小夜子さんから、食費を預かるようになって数日、私は、毎日スーパーに寄って食材を買って帰ることが日課になった。
色んなお店を回って、ここは生鮮が安い、ここは日用品が安いなど、把握するようになっていた。
今日は品定めだけをして、スーパーを出た時、夏喜の姿が見えた。
ここを五分ほど行けば自宅。
学校から帰宅する途中だろう。
「夏喜!」
声をかけた瞬間、大きな夏喜の体に隠れて見えなかった、もう一つの人物の影が見えた。
友達と一緒なのかな、と思ったのは一瞬で、その姿は、背の高い夏喜よりはずいぶん小柄で、スカートを履いていることがすぐに分かった。
髪の毛も長い。
女の子だ。
その瞬間、ドキン、と心臓が跳ねた。
夏喜の制服のズボンと同じ柄のスカートを履いている。
きっと同じ高校の子だろう。
女の子と一緒だからって、彼女と決めつけることは出来ない。
もしかしたらただのクラスメイトで、友達かもしれない。
でもこちらから伺える女の子の顔は嬉しそうに微笑んでいて、彼女の手は夏喜のブレザーを着る腕に、そっと添えられていた。
ドクドクドク、と心臓がどんどん速くなっていく。
「何だ、夏喜、彼女いたんだ」
他人には興味なさそうな顔しといて、やることちゃんとやってんじゃん。
毒つきたい気分になるけど、普通に考えたら何にもおかしくはない。
夏喜は見た目もかっこいいし、何だかんだ優しい。
自分の信念を貫く強さだって持ってるし、多分、女の子にはモテるんだろう。
私が勝手に勘違いしていただけだ。
夏喜と私は、特別な関係なんじゃないかって。
男とか女とか、そういうわけじゃないけど、何か、誰も、他人には入り込む隙間のないような、私たちだけの何かがあるんじゃないかって。
だって夏喜は私を助け出してくれたから。
「そっか…」
私だけじゃないんだ。
夏喜は、きっと誰にでも優しいんだ。
数メートル先を通り過ぎていく二人の姿を見つめる。
ちら、と見えた夏喜の横顔は、いつもみたいに少しだけ口角を上げて、笑っているように見えた。
その笑い方は、以前翔さんの店で見せたような作り笑いなんかじゃなくて、優しい微笑みのような気がした。
ズキン、と今度は胸が痛み出す。
次の瞬間、目頭が熱くなった。
それは今、私が傷ついて、悲しんでいる証拠なんだと思った。
「私、夏喜のこと好きなんだ」
男として。
誰にも取られたくないんだと、思っているからなんだ。