『アメリカン・フィクション』、『Saltburn』、『ザ・キラー』、『マエストロ』、の見どころを解説
■『アメリカン・フィクション』――皮肉たっぷりの社会派コメディ作品
■アカデミー賞で脚色賞を受賞した巧妙な脚本
■迎合することは悪いこと?
本作では、”黒人のトラウマをネタにして罪悪感を感じさせる”ことが白人を満足させると描いているが、俯瞰してみると、白人に対してもかなりの偏見があることに気づく。世の中そこまで無知な白人ばかりではないと願いたいが、「今こそ黒人の声に耳を傾けるべき!」と声高に叫ぶ白人女性が、そばにいる黒人の意見を全く聞かないシーンには頭を抱えてしまう。
自分では駄作だと思っているものが、世間でもてはやされることで、真の評価や価値は一体どこにあるのだろうか、と考えさせられる。
■『Saltburn』
――毒々さ全開の最狂ゴシックスリラー
名門大学であるオックスフォードに入学したオリヴァーは、上流階級出身の学生たちばかりの大学生活に馴染めないでいた。ある時、上流階級グループのリーダー的存在のフェリックスに自転車を貸すことで、彼と仲良くなる。孤独なオリヴァーを不憫に思ったフェリックスは、ソルトバーンにある豪華絢爛な屋敷にオリヴァーを招待する。ひと夏をフェリックスの家族とともに過ごすことになるのだが……。
■マーゴット・ロビーもプロデューサーに名を連ねる
本作は、キャリー・マリガン主演の『プロミシング・ヤング・ウーマン』で鮮烈な長編映画デビューを果たしたエメラルド・フェネルの長編映画2作目。前作もぶっ飛んでいたが、またとんでもない作品を世に生み出した。
■あっと驚くどんでん返し! でも本当は……?
見どころはなんといっても、オリヴァーの気持ち悪さ。長身でスタイル抜群、さわやか青年であるフェリックスと正反対の薄気味悪さをまとい、劇中で圧倒的な存在感を放つ。SNSでバイラルになったある浴槽シーンがあるのだが、控えめに言って令和最狂の不快シーンだと思う。
■『ザ・キラー』
――病的なまでに完璧を貫く暗殺者とフィンチャーの仕事論
『セブン』、『ファイトクラブ)、『ゴーン・ガール』など数々の名作映画を手掛ける監督デヴィッド・フィンチャー最新作。ほんの僅かな期間のみ劇場公開され、現在はNetflixで配信されている。
空室になった元WeWorkに忍び込み、道を挟んだ向かい側にあるペントハウスを見つめ続ける暗殺者。腕のアップルウォッチで常に心拍数を計測し、冷静で慌てず「ザ・スミス」をイヤホンで聞くというルーティーンを崩さない。ここまでは完璧なはずだったが、些細なことでミスをし、ターゲットを殺しそこねてしまう。暗殺計画が失敗したことで、雇用主から追われ、世界中を股にかけた追跡劇が始まる。
■シャープな映像と実在のプロダクト
この作品のテーマはおそらく仕事論だ。仕事に執着しすぎて完璧主義を貫くあまり、男は孤独になっていく。
■『マエストロ:その音楽と愛と』
――ブラッドリー・クーパーの手腕に脱帽、バーンスタイン夫婦の愛の軌跡を描く
ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団の指揮者として活躍したレナード・バーンスタイン。Netflixで配信中の『マエストロ:その音楽と愛と』は、彼の成功への軌跡をたどるとともに、妻フェリシアとの愛の物語だ。