時代小説の名手といえば
男性では、藤沢周平、司馬遼太郎、池波正太郎、佐伯泰英、上田秀人、葉室麟、など
女性では、高田郁、平岩弓枝、畠中恵、宮部みゆき、宇江佐真理、など
色々好みがあると思います。
今回、前から気になっていた女流作家の作品を読んでみました。
朝井まかての芥川賞受賞作です。「まかて」という変わったペンネームは沖縄出身の祖母の名前に由来するとか。本人は大阪生まれなので、ちょっと親近感があります。
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読んでみて、最初に感じたのは「文句なしに、上手い!」ということ。かなり複雑な内容にも関わらず、読みやすい文章で、グイグイ読者を引っ張っていきます。
舞台は幕末の江戸と水戸。あの樋口一葉の師匠として知られる中島歌子が主人公です。彼女の波乱の人生をそのまま書くのではなく、老齢の歌子が入院している時に、門下生の三宅花圃が頼まれて書斎を整理した際に、未発表の書きつけを見つけてそれを読み始める、という二重の構造になっています。
商家の娘として育った歌子(当時は登世)は、水戸藩の藩士に一目惚れして、そこに嫁ぎます。しかし彼女が愛した藩士の林以徳は、尊王攘夷の急先鋒とされた天狗党の志士だったのです。水戸藩内では天狗党と保守派の諸政党の内部抗争が始まり、内乱へと発展します。天狗党は蜂起したものの、その妻子は賊徒として捕えられ投獄されてしまいます。
最初は若い娘のルンルンとした気持ちが伝わる内容で、当時の生活感が伝わる描写が続きます。後半に登世たちが投獄されてからの描写がえぐい。
その壮絶な投獄生活を生き抜いた登世は、明治維新後に中島歌子と名前を変えて和歌を修行し、多くの門下生を指導する立場になります。
時代小説で幕末の水戸藩を取り上げた作品は珍しいらしく、そういえば薩長や土佐・会津などはよく取り上げられるのに、と思います。それもそのはず、世の中が尊皇攘夷派と佐幕派に分かれて戦っていた時に、水戸藩はここに書かれていたような内部抗争に明け暮れて、優秀な人材が残らなかったという、悲惨な歴史が理由のようです。
和歌に造詣の深い中島歌子を扱っているので、ところどころにその時の心情を詠った和歌が出て来ます。
中でも面白かったのは
「瀬をはやみ 岩にせかかる滝川の われても末に あはむとぞ思ふ」
という有名な和歌の上の句が、失せ物や待ち人に出会えるようにという、願掛けに使われるというエピソード。
ストーリー展開もさることながら、登場人物の一人ひとりのキャラが立っていて、それぞれの人物に感情移入してしまうほどよく描かれています。
時代小説でありながら、恋愛小説でもあるという離れ技をやってのける筆力には感心してしまいます。当時の時代背景や、町人・武士などの暮らしぶりなど、綿密な下調べを行ったのがよく分かり、かといって堅苦しい文章にならないのは彼女の筆才の成せる技でしょう。
作中作という手法には、直木賞の選考委員の間でも賛否があり、三人称で書くべきという意見もあったようですが、私はこのままの構成が好きです。
彼女の作品には、市井の人々の生活を洒脱に描いたものもあるようなので、機会を見て読んでみようと思います。
