片隅 北人④ | ♡妄想小説♡

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主に妄想記事をあげています。作品ごとにテーマ分けしていますので、サクサク読みたい方は、テーマ別にどうぞ。 ※物語はすべてフィクションです。  
たまに、推しへのくだらん愛も叫んでます

「よーし、じゃあ今日はもうこれで帰ろうぜ?」



団長の黎弥が、みんなに声をかけた。



体育祭まで、あと三日。



さすがに、俺たちは学校が終わったあと、近くの公園で、自主練をしていた。



明日は、下校時刻まで学校で練習して、前日は休んで、別の手が回っていないところを手伝うことにしている。



今日が最後の追い込みだった。



衣装係の希子たちは、希子の家に泊まり込みで、みんなで最終の仕上げをするらしい。



徹夜かも、という希子に、無理しないといいけどな、と思ったところだった。



「颯ちゃーん、駅まで乗せてってー?」



黎弥が甘えた声を出して、颯太の自転車の荷台に股がった。



「はぁ?何で?駅まで近いやん?歩けよ!」



颯太は今にも自分の自転車に股がろうとしていたのに、先に黎弥が後ろに乗るものだから、困惑し言い返している。



「いーやん、どうせ通り道やん?」



黎弥は人に甘えるのがうまい。



おそらく、誰もそれを断らないだろうと、自分でも自覚しているところがあるのだろう。



愛されキャラはそれだから羨ましい。



「じゃあ、黎弥が漕いでよ」



「えーっ、颯ちゃんの方が、何気脚力あるやん?」



「あー、もう、分かったけん!乗って!!」



「じゃ、お先ー」



機嫌よさげに手を振って、調子の良い黎弥の声が聞こえて、彼らは去っていった。



その場に取り残される、俺と、夏喜。



みんなの中でも、一番クールで、あまり喋らない夏喜。



俺も、あまりはしゃぐタイプではない。



賑やかな黎弥と颯太がその場からいなくなると、途端に静かになる。



だけど、二人がああして帰っていったことで、俺は、こう声をかけた。



「夏喜も、乗ってく?」



隣に立つ夏喜は、背が高くて、スタイルがいい。



いつも冷静な佇まいで、男の俺からみても、かっこいいな、と思う。



「俺?」



「うん、駅まで。どうせ通り道やし」



「いや、でも、近いし…」



夏喜は黎弥みたいに調子いいことは言わない。



遠慮というものを、知っている。



だけど、このまま先に俺だけ自転車で帰るのも、気まずいな、と思った。



「どうせなら、ちょっと歩かん?」



夏喜に言われて、何だろう、と思い顔を上げる。



「ちょっと、話したいことあるっちゃけど」



そう言われると、ピンときた。



きっと、希子のことだ、と。







自転車を押しながら、並んで夏喜と駅の方向まで歩いた。



俺たちが住むこの町は、海が近い。



海沿いに、国道と電車の線路が通っていて、その周りにたくさんの店が並び主要の町並が広がる。



そこから坂道を上っていくと、高校や、自然が並んでいる。



ここから駅に行くには、坂道を下る形になる。



いつも、よく希子を送った道。



海風になびかれながらそこを下る瞬間は、とても幸福に満ちたものだった。



だけど、今隣にいるのは、夏喜だ。




「話って、なん?」



いつまで経っても夏喜が話し出さないので、俺は、先に切り出した。



「うん、」



面倒くさいな、と思う。



さっさと済ましてしまたい。



「希子のこと?」



だから、俺は、聞いた。



「…うん。俺、…希子に告ったけん」



「そっか。何となく、分かっとったよ。二人の雰囲気、最近違ったけん」



「そっか…」



カンカンカン、と踏切の音が聞こえてくる。



もうすぐ電車が来るのだろう。



一本乗り遅れると、次の電車は十五分後かもしれない。



だけど今は構わないのだろう。



「北人は、いいと?それで?」



ぎく、とした。



希子の話をする時点で、そうだろうとは思っていたけれど、おそらく夏喜は、俺の気持ちに気付いているのだろう。



「何が?」



「とぼけんなよ、好きっちゃろ?希子のこと」



ザァァァッと波の音が聞こえてくる。



やはり駅が近い。



「別に、俺には、何も言う権利ないし」



「俺なんか、ライバルにもならんってか?」



「そういうわけやないよ。俺は、別に希子の彼氏でも何でもない。誰が希子に告ろうと、ダメとか言える権利はないってこと」



「…そう。俺は、希子に、今度のリレーで一位になったら、付き合って欲しい、って言っとる。まんざらじゃない答えも、貰っとる」



「希子は、夏喜のこと嫌いじゃないやろ。よかったやん」



「本気で言いよると?」



夏喜が、足を止めた。



俺の方を振り向く。



いつも優しい雰囲気の夏喜の、真剣な表情だ。



こっちも、真面目に表情を引き締める。



「俺に取られても、いいっちいうことやんな?」



希子を、取られる。



希子は、颯太が好きなのだと思っていた。



だけど、こうして出てきた夏喜。



夏喜はかっこいいし、優しいし、告白されて、希子だって嬉しいのだろう。



まさか夏喜が恋敵になるなんて思いもしていなかったけど、これが、現実だ。



先に想いを告げた方が、勝ちなのだ。



ふっ、と笑う。



「俺に、そげんかこと言って、いいと?」



「何?」



訝しげに、夏喜が眉を潜める。



「リレー、わざと負けるように仕向けるかもよ?」



やられっぱなしではプライドが持たない。



俺だって男だ。



わざと煽ってみた。



「北人が、そんかことするわけないっち、思っとるけん」



「分からんやん」



希子を取られないためなら、何だってやる。



「俺は、北人なら、フェアにやりたいと思って、こうやって話した。もし、わざと負けるようなことするんやったら、すればいい。でも俺は、それでも希子のこと、諦めんけん」



「……」



完全に、俺の負けだった。



俺は、希子に想いすら告げられていない。



まだ、同じフィールドにさえも立てていない、負け組なのだ。