On Your Mark 85 | ♡妄想小説♡

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主に妄想記事をあげています。作品ごとにテーマ分けしていますので、サクサク読みたい方は、テーマ別にどうぞ。 ※物語はすべてフィクションです。  
たまに、推しへのくだらん愛も叫んでます

最終の電車に乗るため、私たちは十一時前には店を後にした。



今日は俺が誘ったから奢るよ、という公ちゃんに、半額出させてくれ、といって会計の半額分を差し出した。



出す、という私に、奢るのは今日だけだよ、気にしないで、と彼は言ったが、こういうのは最初が肝心だ。



男に奢ってもらうような女にはなりたくない。



そう思われるのも嫌だ。



それは、私の中のプライドでもある。



「駅まで送るね」



店を出ると、彼が言った。



ここから駅まで歩いて十分、というところだった。



何も言わなくても、当然のように送ってくれる、というところに少しくすぐったさを感じながら、やっぱり真面目で優しいな、と思った。



終電でさよなら、というのも、好印象だ。



「ありがとう。公ちゃん家は、駅から近いよね?」



言ったら、彼がこちらを見下ろして、笑った。



「情報、ダダ漏れだね」



「あ、ごめん、カルテに、打ち込まなきゃいけないから」



「ふふ、知ってる」



その笑顔が、可愛かった。



酔ってるな、と思った。



隣を歩く公ちゃんの手に触れてみたい。



その、大きな手と、大きな胸に抱き締められたら、どんな気持ちになるのだろう。



さぞ心地よくて安心するのだろう、と思う。



さりげなく、体を一歩、寄せてみる。



腕と腕が、触れ合いそうなほどに近く、距離が縮まる。



だけど、彼は何もしない。



まっすぐ前を見据えて、駅までの道のりを歩く。



駅までたどり着いて、時刻を確認した。



「まだ十分あるね」



彼が言う。



「うん」



「そこのベンチで、待ってようか?」



「うん」



にこりと微笑んで、それに従う。



いくつかある駅への入り口。



その北口は、メインではなくて、殺風景な小さな路地みたいになっている。



人通りはほとんどない。



そこに備え付けられているベンチに、並んで腰を下ろす。



私は、もう、だいぶ心惹かれていた。



このままさよならしてしまうのが、とても寂しいと思うくらいに。



まだ、離れたくなかった。



このまま一緒にいたかった。



だけどそんなことを口にして言ったら、彼は引いてしまうかもしれない。



もっと、恋愛とは、時間をかけて、相手のことをゆっくり知っていって、それから、とそんな風に思っている人なのかもしれない。



ううん、きっとそうだ。



女の私から誘うことなんて、到底出来ない。



「どうかした?」



俯き考え込んでいると、公ちゃんの方から声をかけられた。



「あっ、ううん、何でも、」



慌てて顔を上げる。



すると思いの外彼の顔が近くにあった。



視線と視線が、ぶつかり合う。



公ちゃんの、白くて透明感のある肌、そして濁りのなさそうな、きれいな奥二重の瞳。



私は、知っている。



どんな風に見つめたら、どんな表情で見続けたら、男は、落ちるのかということを。



男が、女のどんな雰囲気に、我慢できなくなるのかということを。



酔った瞳で、おそらく、少し蒸気し赤く色づいた頬で、私は彼を見つめた。



唇を、我慢できなくなるみたいに、少し開いて、ほんの少しだけ、顔を近づけた。



計画的だった。



きっと、事実を作ってしまえば、公ちゃんは私から逃げられなくなる。



ちゃんと、事実を受け入れようとしてくれる人だと。



利用したのだ。



私は、女を。