74
『異空間』和Side~
結局、俺たちは同じ部屋で過ごすことになった。
「ごめん、カズくん。」
楓は部屋に入るなり俺に謝った。
「いいよ。仕方ないし。」
「でも、部屋は少し広いから。」
「まぁ、そうだな。」
楓は、荷物を置くと窓際に立った。
「綺麗だね、景色。」
俺も窓際に立った。
窓から見える景色はすでに薄暗くなっていて遠くに微かに沈む太陽が見えた。
冬だから日の沈むのも早い。
「楓、明日は早いの?」
俺は隣にいる楓を見た。
「ううん。自分のペースで街を回ればいいからゆっくりで大丈夫なの。カズくんは?」
「あぁ、えっと…」
俺は一瞬答えに迷ってしまった。
「大丈夫?疲れてるんじゃない?」
楓は、ふふっと笑って窓際から部屋の方へと行った。
自分の荷物を開けると何やらゴソゴソと中から取り出していた。
そして、俺の方に振り返ると「カズくんも行く?温泉。」そう言ってニコッと笑った。
「えっ、あぁ、そうだな。俺も入ろうかな。」
俺も一応持って来ていた荷物を開けて着替えを出した。
楓と俺と旅館の中を歩き温泉場まで向かった。
「なんか、変な感じだね?カズくんと温泉に来てるなんて。」
「本当だな。」
なんだかこの状況が夢じゃないかとさえ思った。
温泉に入り楓と二人で食事を済ませ、楓がもう一度温泉に行くと言うので俺も旅館の中を少しウロウロと歩いてみた。
廊下の窓から見える景色も綺麗だった。
やっぱり夢かな。
異空間にいるみたいだ。
楓のやつ、こんな高級旅館に知り合いがいるなんてな。
あいつ、すごいな。
高校生の頃のあの楓とはまた違ってずいぶん大人になったんだ。
しばらくして部屋に戻ると布団が敷いてあった。
あ…
布団がぴったりくっついていたので俺は少し隙間をあけた。
いや、もう少し。
さらに隙間をあけた。
もっとかな…
そんなことをしていると楓が戻って来た。
「カズくん、なにしてるの?(笑)」
「あ、いや…ほら。布団が近かったから…」
「ふふ、カズくんらしい。大丈夫だよ。襲ったりしないから(笑)」
「何言ってんだよ、別にそういうことじゃ…」
俺は思わずあたふたとしてしまって楓に笑われた。
だけど、考えてみたら同じ部屋で寝るなんて今までなかったよな…?
俺は急にドキドキと緊張してきた。
「あのさ、やっぱり部屋…別の方が良かったんじゃ…」
「カズくん、今更?だって他の部屋は空いてなかったんだから…」
「まぁ、そうなんだけど…」
「もう遅いし寝ようか…?」
「そう…だな…」
暗くなった部屋で同じ部屋で隣の布団に楓がいる。
それだけで。
いや、俺にとってはものすごく大きなことだ。
目を瞑っても落ち着かない。
それでも眠ろうとした時、楓が話し掛けてきた。
「カズくん?寝ちゃった?」
「いや…起きてる…」
「今日、本当はね。他に部屋空いてたの…」
「えっ?」
「ごめんね、嘘ついた。私…ずっと一緒にいたかったんだ。カズくんと。」
「………」
「今日、偶然カズくんを見かけた時、最後のチャンスだと思ったの。すれ違いばっかりで…私たち…」
「…うん」
「あのノート、ずっと大事にしてるの。」
「俺も…あの手紙。ずっと読んでるんだ。」
目が慣れてきて暗くなった部屋でも隣の楓がうっすらと見えてきた。
「カズくん…私、本当にずっと好きだったよ。今でも…」
「バカ…なんで先に言うんだよ、俺が先に言おうと思ってたのに。」
「………ごめん」
俺は楓の方に体を向けた。
さっき、布団の隙間をずいぶん開けたせいで楓が遠い。
手を伸ばしても届かない。
バカだな。
隙間なんて開けなければ良かった。
「楓?そっちに行ってもいい?」
俺は少しドキドキしながら楓に問いかけた。
続く