どこかしら根なし草な俺と、しっかりとまではいかなくても地に足を着けて人並みの生活を築いていた潤
いつしかプライベートで会うことも少なくなった
後輩や先輩と俺も遊んだり飲みに行ったりして過ごしながら、ふと潤のことを思い出すと意味のわからない穴がぽっかり空いてるのを感じるときもあった
もっとも潤の方は相変わらずで、リアクションはズレてるし、云いたいことはカミカミだし…
俺から見ても最近の若手の勢いに比べると顕らかに低速ワゴンなのだ。それでも潤は
「俺らが一番面白い」
と豪語する
人はそう簡単には変わらないらしい
それが去年の夏、コンビ結成以来潤が初めてネタを書いてきた
単独ライブのステージで、俺はこんなに面白い井戸田潤を今まで見たことが無い
潤は変わりはじめていた
そしてセンターマイクの前に立つ俺の横に、帰ってきてくれた
「潤、ごめんな」
「なんで謝んのよ、小沢さん」
潤が決めたことだ。後悔はしてないと思う
それでも俺は潤に対して自分の気持ちが、申し訳ないような気がしてならなかった
「嬉しいんだよ、俺」
喉がつまって声が擦れた
下手にマジになったのがいけなかった
「…小沢さん」
「言うなよ!泣いてんのかなんて言うなよ!」
「寂しいんでしょ、俺が居ないと」
「うるせーよ、ニコニコすんな!」
ふわふわと舞い降りる桜を目で追っていた潤が俺の方に向き直った
「小沢さんはさ」
奇跡のように一枚の花びらが、潤の手のひらにするりと腰掛ける
「俺が選んだ最高の相方だから」
「あま~い!!」
…言わせてんじゃねえよ
ぐいっとあおったビールの缶はとっくに空っぽになっていた
二本目のビールを貰って俺たちは日が暮れるまで次のライブの話で盛り上がった
ちゅうえい達を呼んでこのまま夜桜見物も悪くないななんて想いながら、酔ったフリして俺は相方に誓ったんだ
俺たち爺さんになってもさ
ずっと漫才やっていようぜ