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『親友』
枕元で鳴る電話の音で目が覚めた。
ゆっくりと手を伸ばし電話に出た。
―…はい…
―楓?まだ寝てたの?
―…うん…今日はお休みだからね…
―………
電話の向こうはしばらく無言だった。
楓はベッドからゆっくりと起き上がってスマホを持ち直した。
―紗栄子?どうしたの?
―うん…
―なぁに?
―楓、最近二宮くんと…会った?
―どうして?
―うん…なんとなく…ね…
楓は紗栄子の様子がいつも違うと思った。
―カズくんとなんかあった?
しばらく電話の向こうが静かだったが楓は紗栄子の言葉を待った。
―楓会える?会って話したい。
―いいけど…紗栄子なんか変だよ?
―うん…会った時に話すから。そっちに行っていい?
―いいよ。
電話を切って1時間もするとアパートのインターフォンが鳴った。
楓は紗栄子を部屋へと通した。
「今、お茶入れるね。」そう言いながらキッチンに向かった。
楓は沸かしておいたお湯で紅茶を入れた。
リビングのテーブルにそれを置くとテーブルを挟んで紗栄子の前に座った。
「紗栄子、改めてどうしたの?」
「うん…」
紗栄子は紅茶をひと口飲むと楓の顔をじっと見た。
「楓…怒らないで聞いて?」
「なに?」
紗栄子の真剣な顔に楓も眉間にシワを寄せた。
「二宮くんと…いや…あの…楓は二宮くんが好きなんだよね?」
「紗栄子?どうしたの?急に。」
楓は益々不思議に思った。
「うん…あのね…私が悪いの。だから二宮くんの事は嫌いにならないで欲しい。幸せになって欲しいの。」
「ちょっと待って、紗栄子が悪いとか幸せになって欲しいとか…なに?全然分かんない。」
紗栄子はもうどうやって話したらいいのが分からなくなって目から大粒の涙がポロポロと落ちた。
「ちょ、ちょっと紗栄子。どうしたの?なんで泣くの?」
紗栄子は泣きながら頭を下げた。
「楓、ごめん。ごめんなさい。」
「えっ?ちょっとなに?」
楓は何がなんだか分からなくて慌てて紗栄子の隣に移動して背中をさすった。
「紗栄子、どうしたの?」
「楓…」紗栄子は涙を流しながら楓を見つめた。
カズくんと…何かあったんだな、と言うことだけは分かった。
でも…なに?
紗栄子と…カズくんと…?
楓は嫌な予感がした。
「楓…私…二宮くんと…」
「カズくんと…?」
「一晩過ごした…それで…その…」
嫌な予感は的中した。
「紗栄子…もういい。謝らないで。」
「楓?私…」
「分かったから…もう」楓は泣きそうになるのを堪えながら紗栄子を見つめた。
「楓…?」紗栄子も楓を見つめた。
「カズくんに…私、フラれたの。紗栄子が原因だったんだね。私には幸せになれって言っといて…紗栄子はやっぱりカズくんが好きで忘れられなかった。そう言うこと?」
「楓、違う。違うんだよ。二宮くんは楓が好きだよ。私がいけないの。私が…二宮くんに好きだなんて言ったから。優しいから…二宮くんは。」
「…告白したんだ?」
「ごめん…でも、二宮くんは今でも楓が好きなんだよ。私がいけないの。だから…私が泣いたから…だから…」
「紗栄子、どうして私に話したの?嘘だって言って欲しかった。黙ってて欲しかったよ。」
「黙ってるのが辛かった。ずっと楓を騙して嘘付いていくのが辛かった…」
「紗栄子は話せば楽になるけど、私は…私の気持ちは考えなかったの?」
「ごめん…」
「カズくんとはもう会わないから。紗栄子が幸せになりなよ…そう言うことになったってことはさ。カズくんだって…紗栄子のこと…」
「楓…それは違う。二宮くんは今でも楓が…」
「もう、帰って…カズくんが私のこと好きだって翔くんにも言われたけど…違うって。そう言われたから。カズくんに。紗栄子…もう帰って…お願い…」
紗栄子はゆっくりと立ち上がって玄関へと向かった。
楓はドアのバタンと閉まる音を聞いて立ち上がった。
テーブルに置いた紅茶のカップを流しに運んで投げた。
ガチャンっと、音を立ててカップが割れた。
楓はそのままキッチンに座り込んで泣いた。
紗栄子と…カズくんが…?
紗栄子とそう言うことになったからカズくんは私の告白を断ったの?
私…
カズくんに二度もフラれたんだ。
続く