夜が明ける前に部屋を出ることにした

支度するまで、も少し時間………

そうヨーコが笑みを浮かべるので、
先に1階エレベーターホール脇のウエイティングルームに出て待つことにした
普通、この手の施設は二人が一緒に部屋を発つものだ


15分待った
エレベーターからは誰も降りてこない
受付のインターフォンでスタッフに問い合わせた
意外な返答があった

お客様は、夕べ、お一人様で入室されましたが。
そのあと、どなたもお見えになられませんでしたよ。
大抵のお一人様なら、間もなくエスコートサービスの方がお出でになり、
お部屋にご案内するのですがね……………

僕は、別段驚かなかった
笑ってしまった
スーパーナチュラル?
いや、白日夢?
詮索するのを躊躇った
思えば、おかしなことが立て続いた、この2日間だったし
部屋に戻って確かめてみるか?
もしや、奴とヨーコとスタッフが、ぐるになって、僕を嵌めてるか、と
しかし、それもやめた

そのまま外へ出ることにした
自動ドアの先、オモテに人影があった
薄暗い街角に、ヨレた中年男のシルエットが浮かんでいる


俺だ

奴さん、だった
ヨーコから携帯にメールがあったんだ
僕に引き合わせる段取りをしてくれた、と言う
しかし、不思議だ。今、メール履歴見たら、過去ログが全部消えてる。

あの、山下のマリーンルージュでのスレ違いも、直前に僕から
「都合が悪くなって遅れる」
とのメールが来て、店に引き返したという
当然、僕は知らない

とりあえず、奴さんの懐かしい店に連れてかれることになった


店まで、ホテルからはさほどの距離ではなかった
奴に、これまでの出来事を打ち明けた
その間、奴は手慣れた感じでミルを轢き、ドリップをセットして、カップにソーサーを添えた
角砂糖の数を聞かれたが、要らないと僕は断った
間もなく、舌が焼けそうな熱いコーヒーがサーブされた

マスターの顔に戻った奴が呟いた
お前さんが訪ねたバーってのは、もしかしたら、無いかもな
僕は無言でカップをすすった
そう言えば、ヨーコって、29年前にこの傍でクルマに轢かれて、死んだんだよな

奴さんも僕も、今、その時になってようやく気がついた
今日が彼女の30年目の命日だったんだ


次回で、ヨコハマストーリーは、終了致します。