Escape 35 | ♡妄想小説♡

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主に妄想記事をあげています。作品ごとにテーマ分けしていますので、サクサク読みたい方は、テーマ別にどうぞ。 ※物語はすべてフィクションです。  
たまに、推しへのくだらん愛も叫んでます

その日の夜、何度かヒロトから電話がかかったけど、私は無視し続けた。



夏喜もいない、小夜子さんもその日は夜勤で、一人過ごすのは心細かったけど、何とか心折れないようにと踏ん張った。



次の日のお弁当の準備をしながら、喜んでくれる二人の笑顔を思い浮かべると、頑張れそうな気がした。



次の日の、帰りだった。



今日はぴたりとヒロトからの連絡は止んでいる。



彼も仕事で忙しいのかと、ほっとしていた帰り道。



家の近くで、また偶然夏喜と一緒になった。



今日は一人だ。



「夏喜」



嬉しくなってその後ろ姿に駆け寄る。



「おぉ、今帰り?」



「うん」



自然に横に並んで歩き出せる間柄になれたことが、すごく嬉しい。



「そういやさ、昨日、翔さんに顔丸くなったんじゃね?って言われた」



「え?そうなの?」



「うん、確かに、飯食い過ぎで体重ちょっと増えたんだよなぁ」



「はは、よかった」



出会った頃の夏喜は、年齢の割に頬がこけて明らかにひどく痩せて見えた。



暗い照明の店の中で見ても、顔色だってよくなかった。



いくら翔さんのところで賄いを食べていても、朝は抜き、昼はコンビニのパンじゃ、栄養不足だったに違いない。



「お前の飯、何が入ってんの?」



「は?」



「太らせる効果かなんかか?」



「んなことあるわけないでしょ?でも、こう見えてちゃんと考えてるんだよ?夏喜睡眠不足でしょ?ちょっとでも栄養バランスいいようにって、実は少し勉強もした」



「そうなの?」



「うん。睡眠は、改善されないんだったら、せめて食べるものだけでもって思って」



「そうだったんだ…」



呟いた夏喜を見て、なんだか急に恥ずかしくなった。



これじゃあ私がすごく夏喜に尽くしてる人みたいだ。



「てゆーかさ、そろそろ名前で呼んでくんない?」



照れ隠しでそんなことを言った。



「は?」



「夏喜、いっつもお前、とかばっかで私の名前呼んでくれたことないじゃん」



あの時一回だけを除いては。



「私の名前、ちゃんと分かってる?」



「分かってるし。呼んでるだろ?普通に」



「いやいや、呼んでないから!普通に!」



「それよりお前、バイトの面接どうだったの?」



「あ、ほらまた!」



言ったら、夏喜も、あ、という顔をした。



でも、まぁいいか。



夏喜に呼ばれる "お前" なら、なんだか全然嫌でもない。



私は、以前話が出たように、近所でバイトを探している。



まずは週三日くらい、家事が疎かにならない程度で出来ればいいなと思っている。



そして、小夜子さんと夏喜の家に、食費を入れることが出来るくらいの。



「今ね、コンビニとファミレス、返事待ち。でも、やっぱりご飯作ったりするの好きだから、ファミレスがいいかなぁ?」



「ふぅん、いいんじゃね?」



どこか夏喜も機嫌がよさそうだ。



多分夏喜は、私がこうやって家事や学校、バイトにと頑張っている姿に、喜んでくれている。



何も頑張ってないだろって言われたあの日から、成長した私を見て、評価してくれているみたいだ。



それって、認められたみたいですごく嬉しい。



夏喜は誰に認められたいんだろう。



もし、自分のために頑張っているんだったら、夏喜は多分負けず嫌いなんだろうな。