晴走雨読な日々〜Days of Run & Books〜 -191ページ目

晴走雨読な日々〜Days of Run & Books〜

晴れた日は山に登り街を走り、 雨の日は好きな音楽を聞きながら本を読む
そんな暮らしがいい!

「下町ロケット」シリーズや「半沢直樹」シリーズで有名なベストセラー作家池井戸潤が、箱根駅伝を題材にするとこうなるという、そのまんまの小説です。上下巻合わせて700ページという長編小説。

 

  

 

彼が取り上げたのは箱根駅伝の常連シード校の名門チームではなくて、予選会にも敗れて本選出場が叶わなかった大学の中から、タイムによって選ばれたメンバーで構成された「関東学生連合」(学連)選抜チーム。

 

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上巻はその予選会の模様から始まります。出身校がバラバラの学連チームで、メンバーの本戦にかける思いもさまざま。合同合宿に参加する中で、寄せ集めチームの本選出場に対するメンバーの温度差の違いが、いろいろな不協和音を生んでしまいます。

 

学連チームのキャプテンは、予選会で惜しくも11位だった明徳学院大学のキャプテン青葉隼斗。監督もその明徳学院監督の諸矢がなるはずが、予選会を最後に突然引退してしまい、後任に現役時代にはトップランナーだったが、勤務している商社を休職して1年限定で監督を引き受けたOBの甲斐真人を指名した、という設定。

 

新任の甲斐監督は、本選に出ても記録の残らない学連チームの目標を3位以上としますが、監督経験のない甲斐から示されたそんな方針に対して、メンバーやコーチ、マスコミや大学OBからも疑問の声が出る中、本人は(そのうち分かるさと)どこ吹く風で自分の指導方法を貫きます。

 

それとは別に、箱根駅伝を長年放送している大日テレビ(もちろん日本テレビがモデル)の社内の軋轢も並行して取り上げられています。

 

看板番組の駅伝中継の放送の仕方(今までのように硬派の報道をするのか?バラエティ色をつけるか?)とか、番組のメインMCを誰にするか(今までの経験豊かなアナウンサーか?タレントを起用するか?)など、会社の重役クラスも巻き込んだ社内政治が繰り広げられます。

 

この二つが絡み合って、いつもの池井戸ワールドが繰り広げられます。

 

上巻は、紆余曲折があったものの、学連チームは本戦の区間割り当てが決まり、大日テレビもMCや報道スタイルが固まったところで終了。

(何気に紹介された小涌園のエピソードが面白い。実際にあった出来事だそうです。)

 

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下巻はその箱根駅伝本戦の模様と終了後の後日譚。

 

強豪校は実名で登場し(選手名は架空)、学連選抜の大学名と選手名はすべて実在しない名前で描かれます。

 

1区から最終の10区まで、それこそ実際のレースさながらの抜きつ抜かれつの展開が繰り広げられます。実際の選手の走りや各チームの運営管理車の動き、そして中継するTV局のアナウンサーや副調整室で繰り広げられる中継車やバイクカメラなどとのやりとり、池井戸潤が念入りに取材した跡が伺える、臨場感あふれる描写。

 

特に感心したのが、レース展開の中で、選手個人それぞれの年少期からの背景を所々で上手く取り混ぜて表現しているところです。実際の箱根駅伝の中継でも、アナウンサーや解説者が選手の育った環境や過去の実績などを紹介しますが、それに勝るとも劣らない描写に何度も涙腺が緩みました。

 

文中に象徴的な言葉がありました。

「ドラマは敗者にこそ宿る」

池井戸潤の小説によく取り上げられるのは、弱者や敗者が多いのはよく知られていますね。

 

私は全く知らなかったのですが、実際の箱根駅伝でも使われている"MESOC"というシステムが紹介されています。箱根駅伝では遅れたチームが繰り上げスタートをすることがよくありますが、そのままだと順位が前後してわからなくなります。

 

それをコンピューターで修正しながら正確な順位を表示するシステムで、今では他の駅伝大会などでも使われているそうですが、これが日本テレビが箱根駅伝の中継のために開発したものというのを初めて知りました。

 

ストーリーはほぼ予想していた展開で進みます。新人の甲斐監督は、選手個人個人のデータを綿密に分析し、まさに適材適所に選手を割り振り、選手もそれに答える形で徐々に順位を上げていきます。

 

大日テレビの副調整室でも、予想もしていなかった学連チームの躍進に大騒ぎになり、事前取材の少なさや、あくまで参考記録として大会順位には絡まないチームをどこまで取り上げるか、色々な立場での思惑が絡んでいきます。

 

学連チームが最終的に何位になったかはここでは伏せておきますが、最後までワクワクしながら読ませる池井戸潤のストーリーテリングには毎度のことながら感心します。

 

そして最後に語られる、諸矢監督が突然引退して、学連選抜チームの監督を甲斐に託した本当の理由。

 

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今年の箱根駅伝予選会は10月19日に行われ、ここでもドラマがあったようです。

 

来年の箱根駅伝では2年ぶりに学連選抜チームが出走するそうです。あくまでオープン参加で記録に残らない学連チームの参加には、以前から廃止する動きがあるようです。しかしこの小説を読む限りでは、彼らにもランナーとしての目標や矜持があるのがよくわかりました。

 

学連チームの走りは小説のように行くとは思いませんが、少し応援したくなりました。

 

箱根駅伝ファンや日頃ランニングをしている人はもちろんですが、運動に縁の遠い人も面白く読める小説です。