Escape 42 | ♡妄想小説♡

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主に妄想記事をあげています。作品ごとにテーマ分けしていますので、サクサク読みたい方は、テーマ別にどうぞ。 ※物語はすべてフィクションです。  
たまに、推しへのくだらん愛も叫んでます

まさか、私に会いたくないからじゃないよね、とか、色々考えた。



ヒロトに会いに行く、と言ってくれたけど、実際に会ってみて、ヒロトから話を聞かされて、私のこと嫌になっちゃったとか、そういうわけじゃないよね、と。



だから、顔も合わせず家を出てしまったんじゃないだろうか。



もう、私には会いたくない?



嫌われちゃった?



嫌なことばかり考えた。



学校にいるときも、何度かラインを送った。



既読にはなったけど、返事が返ってくることはなかった。



不安ばかり増していく。



家に戻って、そわそわしながら夏喜の帰りを待った。





午後五時、玄関の扉が開く音がした。



洗濯物を取り込む途中だった私は、その手を止めて夏喜の元に走る。



「夏喜!」



ちょうど、リビングのドアが開いた。



夏喜の体と、鉢合わせしそうになる。



「藍…」



よかった、顔はいつもと変わらない。



怪我はしてないみたいだ。



「何でライン返してくんないの?心配してたんだよ?」



「…悪ぃ、」



「朝も、顔合わせずに出てっちゃうし、何かあったんじゃないかって…」



「あぁ…」



「…なんか、あったの?」



「違うって。何もねぇ。なんて返したらいいか分かんなくて、会ってから話そうって思って」



ごくり、と唾をのむ。



夏喜の口から、どんな言葉が出てくるのか、その時を待つ。



「もう、何も心配することねぇから。あいつとは、もう会うな」



「でも…」



「お前にも、もう付きまとうなって言ってきた」



「そんなの、ヒロトが簡単に言うこと聞くはずないよ!」



「写真は全部消さした。動画なんて、なかったから。あいつの嘘だよ」



「うそ…」



「動画なんて、最初っからなかったんだよ。あいつのはったりだ。そんなもん、撮ったことねぇって、白状しやがった」



「ほんと、に?」



「あぁ、スマホのフォルダ全部確認したし、間違いねぇだろ?あいつんち、パソコンもなかったし、どっかに複写してる可能性もないから」



「見た…の?」



「え?」



「写真、私が、写ってた?」



一体どんな写真があったというのだろう。



夏喜にだけは見られたくなかった。



「見たけど、お前が寝てる間に撮られてる寝顔とか、そんなんばっかだったから。特に変なのはなかったよ」



「ほんとに、それだけ?」



「変なもん、撮らせた記憶あんのかよ?」



「それは、ないけど」



「だったらもう大丈夫だ、心配すんな」



急に、全身の力が抜けたみたいに、立っていられなくなった。



すぐ右にある壁に、片手をついて、自分の体を支える。



「どうして…」



「ん?」



「どうして、そんな簡単に。ヒロト、よく言うこと聞いたね?」



本当に、信じていいのだろうか。



またいつか、何か言いがかりをつけて、私の前に現れたりするんじゃないだろうか。



「夏喜、本当に何もされてないの?」



夏喜の腕をブレザーの上からそっとなぞる。



「本当は、その代わりにって、何か要求されたりしたんじゃないの?」



体を傷つけられていないんだとしたら、何だろう?お金?まさか、夏喜がヒロトにお金を渡したりしてないだろうか。



「大丈夫だって、何もしてねぇ」



「でも…」



本当に?



ヒロトはそんなに物分かりのいい男じゃない。



見返りもなく、自分の弱さを見せたりしないやつだ。



「言ってやったんだよ、俺の親父は、犯罪者だって」



「え…」



「お前のことも、殺しに来るかもしれないって、脅したんだ。そしたらあいつ、急にびびりやがって、すぐにスマホ出しやがったよ」



「……」



夏喜が今、どんな表情をしているのか、私は見上げた。



勝ち誇ったような顔もしていたけど、やっぱりどこか物悲しそうで、投げやりだった。



私のために、夏喜は思い出したくないことを、思い出さずにいられなかったんじゃないだろうか。



そして、それを武器にする自分に、嫌悪を抱いているんじゃないだろうか。



「…知ってんだろ?俺の、親父のこと」



「…ごめん、翔さんから聞いた」



「だよな」



「ごめんね、でも、決して興味本位とかじゃなくて、…知りたかったから。夏喜のこと」




夏喜は体の向きを傾けて、私と正面から向き合おうとしない。



「私が無理やり聞き出したの。翔さんは悪くないから」



ごめんね、ともう一度謝った。



「別に、いいよ。背中の傷のことも、もう分かってるんだろ?」



「……」



うん、と小さく付け足した。



「痛かった、よね?」



右手を上げて、私から逸らして反対の壁を見つめる夏喜の左腕に、指先を添えた。



夏喜の、今でも残る、体と、心の傷。



それを表にして、私を守ってくれた。



「皮肉だよな、こんなこと持ち出して、他人脅すなんてな」



「そんなことない」



ギュッと両手で夏喜の体にしがみつく。



「ありがとう、夏喜」