きれいな顔してるな
さくらが舞う頃、その木の下で寝転んでいる男の子を見つけて、そう思った。
彼のことは知っている。
一組の、「堀夏喜くん」だ。
周りの女の子たちが、イケメンなんだと、騒いでいた。
「ほんとに、イケメン…」
整った眉。
細くて長い鼻、シュッと尖った頬と顎とは相反して、ぽってりとした唇。
肌は白くてきめ細かい。
男の子特有の、青髭の痕も、全くない。
「私よりも、肌きれいなんじゃ…」
そう思わせるくらい。
彼は両手のひらを自分の頭に敷いて、目をつむっている。
寝ているのだろうか。
座り込んでまじまじとその顔を見つめていたその時、サァァッと強い風が吹いて、さくらを散らした。
今年は開花が遅くて、四月になってから満開を迎えたけど、その時期は一瞬にして、もう葉桜になりつつあった。
ひらひら揺れて落ちてきたひとつの花びらが、堀くんの前髪に触れる。
それこそ絵になるけれど、私はそっとその花びらに手のひらを伸ばそうとした。
すると、いきなりぐっと腕を掴まれた。
びっくりして、腕と体を引く。
「誰?」
堀くんは目を開けていた。
決して大きくはないけど、吊り気味のそれと、目尻にかけてくっきりと入った二重瞼が強くて、怯む。
まるで、俺には触れるな、とでも言われているみたいだ。
「あ、ごめ…」
謝る言葉ですら、はっきり出てこない。
堀くんが上体を起こした。
前髪についていたさくらがひらりと落ちる。
それに気がついたのか、おでこにしわを寄せ、自分のてっぺんを見ながら、頭をふるふる、と振った。
犬、みたいだな。
「五組の、堀です」
ようやく自己紹介した。
「堀?」
堀くんが私を見る。
先程のような鋭い眼差しは、もうない。
「うん、おんなじ名前」
「俺のこと、知ってるの?」
「うん、一組の堀くんでしょ?知ってるよ。サッカー部のイケメンだって、女の子たちが騒いでたもん」
「ふぅん」
興味無さそうに、堀くんは私から視線をそらした。
あんまり女の子と仲良く話すタイプではない、そんなことも噂で耳にはしていたけれど、ほんとにそうらしい。
さっきからの態度で、バンバン伝わってくる。
俺のテリトリーに入るな、そんな感じ。
「授業、サボってるの?」
それでも私は聞いた。
ジャージ姿の堀くんは、体育の時間だろうか。
「堀さんは?」
「私は、授業中」
「ふぅん、何の?」
そして初めて堀くんが私の全身をまっすぐに見つめた。
私は堀くんに向かいながら、体育座りをして、抱えた膝に、スケッチブックを持っている。
「それ、なに?」
私が抱えているものだろう。
ようやく気付いたか。
「スケッチブック。美術の授業なの」
ちら、と、堀くんが私の顔を伺うように一瞬覗き込む。
決して目を合わせようとするわけじゃない。
照れ屋、なのかも。
「見てもいい?」
「まだ、書き始めたばっかだけど、どうぞ」
私は、その下書き中のスケッチブックを渡した。
さくらの木を題材に書こうとしたものだ。
「うまいね」
堀くんはじっとそれを見つめると、そう呟いた。
「私、実は美術部なの」
「へぇ、そうなんだ」
堀くんからスケッチブックが返ってくる。
「部室からサッカー部が練習してるのも、よく見えるよ」
「なんか…恥ず、」
堀くんは、私に横顔を見せて、苦笑いした。
「この前、転んで膝擦りむいてたのも、見た」
「マジか…めっちゃ見てるじゃん」
はは、と声を出して笑う堀くん。
その目尻にはしわが寄り、三日月の形になった目は、かわいらしい。
ちゃんと、笑うんだ。
クールで知られている堀くんの、内側を見れた気がした。
それがもし自分だけに見せてくれた特別なものだとしたら、嬉しい。
たくさんの女の子から求められている、かっこよくてモテる堀くんの、特別。
「ねぇ…」
さくらがまたひらひら舞って、堀くんの全身に纏わりつく。
きれいだな、と頭の隅で考えながら、私は言った。
「堀くんのこと、描いてもいい?」
そのときには既に、頭の中に想像していた。
このさくらの木の下にいる、堀くんの、絵。
私が書く、完成した映像。
どういうこと?とでも聞きたそうに、堀くんが目を丸める。
あ、そんな表情もするんだ、さっきの鋭い顔とは違って、幼くてかわいいな、と思う。
私は、人を好きになったことが、まだ、ない。
男の子を見つめて、胸がギュッと苦しくなるとか、そんな経験を、したことがない。
だけど、この特別な感情がそうなのだとしたら。
「…いいよ」
堀くんの声が聞こえた。
威圧的な声色ではない。
低くて強い、男っぽい声とも違う。
柔らかい、優しい声だ。
「好きかも」
もしかしたら、ずっとそうだったのかもしれない。
西日の当たる、美術室からサッカー部の練習を見つめていた時から、ずっと。
この、特別な人を、自分だけのものにしたかったのかも。
「好きになっても、いいですか?」
…春は、恋をする季節だ。
---
ようやく一本、書けました😊
妄想できれば、すぐ書ける✍️
これは、真面目に考えたやつ❗
ムズキュン
また、ふざけ倒したやつも、書きますー🤗