両ごとに二十四人の石弓や槍を手にした精兵を各戦車の両横につけます。戦車には、直径が
八尺の車輪を用い、車上には旗をたて、太鼓をおきます。兵法ではこれを『敵を驚かせること』
と言っています。これによって、堅陣を陥落させ、強敵を敗北させます。
次に七十二両の武翼大櫓矛戟扶胥(車上に大盾と槍を搭載した戦車)を配備し、石弓や槍を
手にした精兵を各戦車の両横につけます。戦車には直径が五尺の車輪を用い、オプションで絞
車連弩(射程距離の長い連発式の石弓)を搭載します。これによって、堅陣を陥落させ、強敵
を敗北させます。
次に百四十両の提翼小櫓扶胥(小さな盾を装備した小型の戦車)を配備し、オプションで連
発式の石弓を装備します。戦車の車輪には小さなものを用います。これによって、堅陣を陥落
させ、強敵を敗北させます。
次に三十六両の大黄参連弩大扶胥(三発の矢を同時に発射できる連発式の石弓を搭載した大
型の戦車)を配備し、石弓や槍を手にした精兵を各戦車の両横につけ、車上では飛鳥や電影を
使用して護衛にあたります。飛鳥とは、赤い柄に白い羽をつけ、銅で作られた矢尻を使ってい
る矢です。電影とは、青い柄に赤い羽をつけ、鉄で作られた矢尻を使っている矢です。昼は光
輝という長さが六尺で幅が六寸の赤い旗をなびかせ、夜は流星という長さが六尺で幅が六寸の
白い旗をなびかせます。(これは遠くからでも見えるので、このように名づけられました)。こ
れによって、堅陣を陥落させ、歩兵や騎兵を敗北させます。
次に三十六両の大扶胥衝車(大型の突撃のための戦車)を配備し、そこに勇猛な戦士を乗車
させます。これによって、戦場を縦横無尽に暴れまわり、強敵を敗北させます。
次に輜車(軽戦車)、騎寇(軽騎兵)ですが、別名を電車と言います。(電車とは、戦場をす
六韜 虎韜
ばやく走り回れる戦車です)。兵法ではこれを『電撃』と言っています。これによって、堅陣を
陥落させ、歩兵や騎兵を敗北させます。
夜襲をしかけられたら、陣地の前に槍をならべ、百六十両の矛戟扶胥軽車(槍で武装した軽
戦車)にそれぞれ三人の勇猛な戦士を乗車させて、迎撃します。兵法ではこれを『霆撃』と言
っています。(そう言われるのは、カミナリのようにすばやく攻撃するからです)。これによっ
て、堅陣を陥落させ、歩兵や騎兵を敗北させます。
兵器について言いますと、重さが十二斤、柄の長さが五尺以上ある、頭部が方形になってい
る、千二百本の鉄棒を用意します。この鉄棒は、別名を『天 』と言います。刃渡りが八寸、
重さが八斤、柄の長さが五尺以上ある、千二百本の大斧を用意します。この大斧は、別名を『天
鉞』と言います。重さが八斤、柄の長さが五尺以上ある、頭部が方形になっている、千二百本
の鉄槌を用意します。この鉄槌は、別名を『天槌』と言います。以上の三つは、歩兵、騎兵、
暴徒を敗北させるために用いられます。
長さが八寸、鈎の全長が四寸、柄の長さが六尺以上ある、千二百本の飛鈎(鈎縄)を用意し
ます。これを敵兵の中に投げこんで、敵兵をひっつかまえます。
全軍で敵軍の進攻を防ぐにあたり、前面の板の広さが二丈ある木蟷螂剣刃扶胥(トゲをうち
つけた板を前面に立てた台車)を二十台ほど用意します。これは別名を『行馬』と言います。
平坦な場所で、歩兵を使って戦車や騎兵を敗北させるには、高さが二尺五寸ある、百二十個
の木製の 藜(まきびし)を用います。
敵の歩兵や騎兵を撃破し、あわてふためく敵兵を要撃し、逃げる敵の退路を断つにあたって
は、百二十台の軸旋短衝矛戟扶胥(ぐるぐると回転する短い槍を乗せた台車)を用意します。
黄帝はむかし、これを使って蚩尤氏を討伐しました。
狭い道では、高さが四寸、広さが八寸、長さが六尺ある鉄製の 藜(まきびし)を使って、
敵の歩兵や騎兵を撃破し、あわてふためく敵兵を要撃し、逃げる敵の退路を断ちます。
騎兵を敗退させるとき、そして突然の夜襲で白兵戦を展開するときには、地面に綱を張り、
刃先の間隔が二尺ある、両刃 藜(両方が尖ったまきびし)と参連織女(複数のまきびしを連
ねたもの)を、一万二千個しきならべます。
草深い広野では、千二百本の方胸鉄矛(胸の高さくらいの槍を斜め向きに横に並べたもの)
を用います。その使い方は、高さが一尺五寸になるように埋めて、敵の歩兵や騎兵を撃破し、
あわてふためく敵兵を要撃し、逃げる敵の退路を断ちます。
狭い道のくぼんだところでは、百二十本の足をひっかけるための鉄械鎖参連(鉄製の鎖)を
用います。それを使うことで、これまた敵の歩兵や騎兵を撃破し、あわてふためく敵兵を要撃
し、逃げる敵の退路を断つことができます。
城門で敵軍の進攻を防ぐときには、百二十組の槍と盾を使い、絞車連弩(射程距離の長い連
発式の石弓)をオプションで配備します。全軍で敵軍の進攻を防ぐときには、一部を鎖でつな
げた、広さが一丈五尺、高さが八尺ある、百二十個の天羅(突起のある網)や虎落(竹で作っ
た柵)を使い、さらに広さが一丈五尺、高さが八尺ある、五百十台の虎落剣刃扶胥(刃物の突
き出た防御用の板をのせた台車)を使います。(以上の三つは、すべて防御のための道具です)。
堀を渡るには、広さが一丈、長さが二丈以上ある飛橋(移動式の掛け橋)を使います。それ
には車輪をつけて移動しやすくし、連結器をつけて固定できるようにします。これを八つ用意
します。
六韜 虎韜
河を渡るには、全幅が一丈五尺、全長が二丈以上ある八本の飛江(浮き橋)を用意し、連結
器をつけて固定できるようにします。さらに、三十二個の天浮(浮き)と内が丸くて外が四角
い鉄蟷螂(いかり)を鎖でつなげたものを用意します。そして、この天浮の上に飛江を渡して、
大海を渡ります。これを『天黄(大船の一種)』と言いますが、別名を『天舩(大船の一種)』
とも言います。
山林で野営するときには、虎落柴営(木材を組んで作った砦)を作り、長さが二丈以上ある
連結された中型の鉄の網を千二百枚、大きさが四寸で長さが四丈以上ある連結された大型の鉄
の網を二百枚、長さが二丈以上ある鉄の網を一万二千枚、それぞれ使って敵の侵入を防ぎます。
雨を防ぐために大型の戦車の上にかける屋根には、幅が四尺で、長さが二丈以上ある結泉鉏鋙
(麻を編んで作ったシート)を、戦車一両ごとに鉄の棒で車上に張ります。
道具について言いますと、重さが八斤で、柄の長さが三尺以上ある、木を切るための斧を三
百本と、広さが六寸で、柄の長さが五尺以上ある、根を掘るクワを三百本と、長さが五尺以上
ある、銅製の刃物を三百本、それぞれ用意します。
柄の長さが七尺以上ある、鷹の爪のような熊手を三百本と、柄の長さが七尺以上ある、鉄製
のサスマタを三百本と、柄の長さが七尺以上ある、先端が二つに枝分かれしたサスマタを三百
本と、柄の長さが七尺以上ある、草木をはらうための大鎌を三百本と、重さが八斤、柄の長さ
が六尺ある、大ナタを三百本と、輪のついた鉄製のクイを三百本と、重さが五斤、柄の長さが
二尺以上ある大カナヅチを百二十本、それぞれ用意します。
武装した一万人の兵士のうちわけは、強い石弓を扱う者が六千人、戟(二股の槍)と櫓(大
きな盾)を扱う者が二千人、矛(両刃の槍)と楯(普通の盾)を使う者が二千人となっており
ます。さらに、武器を修理し、兵器を整備するのがうまい技術者が三百人いります。以上が、
挙兵するさいに基準となる数字です」
武王は言いました。
「まったく、そのとおりですね」
六韜 虎韜
 

第三十二篇 三陣
【解説】
三陣とは、天陣・地陣・人陣の三つです。
【本文】
武王が尋ねました。
「戦法として、天陣、地陣、人陣がありますが、それはどのようなものでしょうか?」
太公望は答えました。
「太陽や月、星座、北斗七星の第五・六・七番の星などの位置に応じて、左に布陣したり、右
に布陣したり、前方に布陣したり、後方に布陣したりすること、これが天陣です。
右後方に山や丘がくるように、左前方に川や湖がくるように布陣して地の利を活かし、こち
らが有利になるようにすること、これが地陣です。
戦車を用いたり、騎兵を用いたり、文徳によって懐柔したり、武威によって威嚇したりする
こと、これが人陣です」
六韜 虎韜


第三十三篇 疾戦
【解説】
疾戦とは、包囲されたときには、戦いはすばやくしたほうがよいということです。
【本文】
武王が尋ねました。
「敵軍が我が軍を包囲し、我が軍の進路と退路をふさぎ、我が軍の補給路を遮断してしまって
いる場合には、いったいどうすればよいのでしょうか?」
太公望は答えました。
「これは、軍隊にとって最悪の状況です。死にもの狂いで奮闘すれば勝てますが、のんびりし
ていれば負けます。このような場合には、四武衝陣を作り、戦車と騎兵を使って敵軍を混乱さ
せたうえで、すばやく攻撃すれば、たやすく包囲を突破できます」(四武衝陣とは、戦士によっ
て四つの部隊を編成し、力を合わせて突撃をしかける戦法です)。
武王が尋ねました。
「敵軍の包囲を突破できたとして、その勢いに乗じて反撃し、勝利をおさめようと思ったら、
どのようにすればよいでしょうか?」
太公望は答えました。
「左軍は左からすばやく攻撃をしかけ、右軍は右からすばやく攻撃をしかけます。しかし、調
子に乗って先を急いではいけません。(そんなことをすれば、我が軍の隊列がばらばらになりま
すし、敵軍の伏兵に襲われる恐れがあります)。そして、中軍には波状攻撃を行わせます。この
ようにすれば、いくら敵軍が大軍でも、敵将は逃げざるをえません」
六韜 虎韜
 

第三十四篇 必出
【解説】
必出とは、包囲されてしまったときには、脱出することに努めるべきことを言っています。
【本文】
武王が尋ねました。
「兵を率い、外国に深く入ったのだが、敵に四方を包囲され、退路を断たれ、糧道を絶たれ、
そして敵は大軍で、食料も豊かで、さらに攻めにくく守りやすいところに陣取り、護りも固い
とき、こちらとしてはその窮地を脱したい場合、どのようにすればよいのでしょうか?」
太公望は答えました。
「脱出を成功させる方法としては、兵器をうまく活用することが重要となり、勇敢に奮闘する
ことが必要となります。そして、敵の弱いところ、敵のいないところを正確に把握することで、
脱出に成功できます。
将兵に黒い旗を持たせ、武器をとらせ、枚をかませて音をださせないようにし、夜になって
から出撃します。勇猛で健脚で剛毅な兵士は、前線に立って陣地を制圧し、自軍のために道を
開きます。優秀で勇敢な兵士は、強い石弓を持たせ、伏兵とします。後方にいる普通の兵士と、
戦車、騎兵は、中央に配置します。陣形がととのったなら、ゆるやかに前進し、慎重にやって、
あわてないようにします。大型の突撃用の戦車を使って前後を守り、槍で武装した戦車で左右
からの攻撃を防ぎます。
敵兵がこちらの勇猛で剛毅な兵士に気づいて驚いたなら、すばやく攻撃をしかけて突進し、
その後方にいる普通の兵士と、戦車、騎兵も、それに続いて突撃します。強い石弓をもってい
る優秀で勇敢な兵士は、隠れて待機し、敵軍が追撃を始めたら、その背後から一気に攻撃をし
かけ、たくさんのたいまつを燃やし、太鼓を激しく打ち鳴らし、敵にあたかも大軍であるかの
ように錯覚させます。まるで地からわいてきたように、天からふってきたように思わせ、あわ
てふためかせます。全軍が勇敢に奮闘して前進すれば、敵兵は我が軍の攻撃を防げません」
武王が尋ねました。
「もし我が軍の進行方向に大きな川、広い堀、深いくぼ地があって、渡ろうにも船がなく、敵
は陣地を築いて我が軍の前進をはばみ、我が軍の退路をふさぎ、見張りがつねに警戒しており、
戦うのに有利な地点はすべて固く守られており、戦車と騎兵が前方から我が軍をおびやかし、
精兵が後方から我が軍を襲撃してきた場合、どのようにしたらよいのでしょうか?」
太公望は答えました。
「大きな川、広い堀、深いくぼ地は、敵の守らないところですし、よしんば守っていたとして
も、そこを守っている兵数は少ないものです。このようであれば、飛江(軍船)や天黄(舟艇)
を使って渡河し、自軍の精兵に指示を与えて進ませ、敵を強襲し、決死の覚悟で戦わせます。
事前に補給物資を廃棄し、食料を焼却して、敵陣を突破しなければ死ぬしかないような状態
にして全軍をおいつめたうえで、すべての兵士に『もし勇猛果敢に奮闘すれば生き残れるが、
勇猛果敢に奮闘することがなければ死ぬほかない』とはっきりと告げます。
脱出できたら、後軍に火をつけさせ、敵の動向をうかがわせます。そして、必ず深い草の茂
みや木の林のなか、丘陵、険阻なところにたてこもります。すると、敵の戦車や騎兵は、我が
六韜 虎韜
軍の状況がわからなくなり、あえて遠くまで追撃してこようとはしなくなります。そうなった
ら、我が軍は、火を合図にし、全軍を終結させ、四武衝陣を作ります。このようにすれば、全
軍が強くなり勇敢に奮闘して、だれもこちらに勝てなくなります」
武王は言いました。
「すばらしいです」
 

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第三十五篇 軍略
【解説】
軍略とは、戦争するにあたっての戦略のことです。戦略があらかじめ定まっていないのに戦
争してはしけません。
【本文】
武王が尋ねました。
「兵を率い、外国に深く入ったとき、深い崖、大きな谷、難所の川にでくわし、全軍がまだ渡
り終えていないのに、大雨が降って水量が増し、後続の部隊が先行の部隊から切り離され、舟
や橋の備えもなく、飲料水や食料の補給もままならない。しかし、全軍に川を渡らせて、取り
残されることがないようにしたい。このような場合は、どのようにすればよいのでしょうか?」
太公望は答えました。
「およそ軍隊を動かし、大軍を率いるにあたり、計画が事前に立てられてなく、装備が十分に
そろえられてなく、教育がしっかりなされておらず兵士が訓練されていないというような状態
なら、王者の軍隊とは言えません。
およそ全軍を動員して大がかりな戦争をするにあたっては、兵器を使い慣れていないといけ
ません。敵の城を攻撃し、敵の街を包囲するときには、 (移動式の背の高い櫓で上から下
を攻撃するもの)や臨衝(移動式の背の高い櫓で高いところを攻撃するもの)を用意します。
城内を偵察するには、雲梯(はしご車)や飛楼(移動式の見張り台)を用意します。全軍が進
撃したり、待機したりするときには、武衝(突撃用の戦車)と大櫓(大きな盾)で前後を守り
ます。道路を封鎖し街に出入りできなくするときには、優秀な兵士や強い石弓を道の両側に配
置します。陣地を構築するときには、天羅、武落(虎落)、行馬、 藜といった障害物をはりめ
ぐらします。
昼間には、雲梯(はしご車)に登って遠くを見張り、五色の旗をずらりと並べて敵の目をあ
ざむきます。夜間には、たくさんの火をたき、太鼓をたたき、鐘を鳴らし、笛を吹いて敵の耳
をあざむきます。
堀を渡るには、飛橋、転関、轆轤(起重機)、鉏鋙(架橋機)を使います。河を渡るには、軍
船や浮き橋を使います。流れをさかのぼるには、浮海(浮き袋)や絶江(皮製のボート)を使
います。全軍の装備が完備していれば、軍を率いる将軍になんの心配があるでしょうか」
六韜 虎韜
 

第三十六篇 臨境
【解説】
臨境とは、敵と境界をはさんで対峙することです。
【本文】
武王が尋ねました。
「我が軍と敵軍とが国境でにらみあっていて、敵軍は攻めて来られるし、我が軍も攻めて行け
るのだが、互いの陣地がすべて堅固で、互いに攻めあぐねている。そして、こちらが攻撃をし
かようとすれば、あちらも攻撃をしかけられるようになる。この場合、こちらとしては、どの
ようにすればよいのでしょうか?」
太公望は答えました。
「このような場合には、軍を三隊に分けます。そして、前線にいる部隊には、深い堀を掘らせ、
高い塀を築かせて、そこにたてこもらせ、そこで旗をならびつらね、太鼓を打ち鳴らし、守り
を固めさせます。後方にいる部隊には、たくさんの食料を備蓄させ、敵にこちらの動向を知ら
れないようにします。そうしたうえで、精鋭部隊を出動させ、敵の中央に奇襲をしかけ、敵の
不意をつき、敵の手薄なところを攻めます。敵は、こちらの動向について分からなければ、じ
っと待機して攻めて来ません」
武王は尋ねました。
「もし敵軍がこちらの動向を知り、こちらの作戦をつかんでいる場合、こちらの動きに合わせ、
精兵を深い草のなかに潜ませたり、狭い道で待ち構えて有利なところから攻撃してきたりした
なら、こちらとしてはどうすればよいのでしょうか?」
太公望は答えました。
「このような場合には、前線にいる部隊に毎日のように出撃させ、敵に戦いを挑むことで、敵
を心理的に疲れさせます。そして、こちらを大軍のように見せかけるために、老兵や弱兵に木
の枝を曳かせて土煙をあげさせ、太鼓をせわしく打ち鳴らさせながら、敵から遠く百歩ほど離
れたところを往来させ、敵の左側に出没したり、敵の右側に出没したりします。すると、敵将
は心労がたまり、敵兵は必ずあたふたします。こうすれば、敵もあえて攻めて来ようとはせず、
こちらの進撃はとどまるところを知らず、内側から奇襲したり、外側から攻撃したりします。
こうして全軍がすばやく戦えば、敵は必ず敗北します」
六韜 虎韜
 

第三十七篇 動静
【解説】
動静とは、敵軍の動静を観察し、伏兵による奇襲によって勝利することです。
【本文】
武王が尋ねました。
「兵を率い、外国に深く入って、敵軍とぶつかり、にらみあうようになったとき、兵力が互角
で、互いに動こうとしない場合、敵将の心を恐れさせ、敵兵の心を不安にさせて、敵陣に乱れ
を生じさせ、そうして敵の前軍を逃げ腰にさせ、敵の後軍を及び腰にさせ、それに乗じて突撃
の太鼓を激しくたたいて敵を驚かせ、敵をけちらしたいのだが、そうするにはどうしたらよい
のでしょうか?」
太公望は答えました。
「このようなときには、我が軍の兵士を出動させて、敵軍の両側に隠れさせます。このとき、
敵軍から十里ほど離れておきます。また、戦車と騎兵は、敵軍の前後に回りこませます。この
とき、敵軍から百里ほど離れておきます。そして、多くの旗を立て、たくさんの太鼓と鐘を用
意しておき、戦闘開始と同時に激しく打ち鳴らしながら、一気に攻めかかります。すると、敵
将は必ず恐れおののき、敵軍もあわてふためきます。そして、連携が失われ、命令が乱れて、
敵軍は必ず敗れ去ります」
武王は尋ねました。
「もしかりに敵の地形が、両側に兵士を隠せず、さらに戦車と騎兵が前後に回りこめないもの
であり、そして敵がこちらの作戦を知り、先に守りを固めてしまい、かえって我が軍の兵士が
傷心し、我が軍の将軍が恐怖してしまった場合、敵軍と戦っても勝てる見込みがありません。
このよう場合には、どのようにしたらよいのでしょうか?」
太公望は答えました。
「ごもっともなご質問です。このようなときには、戦う五日前にスパイを放って敵の動静をう
かがわせ、進攻を開始したのを見つけたら、こちらが戦うのに有利な地点に伏兵を配置して待
ちかまえます。そして、遠くに我が軍の旗をならべたて、我が軍をまばらに配置し、敵軍の前
に出て戦い、負けたふりをして逃げます。そして、三里ほど逃げたところで鐘を鳴らして止ま
り、反撃します。それと同時に伏兵も飛び出し、敵の両側をついたり、敵の前後を攻めたりし
ます。こうして全軍が力をあわせてすばやく戦えば、敵は必ず敗走します」
武王は言いました。
「すばらしいです」
六韜 虎韜
 

第三十八篇 金鼓
【解説】
金鼓とは、太鼓の音を合図にして前進させ、ドラの音を合図にして停止させることです。「金
鼓」が表題となっていながら、文中では金鼓について述べていません。それがどうしてなのか
分かりません。
【本文】
武王が尋ねました。
「兵を率い、外国に深く入り、敵とぶつかったのだが、気候がとても寒かったり、もしくは非
常に暑かったりし、さらに十日以上にわたり昼も夜も雨が降り続け、堀も防塁も壊れ、砦は役
に立たなくなり、スパイは怠け、兵士も緊張感に欠けているとき、敵が夜襲してきて、全軍が
無防備で、上下が混乱してしまった場合、どのようにすればよいでしょうか?」
太公望は答えました。
「およそ全軍は、しっかり警戒することによって堅固となり、怠惰になることによって敗北し
ます。そこで、自軍の防塁の上では必ず出会った人間に対して相手がだれか確認し、旗を使っ
て外側と内側とで連絡をとりあい、号令によって互いに確認しあい、音を絶やさないようにし
て、全員で外を見張ります。三千人が一つの陣地で配置につき、厳しく注意して全員を結束さ
せ、各人にそれぞれの部署をしっかり守らせます。すると、敵が近づいてきても、我が軍の警
戒が厳重で完備しているのを見て、きっと引き返します。こうして敵にどっと疲れが出て、そ
の士気がなえたなら、精鋭部隊をくりだして追撃します」
武王は尋ねました。
「こちらが追撃するつもりであることを敵が知って、強力な伏兵を配置したうえで、わざと敗
走していったとき、まんまと敵のワナにはまってしまった我が軍は、追撃している途中で敵の
伏兵に襲われ、反対に退却をせざるを得なくなり、前方を襲撃されたり、後方を襲撃されたり
し、陣地まで押し戻され、ついには全軍が恐怖し、混乱して、統制が失われ、配置が乱れてし
まった場合には、どのようにすればよいのでしょうか?」
太公望は答えました。
「我が軍を三つの部隊に分けて追撃させるようにし、敵兵が隠れていそうなところを通り過ぎ
てはいけません。三つの部隊がそろったところで、敵の前後を攻めたり、敵の両側をついたり
します。こちらの号令がはっきり分かり、こちらの命令がきちんと伝わるようにし、すばやく
進撃すれば、敵は必ず敗北します」
六韜 虎韜
 

第三十九篇 絶道
【解説】
絶道とは、敵軍によって補給路を断たれていながらも、こちらの守りを固めて欠けたところ
がないようにしようとすることです。
【本文】
武王が尋ねました。
「兵を率い、外国に深く入り、敵軍とにらみあっているとき、敵軍は我が軍の補給路を遮断し、
我が軍の前後に回りこもうとしてきたのだけれど、こちらとしては戦いたくても勝てる見込み
はなく、固く守ろうとしても長く持ちこたえる力がない場合には、どのようにしたらよいので
しょうか?」
太公望は答えました。
「およそ敵地に深く入るにあたっては、必ずそこの地形や地勢をきちんと把握し、有利な地点
を確保することに努め、山林・険阻・水沢・森林などに拠点をおいて守りを固め、関所・橋梁
をしっかり警備し、さらに城郭・都市・丘陵・墓地などの地の利を知らねばなりません。この
ようにすれば、我が軍は堅固となり、敵は我が軍の補給路を遮断できませんし、我が軍の前後
に回りこめません」
武王は尋ねました。
「我が軍が大きな林、広い沢や平坦な場所をよぎるにあたり、偵察隊がまちがい、いきなり敵
軍と遭遇してしまって、戦っても勝てず、守っても固くなく、敵軍は我が軍の両側をつつみこ
み、我が軍の前後に回りこみ、我が軍は大いに恐れてしまった場合には、どのようにしたらよ
いのでしょうか?」
太公望は答えました。
「およそ軍隊を動かす原則として、遠くを偵察する部隊をつねに先行させ、敵軍から二百里ほ
ど離れたところで、敵軍の位置を把握できるようにしなければいけません。地形が不利なとき
には、大型の戦車を防壁にして前進します。さらに後方を守る部隊を二つ編成し、遠くは百里
ほど離れたところに、近くは五十里ほど離れたところに配置して、緊急事態があれば、前後に
いる部隊が互いにそのことを知られるようにします。こうして全軍がつねに万全の体勢をとり、
決して欠落のないようにします」
武王は言いました。
「すばらしいです」
六韜 虎韜
 

第四十篇 略地
【解説】
略地とは、戦って勝ち、敵国に深く入りこみ、敵国を占領することです。しかし、そう簡単
に攻略できたのは敵の策略である恐れがあるので、武王はそれについて尋ね、太公望はそれに
ついて答えています。
【本文】
武王が尋ねました。
「戦勝して敵地を奥深くまで攻略したのですが、敵のもっている大きな城を陥落させられず、
敵の別働隊は攻めにくく守りやすい険阻な地点にたてこもって抵抗しているとき、敵の城を攻
撃し、敵の街を包囲しようとすると、その別働隊が急いで駆けつけて我が軍に迫り、敵軍が内
外呼応し、我が軍を前後から攻撃してきて、こちらは全軍が混乱におちいり、上下が恐れおの
のき、あわてふためく恐れがある。この場合には、どのようにしたらよいのでしょうか?」
太公望は答えました。
「およそ敵の城を攻撃し、敵の街を包囲するにあたっては、戦車と騎兵を必ず城や街から遠く
離れたところに駐屯させて警戒にあたらせ、そして城内と城外を隔絶させて内外の敵軍が互い
に連絡できないようにします。城内の食料がなくなり、城外からの補給もできなければ、城内
の敵は恐れおののき、おじけづいて、敵将は必ず降伏を申し出てきます」
武王は尋ねました。
「城内にいる敵は、城内の食料がなくなり、城外からの補給もできないとなれば、こっそりと
誓い合って、互いに密かに作戦を立て、夜襲を敢行するかもしれません。そのとき追い詰めら
れた敵軍は、我が軍と決死の覚悟で戦い、敵軍の戦車・騎兵・精兵が、我が軍の内側をついた
り、我が軍の外側を攻めたりし、それによって我が軍の兵士はあたふたして、全軍が潰走し始
めた場合、どのようにしたらよいでしょうか?」
太公望は答えました。
「このような場合には、全軍を三つに分け、地形を慎重に選んで有利なところに布陣し、敵の
別働隊の位置、そして敵の主要な城とその補助の城をきちんと把握し、敵兵の逃亡をうながす
ために逃げ道をあけておき、敵を利で釣って裏切るように仕向けます。そして、こちらとして
は警備を厳重にして手落ちがないようにします。すると、敵は恐れおののき、あわてふためい
て、野戦をあきらめて拠点に逃げ帰りますが、敗走しているその別働隊については、その前方
を戦車と騎兵にさえぎらせ、討ちもらしのないようにします。
その一方、城内の兵士は『先発した別働隊は突破口を切り開けたのだ』と思い、敵の精鋭部
隊が城外に出撃し、老兵や弱兵だけが城内に残されることになります。そのとき、我が軍の戦
車と騎兵は進攻を開始し、長距離を走破して敵城に迫れば、敵軍は決して救援にかけつけよう
としなくなります。しかし、慎重になって、軽率に城兵に戦いをしかけてはいけません。敵の
補給路を遮断し、包囲して、兵糧攻めを続けます。
このとき、そこの住民の蓄財を焼かないようにし、そこの住民の家屋を壊さないようにし、
そこにある墓地の木や神社の草を斬ってはいけませんし、投降してきた者を殺させてはいけま
せん。仁義を示し、厚徳を施し、敵国の住民に対して『罪は貴国の君主一人にある』と宣言します。このようにすれば、天下万民が心服します」武王は言いました。「すばらしいです」
 

六韜 虎韜
第四十一篇 火戦
【解説】
火戦とは、あちらが火攻めをしてきたら、こちらはその火を逆手にとって反撃することです。
【本文】
武王が尋ねました。
「兵を率い、外国に深く入ったとき、うっそうとした草むらに出くわし、その草むらは我が軍
の前後左右に一面に広がっていたのだけれど、そのなかを数百里にわたり進軍して、人も馬も
疲労困憊したので、いったん進軍を停止し、そこで休息することにしたとします。ところが、
敵は空気が乾燥し、強い風が吹いているのをいいことに、我が軍の風上に火をつけ、さらに我
が軍の後方に戦車・騎兵・精兵を隠して待ち伏せてきました。そのため、我が軍は恐れおのの
き、あわてふためいて、ばらばらになってわらわらと逃げ始めました。この場合には、どうし
たらよいのでしょうか?」
太公望は答えました。
「このような場合には、雲梯(はしご車)や飛楼(移動式の見張り台)を使って、高いところ
から遠く左右両脇を見渡し、我が軍の前後をしっかりと監視します。もし火の手があがったの
を発見したら、ただちに我が軍の前方を焼き払って広場を作り、さらに後方も焼き払います。
そして、敵軍が迫ってきたら、軍を率いて焼け跡に退却して守りを固め、強い石弓と優秀な兵
士を使って左右を防衛し、さらに前後を焼き払います。このようにすれば、敵は我が軍に損害
を与えられません」
武王は尋ねました。
「敵はすでに我が軍の左右に火をつけ、さらに我が軍の前後に火をつけていて、我が軍は煙に
おおわれている。そして、敵の大軍は焼け跡に陣取り、そこからこちらを攻撃してきた。この
場合には、どのようにすればよいのでしょうか?」
太公望は言いました。
「このような場合には、四武衝陣を作り、強い石弓で我が軍の左右を守ります。この戦法を用
いれば、敵も味方も勝てませんが、しかし互いに負けることもありません」
六韜 虎韜


第四十二篇 塁虚
【解説】
塁虚とは、敵軍が陣地をからっぽにしてこちらを惑わすとき、こちらはそれを偵察して察知
したいということです。
【本文】
武王が尋ねました。
「どんな方法を使ったら、敵陣の長短や敵軍の動向を知ることができるのでしょうか?」
太公望は答えました。
「将軍たる者は、必ず上は天の道を知り、下は地の利を知り、中は人の行いを知らねばならず、
高いところに登って、敵の動きを観察し、敵陣を望み見れば、その長短が分かりますし、敵兵
を望み見れば、その動向が分かります」
武王が尋ねました。
「なにを基準にして判断すればよいのですか?」
太公望は答えました。
「太鼓の音もせず、金の音も聞こえず、敵陣の上を多くの鳥が飛んでも、人に驚いた様子が見
られず、さらに土ぼこりがあがらないなら、まちがいなく敵はこちらをあざむいているのであ
り、敵陣に見える人影はすべて人形です。
敵がいきなり撤退したかと思うと、遠くないところで、態勢を立て直せていないのに、反転
してまた攻撃してくるなら、敵軍の指揮にはあせりがあります。あせりがあれば、隊列がでた
らめになり、そうなれば、陣形が必ず乱れます。このようなときには、急いで出陣して攻撃し
ます。このとき、少ない兵力で敵の大軍を攻撃すれば、敵は必ず敗北します」