結局、ヨーコの幻に振り回された数日間だった
しかし、溢れる想いを確かめ合えた
そんな気がした
何も後には残らなかった
それで、良かった


奴さん
実は、貧しくてもスタイルを崩さぬ、粋なヨコハマ野郎
その空気感は、あの頃と変わらずだった
更に年輪を刻んだ容貌が、ブロンズの彫刻のように僕の精神の片隅に威厳をもって屹立し始めた
「奴」と呼ぶのは金輪際やめよう

彼が旅路の終わりに僕に勧めてきたのは、「横浜三塔物語」巡りだった
中区の港寄りにかなり風変わりな歴史的建造物が3基ある
その3つが同時に美しく見ることが可能な場所がやはり3箇所あって、しかもそれはすべて海の上(正確には海上に後から造られた場所)に位置している
意中の異性と一緒に、その日のうちに回ることができれば、恋は見事なハッピーエンドを迎えるという
一種の都市伝説だ
かなり県庁だか市役所だかの観光戦略の匂いもするが、こんなロマンチックなスタンプラリーもまあ悪くない
「横浜三塔」は、先の終戦後、沖合いに停泊する外国航路の貨物船乗組員が、異国の街を記憶にとどめるランドマークにしたことが起源という
こちらも風情がある
塔の下に一夜の恋を共にした日本人の彼女を残し、未練を感じつつ祖国へ帰るマドロス…………か
想像の翼が際限なく羽ばたく

彼は僕に1枚の地図を手渡し、自分独りでまわれ、と言った
翌朝僕は言われたとおりに実行し、それは難なく済ませることができた
別段の感慨もなかった
当然だ、僕ひとりで歩いたのだから
昼の便でここを発つ前に、彼が切り盛りする日中のレストテラスに顔を出した
無論別れを告げるためにだ

「……全部見たか?」
「ああ、見たよ
 しかし、俺ひとりで回ってどんな意
 味あるんだい?」
「気がつかなかったか……」
「え?」
「俺はお前とヨコハマの街のヨリを戻
 してやった
 お前が30年前に捨てたこの街とな
 最高のスケだろうが」

そう吐き捨て、片眼でウインクしやがった
ヨーコの残影は、ヨコハマの久遠のプロフィールと重なりあって、セピアトーンのレリーフを僕の心に象った

これだから、奴にはかなわない
幾つになっても粋な男は素敵だよ

ヨコハマ▪ストーリー〈おわり〉


次回は、5月から「ホンキートンクYOKOHAMA 」(シリーズ)を連載します。宜しくお付き合いくださいませ。