イデオロギーによる支配と憎しみを超えて(12) | 時代のセンサーⅢ〈希望ある未来を志向して〉

時代のセンサーⅢ〈希望ある未来を志向して〉

今の時代を生きる日本人の一人として、日本及び世界を自らの知見に基づき見つめ考えることを通して、希望ある未来を志向して行きたいと思います。

【多様性】②

 

日本人は本来多様性の価値観を有していることを述べて来ましたが、現実の社会は<一元的価値観>に依存しているのが実態です。

こうした現代日本の状況について、かつて司馬遼太郎氏は『この国のかたち』の中で、文化の均一性あるいは価値意識の単純化の「危さ」について、次のように述べています。

すなわち、“文化の均一性。さらにはひとびとが共有する価値意識の単純化。たとえば、国をあげて受験に熱中するという単純化へのおろかしさ。価値の多様状況こそ独創性のある思考や社会の活性を生むと思われるのに、逆の均一性への方向にのみ走りつづけているというばかばかしさ。これが、戦後社会が到達した光景というなら、日本はやがて衰弱するのではないか”(1巻,pp.162-163)ということです。

私はこの<衰弱>は、既に今の社会において様々な形で表れているのではないか、と考えています。それは端的に言えば、社会的モラルの崩壊やお金中心及び自分本位な考え方などに表れている、ということです。また、それは言い換えれば、<日本人の劣化>ということを表しており、様々な事件や事故あるいは不祥事となって頻繁に起きている、と言うことができます。

そして、今まさに「お金」ということでは、お金中心・お金まみれの実態が政治の世界で「裏金疑惑」という形で露わになって来ています。これは世の中の人々の行動が“お金がすべて”ということを基本に動かされている現実の一旦を表しているわけで、何も国会議員だけの問題ではなくて、日本人一人ひとりにとっての問題でもある、ということだと思います。

 

一方、世界的には「グローバリズム」あるいは金融資本主義(お金中心主義)というアメリカ的な一元的な価値観が世界中を覆っていた中で、イラク侵攻があり、そしてその混乱がその後IS(イスラム国)の出現につながって行ったのは事実です。

そして今、ロシア=プーチンによるウクライナ侵攻、さらにはイスラエル・ガザ地区での紛争の最中にあります。このような現実は、武力により相手を殺傷し屈服させるという理不尽な行為がまさにまかり通っていることを示しています。

その意味で、かつての古代ローマが衰退していったことと同じような危機を迎えている、すなわち現代の民主主義を基盤とした世界がまさに「崩壊」に向かって突き進んでいる、ということであり、その根本にあるのが他でもない<多様性の喪失>ということである、と私は考えています。