睫毛の雪
朝降りだした雪は、
夜にはもう雨の跡と区別すらつかない。
アスファルトを濡らしただけで、
跡形もなく溶けてしまった。
横浜の雪は、金沢に降る雪より、
儚いものなのだろうと思って、
金沢の半端なく獰猛な雪を思い出し、
雪を「儚い」と最初に比喩した人間は、
きっと都会の人間だったに違いない、
じゃなければ雪の少ない南国育ちだろう。
そんなことを考えながら、
何気なくくわえた煙草と一緒に、
ライターの火が睫毛を焦がした。
夜にはもう雨の跡と区別すらつかない。
アスファルトを濡らしただけで、
跡形もなく溶けてしまった。
横浜の雪は、金沢に降る雪より、
儚いものなのだろうと思って、
金沢の半端なく獰猛な雪を思い出し、
雪を「儚い」と最初に比喩した人間は、
きっと都会の人間だったに違いない、
じゃなければ雪の少ない南国育ちだろう。
そんなことを考えながら、
何気なくくわえた煙草と一緒に、
ライターの火が睫毛を焦がした。
進路希望
汚れた水が排水口へ流れ込む。
そのとき排水口は何を思うだろう。
この「水」自体には意識があり、
この「水」自体には意識がない。
一人でもなく、大勢とゆうわけでもない。
何処からが誰で、何処からが己なのか。
そもそもこの意識は誰のものだろう。
解決しがたい疑問はいくつもあるが、
次の循環では、海になろうと決めている。
そのとき排水口は何を思うだろう。
この「水」自体には意識があり、
この「水」自体には意識がない。
一人でもなく、大勢とゆうわけでもない。
何処からが誰で、何処からが己なのか。
そもそもこの意識は誰のものだろう。
解決しがたい疑問はいくつもあるが、
次の循環では、海になろうと決めている。
空白の斜め45度
こうしてただ水槽を眺めている間にも、
人間は100ワット放出してはいるが、
100ワットじゃたかが知れている。
ブリキの玩具ばりにカタカタジージーと、
動きだすには、まぁ確実に事足りる。
が、本場のチャーハンを作るには、
まるで足りてない熱量。
なのではないだろうか。
【人熱発電所測量課より】
貴殿の熱量は計測の結果、
「100ワット」でした。
そのうち有効利用された熱量は、
「該当なし」です。
貴殿はこの世界に不必要です。
無意味に、無気力に、無能に、無目的に、
ただ垂れ流されるだけになっている、
そのあまりにも無駄な「100ワット」は、
近年嘆かれ続ける地球温暖化現象に、
僅ながら影響を及ぼして居ります。
至急、当社までご連絡ください。
云々。
それを読んだ君は憤慨する。
君は、世の中には自分よりもっと、
不必要な奴がいるはずだ、と思う。
自分だけじゃない。不公平なことだ。
納得がいかない。とも思うだろう。
街に出た。不必要な奴を探した。
探して捜して探し続けて、
君は、そのことに気付いてしまった。
間違えた。
見渡せば、目線より斜め45度先、
それぞれの描く未来があった。
平凡なこと。とても小さなこと。
低俗的なこと。凄く身近なこと。
まるで届きそうにもない夢や憧れ。
君は知った。
今まで無駄に垂れ流してしまった熱量は、
既に膨大な量となって、空の彼方、
成層圏より遥か遥か上に浮かぶ、
巨大な、強大な炎の塊となった。
光を投げ掛け。
時に心地よく。
時には獰猛に。
大地を育み。
草木を育み。
生命を育み。
世界中に散らばって、降り注ぐ。
空白の斜め45度を見上げて思った。
もっと慎重に使えばよかった、と。
今まさに君から生まれ出た100ワット。
君は、そのオレンジ色をした欠片を、
ゆっくりそっと、口に含んだ。
途方もなく、甘かった。
人間は100ワット放出してはいるが、
100ワットじゃたかが知れている。
ブリキの玩具ばりにカタカタジージーと、
動きだすには、まぁ確実に事足りる。
が、本場のチャーハンを作るには、
まるで足りてない熱量。
なのではないだろうか。
【人熱発電所測量課より】
貴殿の熱量は計測の結果、
「100ワット」でした。
そのうち有効利用された熱量は、
「該当なし」です。
貴殿はこの世界に不必要です。
無意味に、無気力に、無能に、無目的に、
ただ垂れ流されるだけになっている、
そのあまりにも無駄な「100ワット」は、
近年嘆かれ続ける地球温暖化現象に、
僅ながら影響を及ぼして居ります。
至急、当社までご連絡ください。
云々。
それを読んだ君は憤慨する。
君は、世の中には自分よりもっと、
不必要な奴がいるはずだ、と思う。
自分だけじゃない。不公平なことだ。
納得がいかない。とも思うだろう。
街に出た。不必要な奴を探した。
探して捜して探し続けて、
君は、そのことに気付いてしまった。
間違えた。
見渡せば、目線より斜め45度先、
それぞれの描く未来があった。
平凡なこと。とても小さなこと。
低俗的なこと。凄く身近なこと。
まるで届きそうにもない夢や憧れ。
君は知った。
今まで無駄に垂れ流してしまった熱量は、
既に膨大な量となって、空の彼方、
成層圏より遥か遥か上に浮かぶ、
巨大な、強大な炎の塊となった。
光を投げ掛け。
時に心地よく。
時には獰猛に。
大地を育み。
草木を育み。
生命を育み。
世界中に散らばって、降り注ぐ。
空白の斜め45度を見上げて思った。
もっと慎重に使えばよかった、と。
今まさに君から生まれ出た100ワット。
君は、そのオレンジ色をした欠片を、
ゆっくりそっと、口に含んだ。
途方もなく、甘かった。
夢の猫、紙切れ一枚
新曲の譜面が手元に在る。
それを膝の上に乗っけたまま、
少し転寝をしていたらしかった。
何処からかリィダーがやってきて、
鶏のパペットと未来について語り合うと、
「よし!ベジタリアンになろ。」
と言ってから五分も経たないうちだ。
HEAVEN ELEVENのヤキトリ串を、
平然と口に運ぶ様を見て思った。
「嘘ぶっこいてんじゃねーよ‥」
そのクセ楽しげな気分も否定できない。
気付けば空き地の真ん中に破棄された、
汚れの酷い真っ赤なソファーの上で、
雨が降る匂いがして、猫が顔を洗うから、
間違いじゃないことに気付いてしまった。
「きっと朝まで家に入れてもらえない」
と、その猫は悲しげな顔をして訴える。
耳と尻尾とを情けなく垂らすもんだから、
一緒に、猫の主人のもとへ謝りに行くと、
新聞の勧誘を断わるが如く、冷たい口調で、
「間に合ってます。」
……。
もう猫は何も喋らなくなった。
淋しげな空気を誤魔化すように、
ひたすら毛づくろいに没頭していた。
無理もなかろう、と思って慰めようにも、
かける言葉が見当たらなかった。
雨が降りだした。
やっぱり猫は何も言わなかった。
黙りこくったまま擦り寄って来て、
ぉずぉずとアタシの膝の上に座り込むと、
寒そうに、小さく震えながら目を閉じて、
折り目のついた、一枚の紙切れになった。
新曲、近々レコーディングです。
どんな仕上がりになるか見えてません。
手元に渡るのはいつ頃になるのかね。
溺れそうな曲です。
薄暗い所から急に、
明るい場所へ出たときの、
目の玉が萎縮するような、
握り潰されるようなあの感覚を覚えたら、
その時こそ、すかさず聴いて欲しい一曲。
飛んじゃえ。
それを膝の上に乗っけたまま、
少し転寝をしていたらしかった。
何処からかリィダーがやってきて、
鶏のパペットと未来について語り合うと、
「よし!ベジタリアンになろ。」
と言ってから五分も経たないうちだ。
HEAVEN ELEVENのヤキトリ串を、
平然と口に運ぶ様を見て思った。
「嘘ぶっこいてんじゃねーよ‥」
そのクセ楽しげな気分も否定できない。
気付けば空き地の真ん中に破棄された、
汚れの酷い真っ赤なソファーの上で、
雨が降る匂いがして、猫が顔を洗うから、
間違いじゃないことに気付いてしまった。
「きっと朝まで家に入れてもらえない」
と、その猫は悲しげな顔をして訴える。
耳と尻尾とを情けなく垂らすもんだから、
一緒に、猫の主人のもとへ謝りに行くと、
新聞の勧誘を断わるが如く、冷たい口調で、
「間に合ってます。」
……。
もう猫は何も喋らなくなった。
淋しげな空気を誤魔化すように、
ひたすら毛づくろいに没頭していた。
無理もなかろう、と思って慰めようにも、
かける言葉が見当たらなかった。
雨が降りだした。
やっぱり猫は何も言わなかった。
黙りこくったまま擦り寄って来て、
ぉずぉずとアタシの膝の上に座り込むと、
寒そうに、小さく震えながら目を閉じて、
折り目のついた、一枚の紙切れになった。
新曲、近々レコーディングです。
どんな仕上がりになるか見えてません。
手元に渡るのはいつ頃になるのかね。
溺れそうな曲です。
薄暗い所から急に、
明るい場所へ出たときの、
目の玉が萎縮するような、
握り潰されるようなあの感覚を覚えたら、
その時こそ、すかさず聴いて欲しい一曲。
飛んじゃえ。
三回転半、回してポイ棄て
目を閉じていて善かった。
獰猛な太陽ハレーション。
消されるところだった。
うっかりしていた。
酷いこと。あっけないこと。
彼は飛ばされてしまった。
白日の彼方に追いやられた。
白光でもって消し飛ばされた。
どこ逝ったがやろ。
頭ん中で蝉がひと声、
先程より一段と声高に鳴いてから、
…。
可哀想に。溶けてしまったよ。
光の嵐に打ちのめされて、
ボコボコのギタギタのメタメタ。
蟻が喰うのかねえ?
食われ損なって地面に落ちた、
溶けたアイスクリームの塊みたく。
同じ器の中。
誰か助けるとかしてくださいよ。
消し飛ばされたまま今でも、
真夏の下で呆然と、呆然として、
あの道の傍らで独り、
揺れる夏草より気に止められることなく、
立ち尽くしている夢を見ても。
夢は夢。
いつでも現実が先走る。
獰猛な太陽ハレーション。
消されるところだった。
うっかりしていた。
酷いこと。あっけないこと。
彼は飛ばされてしまった。
白日の彼方に追いやられた。
白光でもって消し飛ばされた。
どこ逝ったがやろ。
頭ん中で蝉がひと声、
先程より一段と声高に鳴いてから、
…。
可哀想に。溶けてしまったよ。
光の嵐に打ちのめされて、
ボコボコのギタギタのメタメタ。
蟻が喰うのかねえ?
食われ損なって地面に落ちた、
溶けたアイスクリームの塊みたく。
同じ器の中。
誰か助けるとかしてくださいよ。
消し飛ばされたまま今でも、
真夏の下で呆然と、呆然として、
あの道の傍らで独り、
揺れる夏草より気に止められることなく、
立ち尽くしている夢を見ても。
夢は夢。
いつでも現実が先走る。