「人間って…あっけないんですね」
病院の霊安室で、亡くなられた奥様を見つめながら、ご主人がフッと語られた。
これには思わず…返す言葉が見当たらない。
奥様は数時間前まで、とても元気だったらしい。
いつもの様に台所で家事をされ、ちょうど主人が帰宅し、まさにいつもの自然な光景であった。
それが数分後…まさかの出来事が襲った。
着替えを終えた主人は、台所で起こった現実に目を疑った。
すぐに救急車を呼び病院へ搬送しされたが、その甲斐なく帰らぬ人となられた。
「何が起こったのか…不謹慎かもしれませんが、涙ひとつ出ないんですよ」と語るご主人。
この様な時…我々葬儀社の人間も正直辛いものがある。
またこの様な境遇に置かれる人に限って、夫婦仲が非常に良いだけに…葬儀がより深い悲しみに暮れる。
多くの人は、生きていることが当たり前に思っているのかも知れない。
しかし…人間は生きているのでなく、生かされているだけである。
だから寿命というものがある。
学ぶこと、働くこと、結婚すること、離婚すること、お金持ちになること、貧乏になること、五体満足なこと、障害を持つこと、感激すること、悲観すること…多くのことが人生にはあるが、最期に平等に訪れるのは、この世から去ることである。
一人でも多くの人が、「あっけない」運命をたどることなく過ごしてほしいが、人生…何が起こるかわからない。