映画「九十歳。何がめでたい」 | 晴走雨読な日々〜Days of Run & Books〜

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晴れた日は山に登り街を走り、 雨の日は好きな音楽を聞きながら本を読む
そんな暮らしがいい!

雨でランイベントが中止になったので、暇つぶしに映画館へ。

 

作家である佐藤愛子さんが92歳の時に発刊された、同名のエッセイ集を元にした実写映画です。彼女は去年100歳になられたので、8年以上前に書かれたエッセイになります。

(当時100万部以上売れたベストセラーだったのを初めて知りました。)

 

 

芥川賞も受賞した小説家ですが、私は残念ながら彼女の小説は読んだことがありません。でも、このエッセイ集をはじめとして、彼女のエッセイ集は何冊か読んだことがあり、かなり印象に残っていました。一言で言えば痛烈な社会時評で、怒りを爆発させながらもどこかユーモアを感じさせる内容に感銘を受けた記憶があります。

 

この映画で佐藤愛子を演じるのは、御年90歳の草笛光子さん。顔付きも似ていて、まさに佐藤愛子がそこにいるかのような、年齢を感じさせない堂々たる存在感のある演技でした。この映画の魅力はそれに尽きます。

 

彼女を担当する編集者・吉川を演じる唐沢寿明もハマリ役。個人的には好きな俳優ではありませんが、今の世ではパワハラ・セクハラ満載の昭和のオジサンを(ちょっとオーバーな仕草ながら)私のような世代には共感の持てる雰囲気を漂わせて演じています。

 

この二人の掛け合いが見どころです。断筆宣言をして悶々とした日々を過ごしていた作家と、仕事人間で会社でも家庭でも見放された冴えない中年の編集者が、お互い気がつかないうちにやる気スイッチが入り、生き生きとした人生を過ごすようになるとは。

 

エッセイに書かれたいくつかのエピソードが映像化されていますが、それがなかなか良いです。特に、子供の声がうるさいからと幼稚園の建設に反対するという新聞記事に対して、人の声がしなくなった戦争中の経験をを引き合いにして、騒音があることこそ平和で活気を感じることができるという内容には、全く賛同できます。

 

スマホは持たず家の有線電話やFAXで連絡を取り、原稿はパソコンやワープロではなく、万年筆で原稿用紙に手書き。TVはうるさい程音量を上げ、新聞の細かい文字は虫眼鏡で読む。そんな一見時代遅れの彼女が、日々の暮らしや世の中の出来事に感じる怒りや戸惑いを綴ったエッセイは、忙しい現代人に少しだけ警鐘を鳴らして立ち止まらせてくれます。

 

彼女の娘役に真矢ミキ、吉川の妻を木村多江が演じ、オダギリジョー清水ミチコLiLiCo石田ひかり、そしてあの三谷幸喜までがチョイ役で出演するという豪華さ。

 

途中で少しだれた展開があるものも、オープニングのエピソードを最後にうまく回収した脚本はなんとか合格点。ちょっと大げさな展開もありましたが、クスクス笑ってちょっとホロリとさせられる、松竹映画の王道ともいえる内容です。

 

でも、今の若者にはウケないだろうな。映画館は予想通りシニア層でいっぱいでした。